第四十一話 素直になりなよ
「アン・ドゥ・トロワ♪ アン・ドゥ・トロワ♪」
明日はお祭りの本番。
境内の端で、ウズメが夢野のダンス指導をしていた。
「夢野ー、そろそろ日も落ちてきたし帰らんのー?」
「はいっす! デビューの舞台、最高にしたいっす!」
汗だくで踊り続ける夢野。
やる気だけはあるんだよなー、と
ウズメが思っていると、ハナコがふらりとやってきた。
「ウズメちゃ〜ん、元気ぃ?」
「おいーっす、ハナコ
あんたは最近、元気なさそうだし」
「そ、そんなことないよぉ……
ハナコのお祭りだもん、嬉しいよぉ」
「『こんなはずじゃなかった』って思ってるっしょ?」
ハナコが「ふぇ?」と間の抜けた声を出す。
「たろっちが、あんたのために祭りやりたいって
始めてくれたのにさ。あんたのこと全然見てないし
面白くないワケっしょ?」
「もぉ、ウズメちゃん。変なこと言わないでよぉ」
「見てりゃわかるし。
あんた、ひなっちのこと、ナメてたっしょ?」
「……っ! 思ってないよぉ……そんな事ぉ」
「たろっちはあんたに夢中だからって
勝手に安心してたっしょ?」
「ひなっちなんて、からかって遊ぶ対象だったもんねー」
「ウズメちゃん……もう、やめようよぉ……」
「元カレ忘れらんなーいとか、余裕こいてるウチに
ペロっと取られるとかさー、マジでダサくなーい?」
「やめてってぇ……」
「たろっちとひなっちは幼馴染だし
そりゃ、くっついちゃったらスグだし。ウケる」
「やめろって言ってるでしょ!!」
「ハナコだってわかってんだよ!そんな事!」
鋭い怒声が響いた。ウズメはハナコを睨んでいる。
レッスン中だった夢野が、ビクッと動きを止めた。
「……え? 女神様……?どうしたんすか? その……目」
怯える夢野の声に、ハナコはハッと我に返った。
「ご、ごめんねぇ、なんでもないよぉ
ウズメちゃんが変なこと言うからぁ」
いつもの冷静さを取り繕うハナコ。
ウズメは深いため息をついた。
「あんたさー、今の自分、わかってんの?」
「 あんたの羽、濁ってきてるし。
それってヤバいんじゃないの?
……知らんけど」
「嘘……?! そんなこと……っ!」
ハナコが慌てて自分の羽を振り返る。
「自覚はあるんでしょ?」
ウズメの気怠い問いに、ハナコの声が震えた。
「ハナコわかんないよぉ……
これからどうすればいいのかも、なぁんにも……」
「どうすればじゃなくて、どうしたいかっしょ?
……ハナコは何がしたいの?」
「ホントに分からないのぉ
羽なんて消えればいいって思ってるのにぃ……
消えないんだよぉ……」
「誰だって思い出したくないことくらいあるもんよ
あーしだって黒歴史いっぱいだし……」
ウズメは自分の過去を思い出したのか
「うぇ……」と苦い顔をしてからハナコの背中を擦った。
パタパタと揺れる羽を見て顔をしかめる。
「コーチィ、続けていいっすかね?
なんか……美子、お邪魔っすか?」
夢野が恐る恐る声をかける。
「うぅん、いいよ。続けなー」
音楽が再生され、夢野が再び踊り出す。
ウズメはハナコを見て顎で夢野を指す。
「ほら、夢野を見てみなよ。
やりたいことに一直線っしょ?」
ハナコは指された夢野を見て「うん」と呟く。
「ひなっちだって、たろっちだってそうだよ。
あんたの祭を成功させたいって頑張ってんだし
主役のあんたが、そんなんでどうするし?」
「……うん。そぉだよねぇ」
「今は楽しむことだけを考えてみたら?」
「さっき、怒った時みたいに素直になりなよ。
カッコなんて気にせんでさ」
ハナコはようやく、いつもの柔和な笑みを浮かべた。
「ウズメちゃん、ごめんねぇ
元気にしようとしてくれてたのに、怒鳴っちゃってぇ」
「バッ……! そんなんじゃねーし」
ウズメは顔を赤くして視線を逸らした。
「ほらほら! 練習の邪魔だし、さっさと帰りなー
あとは彼ピにでも慰めてもらったら?」
「もぅ、ウズメちゃんたらぁ。……ありがとうねぇ」
ハナコが去った後、ウズメは一人、重いため息をつく。
「……あーしは嫌だかんね。あんたの相手すんの」
「夢野ー! 通しで後一回やったら終わりなー!
明日が本番だし、ゆっくり休みなよー」
少女の踊る影が伸びる。
お祭り前の夜が、少しずつ更けていった。




