第三十九話 カッコ良くなったって思うよ
「太郎くん、お神輿のデザインできたよぉ!」
拝殿に、ハナコさんの明るい声が響き
イチゴのショートケーキのお神輿イラストを渡される。
「あ、うん、ありがとう……」
図面を受け取るが、俺は心ここにあらずだった。
昨日のマンションの件が片付いていない。
「ねぇねぇ、どぉ? かぁいく描けてるかなぁ?」
でも、ハナコさんに相談なんかできない……
『お祭りに反対してる人がいる』
なんてこと、ハナコさんが知ったら1番悲しむから。
「……太郎くん、どぉしたのぉ? 疲れてるぅ?」
心配そうに顔を覗いてきた。
俺はハッと慌てて向き直り、話を合わせる。
「ううん、なんでもないよ、全然気にしないで
ハナコさんっぽいお神輿だよね」
なるべく、悟られないように笑顔を作る。
「……そぉ?」
ハナコさんはコテン、と首を傾げた。
すぐにいつもの無邪気な顔に戻って
「えへへ、だよねぇ」と笑う。
「たーくん、おはよう」
ひなたが神社に来た。つかつかと俺の方に歩いてくる。
「今から喫茶店行くよ」
「八俣さんとアポイント取ってきたから」
「昨日の話、ちゃんとしなきゃ」
いきなり矢継ぎ早に話しかけてきた。
「どうしたの?なんで八俣さんが?」
イマイチ理解しきれない俺は、ひなたに聞く。
「あの後ね、私、八俣さん達のマンションで
八俣さんに会えるまで待ってたの」
「それで、もう一度ちゃんと話ししたいって言ったら
喫茶店で待ち合わせることになったから」
「ひなた、そんな事してくれてたの?」
俺が驚くと、ひなたは当たり前みたいな顔で言う。
「そんな事って……このままじゃダメでしょ?」
「ちゃんと納得してもらわないと」
「わかった、ありがとう、ひなた」
そうだな…今は考えられる事をやっていくしかない。
俺は社務所に向かい、『あるモノ』を掴んだ。
「チャンスくれて、ありがとう、ひなた」
「じゃあ、ハナコさん行ってくるね
帰りにイメージイラスト、業者さんに相談してくるよ」
笑顔でハナコさんに言う。
「……うん、いってらっしゃぁい」
振り返ったハナコさんの笑顔は
どこか無理をさせているように見えた。
クレーム問題だけじゃなくて
大事な何かが上手くいってない気がする。
でも、まずは八俣さんの件を片付けないと
俺はひなたと急いで喫茶店に向かった。
※ ※ ※
喫茶店に着く、八俣さんはまだ来ていなかった。
なんとか待ち合わせの時間より早く着くことができた。
「緊張するなー」
昨日の八俣さんの剣幕を思い出す。
あの揺れるメガネチェーンに容赦のない「ザマス」口調。
思い出すだけで胃がキリキリする。
「大丈夫だよ、ちゃんと話せば
きっと分かってもらえるから」
「たーくんも自分がやりたいって気持ち
ちゃんと伝えるんだよ」
もはや、お姉さんというよりお母さんだ……
「相変わらずだよねー、ひなたは
ずっと子供扱いするんだもんなー」
「そ、そうかな……最近はたーくんの事
ちょっと男らしくなったなって思ってるよ」
「そうなの?どの辺り?」
俺が聞き返すと、ひなたは少し視線をさまよわせた。
「ほら、こうやってみんな集めてイベントする
なんてこと昔のたーくんは絶対しなかったよ」
「なんていうか……
もうちょっと放っておけない感じだったもん」
「それは今もじゃん、こういうクレームに
アタフタしちゃってさー」
「今はちょっと違うよ、ちゃんと前向いてる」
「……か、カッコ良くなったって思うよ」
ひなたは顔を赤くして言う。
いつも世話焼いてくれて、
しっかり者で恥ずかしがりで……
俺が返す言葉に困っていると。
「でも、たーくんが今みたいになったのって
ハナコさんのおかげなんだよね……」
ひなたは視線を落とし。
「私じゃ、たーくんを
成長させてあげられなかったんだ……」
「……いや、そんなこと」
なんて言っていいか分からず、言葉に詰まる。
「たーくん……今は、ハナコさんの事……」
視線を落としたまま、ひなたが続けると、
カランコローン♪
ドアベルがなり八俣さんが到着した。
俺とひなたはシャキーンと姿勢を正した。
手汗が凄い……やっぱり八俣さん……怖い。




