第三十七話 ワン・フォー・オール!
「……えっと、昨日のアレ、どこに締まったっけ?」
テーブルの書類の束をガサゴソ探る。
「ステージの見積書ならカバンに入れたままだよ」
ひなたに言われて「そうだ」と気づき
取り出してファイルにまとめる。
あれから一週間が経ち、準備も追い込みに入ってきた。
華那古神社の拝殿は
今や、お祭実行委員会事務所となっていた。
ハナコさんも隣で動力神輿のデザインを
描いていて、そろそろ仕上がりそうだ。
「どう?ハナコさん、もう少しかかる?」
「……うん、今日中には描き終わるよぉ」
少し俯き加減に答える。
しかし、独特だな……ケーキの神輿か。
ハナコさんらしくて、かわいくていいけど。
でも、最近は少し静かなんだよな。
家に帰ると、いつも通りのハナコさんなのに……
神輿のデザイン、楽しくないのか?
「それじゃあさ、それ終わったら
俺たちと、現場回らない?」
ハナコさんは持っているペンを、ギュっと握って俯く
そして顔を上げ、笑顔になり
「ハナコはいいよぉ、お邪魔になっちゃうしぃ」
「ボランティアのお手伝いするねぇ」
……あれ? そうなの?
一緒に回りたかったのに……
でも、確かに3人でやる事でもないしな。
ひなたもハナコさんを寂しそうにじっと見つめている。
この二人も相変わらずだ……どうしたものか。
「たーくん、そろそろ来人のとこ言って
ボランティアの進捗、聞かないと」
ひなたが急かしてくる。
急かすっていうか、ホントにのんびりしてられない。
天道達とボランティアの人達が連携取れてないと
イベント自体が立ち行かなくなる。
「あ、うん……そうだよね」
「じゃあハナコさん、行ってくるね」
ハナコさんに向かって手を振ると、こちらを向かずに
「……いってらっしゃぁい」
とだけ、小さな声で言う。たぶん笑ってない。
めちゃくちゃ後ろ髪を引かれるけど、行かなくちゃ。
境内に出ると、夢野とウズメさんが特訓していた。
「アン・ドゥ・トロワ♪アン・ドゥ・トロワ♪」
ウズメさんが手拍子しながらリズムを取っている。
……フランス語? なんで? 日本の神では?
「ウズメさん、美子ちゃん、お疲れ様〜」
俺もひなたの挨拶に合わせてお辞儀をする。
「おいーっす、ひなっちとたろっち、おっつ〜」
ウズメさんもいつの間にか
トレーニングウェアを着ている。
現し世にも馴染んできたんだな。
「美子ちゃんの様子どう?」
ひなたも、だいぶウズメさんに慣れたみたいだ。
悪い神ではないんだよな、怖い神なだけで。
「もう、全然まだまだだし!」
夢野に向き直り
「夢野〜!これ終わったら走り込み、
そのあと、柔軟体操してから休憩なー!」
「はいっす……コーチィ……」
夢野も汗だくになり、頑張ってるようだ。
「美子ちゃんも大変そうだね」
ひなたが苦笑いした。まぁ……アイツは自業自得だよな。
「ねぇ、ハナコ、ウジウジしてない?」
ウズメさんが突然、話題を変えてくる。
「うん、なんか様子がおかしいっていうか……」
俺もどうしていいのか分からない。
ハナコさんのお祭りなのに、何か間違ってるのか?
「ふん、あのバカ……」
ウズメさんは、ひなたを見てフッと笑う。
「まー、あんた達は全然悪くないし
一生懸命やっといでー」
そう言って笑顔で、手を振って送り出してくれた。
公園に着くと、来人が滑り台の頂上で指揮を執っていた。
「いいかお前ら! ワン・フォー・オール!
オール・フォー・ワンだぞ!」
『イエッサー! ワン・フォー・オール!
オール・フォー・ワン!』
「全ては地域の皆様のため! はい!」
『イエッサー! 全ては地域の皆様のため!』
「感謝の言葉でお腹も膨らむ! はい!」
『イエッサー! 感謝の言葉でお腹も膨らむ!』
……まだ、たった一週間だぞ。
来人、お前はこの短期間で
一体何階級特進したんだ。
「お、太郎じゃん。お疲れー」
『イエッサー! お、太郎じゃん、お疲れー!』
来人が滑り台をシュルーと滑り降りながら
ボランティアたちに「休め」の号令をかける。
ひなたが「ひぇ〜」と口を開ける。
「あんた……ボランティアの人たちに
何を教え込んだのよ……」
「あ、ひなた先輩も、ご苦労さまでーす。
えっと……適度な運動と睡眠、っすね!」
来人の澄んだ瞳を見て、
俺達は、それ以上聞くのをやめることにした。
「それで、用か?」
「あ、そうそう、天道からテナントの位置と
装飾の位置の図面渡された」
そこから来人と当日のボランティアの動線
華林堂のブース配置について細かく詰めていく。
ひなたは隣で、俺たちの会話を分かりやすく
メモしてくれていた。これが、本当に助かる。
「た、太郎くん! 大変だーーっ!」
そこへ、八上さんが全力で
かつ大袈裟に慌てながら走ってきた。
「八上さん、お疲れっす。どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないよ!
マンションの住民からクレームが来たんだ!」
あ……
そういえばオートロックの高級マンションには
外部から入れないせいでろくに挨拶ができていなかった。
一抹の不安が脳裏をよぎる中、俺たちは
泣きそうな顔の八上さんの後を追い現場へ向かった。




