第三十六話 神の舞
「おいーっす」
「……ったく、ハナコ、神使い荒くない?」
相変わらず、壁をすり抜けてウズメさんが来た。
みんなが一斉にどよめく。
あ、そうかハナコさんは神っぽい事できないし
みんなは、こういうの初見か。
「ごめんねぇ、
でも久しぶりにウズメちゃんに会えて嬉しいよぉ」
ハナコさんはウズメさんに抱きつく。
ひなたは俺の袖をギュっと掴んで警戒する。
やはり、以前ナマコにされたのが怖かったみたいだ。
……俺もだけど。
そんな俺たちを見て、ウズメさんは片眉を下げて睨む。
「で、誰がダンス習いたいって?」
頭を掻きながら、ウズメさんが気怠そうに聞いてくる。
「美子っすけど……」
「誰かに教えを請うほど
美子のダンスは悪くないっすし
こんなチビっ子が本当にダンスなんてできるんすか?」
確かにウズメさんは美子よりも小さい。
胸だけ規格外に大きいが身長は120cmもないだろう。
「はぁ!あんただってチビのクセにナメんなし!」
「あーし、踊りの女神なんだけど?
次、ナメたこと言ったらナマコにするし」
「美子ちゃん、逆らっちゃダメぇ!」
ひなたが怯えながら夢野を制止する。
ひなたの怯えを察して夢野もぐぬぬ…とウズメを睨む。
「とりま、ちょい踊ってみ?」
ウズメさんが催促する。……また、『あれ』を見るのか。
「むぅ……ダンスの神様なら
美子の良さが分かるかも知れないっすね」
そう言ってスマホでミュージックスタート
不思議な何かが始まる。
※ ※ ※
「あんたさー、吐き気するんだけど」
ダンスが終わると、ウズメさんが言う。
これは悪口ではない。
実際、数人が途中で席を立ち
外の空気を吸いに行っていた。
「も、もしかして本当に
美子のダンスってヤバいんすか?」
まるで初めて知ったかのように驚いている。……腹立つ。
「こんだけ不快にさせんのも、才能だけどねー」
「なっ!そこまで言わなくても!
踊りの女神様はそんなに上手いんすか?!」
ウズメさんは、やれやれといった感じで
「さっきの微妙な音楽かけてみ?」
と言って美子の前に立つ。
美子がスマホを操作すると音楽が流れ出す。
——圧巻だった。
短いと思っていた手足が
踊り出すと同時にしなやかに伸びていく。
本当に伸びているのか
それともあまりの優雅さに脳が幻覚を見せているのか。
躍動する褐色の肌、飛び散る汗。
流れるような黒髪のウェーブ。
どの瞬間を切り取っても
どんな名画より美しく、神々しい。
今は1分、1秒でも長く
この光景を魂に刻みつけていたい——
これが数千年の間、磨き続けてきた「神の舞」なのか。
音楽が止まると、全員の目から自然と涙が溢れていた。
静寂のあと、沸き起こるスタンディングオベーション。
因幡さんに至っては、むせび泣きながら名刺を差し出し
必死にスカウトを始めている。
「くっ……完敗っす……」
さっきまで、くねくねと奇妙な動きをしていた
夢野にも、流石に格の違いは分かったらしい。
俺もだ……踊りの神という事は知ってた。
けど、これほどとは……
ただ人をナマコにするだけの神じゃなかったんだ。
「まー、ここまでは無理だろーけどさ
人前に出て恥ずかしくないくらいにはしてやんよ」
すっかり元のチビギャルのウズメさんは
顔を赤らめ照れながら言う。
「ホントっすか!コーチィ!
どこまでもついていくっす!」
夢野は目をキラキラさせながら、ウズメさんの手を取る。
これで、全員の役割が完全に決まった。
お祭り本番まで、残された時間はもう一ヶ月もない。
俺たちはそれぞれの戦場へ向けて
再び力強く歩み出した。




