第三十五話 これが200万のダンスか
「予算クリア! 次は実務っすね」
因幡さんと八上さんが
不毛な言い争いを繰り広げる中で、
俺たちは淡々と会議を始める。
天道は因幡さんと天道ガールズ達と共に
広報をする事が決まってるらしい。
来人は学園の連中をボランティアとして
「タダ働きさせる」という
邪悪なリーダー役を引き受けた。
ハナコさんは主役の『動力神輿』を
自らデザインすることになった。
「……で、俺はやっぱり、また書類作り?」
夢野に尋ねると、彼女は首を振った。
「太郎くんは、見積もりや領収書の管理をしながら
現場監督っすね……あちこち走り回ってもらうっすよ」
「私もそれ、やりたい!」
ひなたが食い気味に身を乗り出した。
「走るのも得意だし、たーくんと一緒に回りたいな」
少し顔を赤らめてそう言った瞬間——
ハナコさんの笑顔が一瞬だけ消えて、ひなたを見る。
そして、すぐに笑顔に戻り
「太郎くん、大変そうだしねぇ
ひなたちゃんと一緒の方がいいかもねぇ」
と言うと、ひなたも笑顔で「うん」と返す。
これ、なんだ? 違和感あるけど
俺、関係あるのか……?
そんな事を思うのは、俺の思い上がりなんだろうか……
などと悶々と考えていると
「お姉様、お祭り中はイチャイチャ禁止っすからね!」
夢野も食い気味に言う。
「しないって!」
ひなたと俺で同時に否定して
目を合わせて、笑ってしまう。
「たっく……ホントっすかねー、頼むっすよー」
夢野が面白く無さそうにブツブツ言う。
「そーゆー夢野は何するんだよ?」
「美子は決まってるっすよ
祭のフィナーレを飾る『巫女ドルステージ』
その練習っすね!」
「だから『巫女ドル』は、
もっとこう、スタイルのいいお姉様が……」
相変わらず来人が口を挟む。
俺はふと気になって尋ねた。
「その『巫女ドル』って
そんなにメジャーなジャンルなの?」
「知るかよ、そんなの」
「え? お前さっきスタイルがどうのって……」
「あんなのノリに決まってんだろ」
「……なんだそれ」
今度は夢野に向き直る。
「夢野、それってどういうことだ?」
「ないっすよ、そんなジャンル。
美子が巫女を目指したときに思いついたっす!」
……ビックリした。
この世に『巫女ドル』なんて存在しない。
夢野の言い切りと、来人の悪ノリで
すっかり、あるものだと思っていた。
「そ、それ……大丈夫なのか?
ちゃんと歌って踊れるのか……?」
恐る恐る聞く、なにしろウチの神社の境内に
巫女ドルの据え置きステージ設置が決まっているのだ。
夢野は胸を張って答えた。
「できるに決まってるじゃないっすか!
そこで見てるっすよ!」
——それは、見る者のMPを奪うタイプの踊りだった。
歌はまだいい。
だがダンスが壊滅的だ。
見ているだけで、言いようのない焦燥感に襲われる。
「……これが200万のダンスか」
天道がボソリと呟いた。
そうだ。
この「何か」のために
俺たちは働かされてきたのだ。
しかもウチの神社で定期開催だと……!
腸が煮えくり返りそうだ。
「どうっすか? 美子のステージは!」
夢野が息を切らしてドヤ顔を決める。
ハナコさんだけがパチパチと拍手し、来人は大爆笑。
因幡さんと八上さんの喧嘩も
このダンスの衝撃で急速に冷えた。
「……ハナコさん。ウズメさん、呼べないかな」
「ふぇ? ウズメちゃん? いいけど、なんでぇ?」
「そんなの決まってるだろ」
俺は今までの恨みを込めて、夢野をビシッと指差した。
「このバカのダンスを
イチから叩き直してもらうんだよ!」




