第三十一話 こんなに世界は綺麗なのに
「あのショッピングモールの場所は
昔はススキ原でねぇ、お友達とよく遊んだのよぅ」
「そうでしたねぇ、夕焼けもとっても綺麗でー
ハナコもトンボたくさん捕まえて遊びましたよぉ」
お婆さんとハナコさんが、昔話に花を咲かせている。
ハナコさんは、この辺りのことを
江戸時代から知っているらしい。
こういう話をさせたら最強の人材だ。
……とはいえ、問題がないわけじゃない。
初対面のお年寄りの大半は
ハナコさんの"羽と輪っか"を見た瞬間
ついにお迎えが来た……と勘違いして
静かに手を合わせて覚悟を決めてしまう。
そのたびに、必死に誤解を解くのが私の役目だ。
私は、昔話には入っていけないので
お婆さんのひ孫の悟くんと、サッカーをして遊ぶ。
いつも、公園にいる子……ここの家の子だったんだ。
「お姉ちゃん、サッカー上手いね」
悟くんが、ボールを蹴り返しながら言う。
「ありがとう、悟くんもサッカー好きなんだね」
蹴り返す。悟くんはプロになるのが夢らしい。
かわいい。
「いつも悟くんがいる公園でね
今度お祭りやるんだ、悟くんも来る?」
「うん、友達も誘っていいの?」
「もちろん、大歓迎だよ」
そんな話をしていると、ハナコさんが戻って来た。
「ひなたちゃん、寄付金、頂いたよぉ」
ハナコさんがお金の入った封筒を持ってくる。
私は名簿を確認しながら、金額を確かめる。
5万……普通の一軒家としては絶対、破格の寄付金だ。
昔話が楽しくなって、つい包んでしまうのだろう。
日も落ち始め、辺りは夕焼けに染まる。
「今日は、そろそろ終わりかな?
思ったより、凄い金額が集まるね」
重くなった集金袋を手にハナコさんと話す。
「お爺さんとか、お婆さんが多いけどねぇ
お話も楽しいし、ハナコ、向いてるのかもぉ」
「お祭り楽しみにしてるって言ってくれたよぉ」
「うん、さっきのひ孫ちゃんも、友達呼んでくれるって」
「そっかぁ、ハナコのお祭り
賑やかになりそうで嬉しいよぉ」
ハナコさんがニコニコして話す。
「ハナコさん、この前、たーくんが話ししてたけど
江戸時代に帰って来たんでしょ?」
「どうして帰って来たの?」
ふと、気になっていたことを口にする。
ハナコさんは一瞬だけ視線を泳がせた。
「あ、えっとねぇ……」
少しの沈黙の後、彼女はポツリとこぼした。
「ハナコ、彼氏と別れて帰ってきたんだぁ……」
「え?どういう事?」
ハナコさんから、いろいろ聞かせてもらう。
大昔、彼氏と楽園を作ろうとして日本を出たこと
その彼氏が、二度と会えない場所に行ったこと
それで1人で日本に帰ってきたけど
今も彼氏を忘れられないこと、いろいろ話ししてくれた。
「そうだったんだ……」
「それって、たーくんも知ってるの?」
「知ってるよぉ……」
「それで、このお祭りやろうって言ってくれたんだぁ」
そっか……たーくんは受け入れて
前に進もうとしてるのか……
「その彼氏さんとは絶対に会えないの?」
「うん、絶対だよぉ
ハナコはあんな風に思わないし
"あの人"の最後はもう決まってるからぁ」
ハナコさんは、夕日を見ながら言う。
「こんなに世界は綺麗なのに……バカだよねぇ」
きっと、その元カレに向かって言ってるんだろう。
何百年、何千年と一緒にいた人と離れるって
どんな気持ちなんだろう。
私の寿命では、きっと分からないんだろうな……
私が黙っていると、ハナコさんは続ける。
「太郎くんは、いい子だよねぇ」
「ひなたちゃんも好きなんでしょ?」
また顔が赤くなる、でも夕日に染まってるから
顔色なんか気にしても仕方ない。
「……うん」と素直に返事する。
「ハナコは、こんな駄女神だからさぁ」
「ひなたちゃん、太郎くんと付き合えばいいよぉ」
「ハナコ、応援するからぁ」
……胸の奥から、黒い感情がせり上がってくる。
悲しみ、怒り、そして何より——惨めさ。
女神の慈悲のつもりか知らないけど
そんな言葉は聞きたくない。
だから、私の言葉は決まっていた。
「あんた、何言ってんの?」
次回、ひなた攻めハナコ受け、乞うご期待




