第二十三話 思い出しても、抱えたままでも、
ハナコとコノハは、落ち着いたカフェにいた。
「現し世の水茶屋、ほんまきれいやわ。
洋風やのに、居心地ええねぇ」
コノハは、そう言って紅茶を啜る。
「だよねぇ、ハナコも雰囲気好き〜」
パンケーキとカフェオレを頼んで、
ハナコは満足そうに言う。
「まぁ…あなたのお姿には、
洋風のほうが似合うんかもしれまへんなぁ」
コノハがチクリと言うと、
ハナコはパンケーキを食べる手を止める。
「“あの方”のことは、本家でも話に出ております」
「…まったく、迷惑な話どす」
紅茶を啜る。
「…ごめんなさぁい」
「あなたが悪いわけやおへんえ」
「“あの人”は、真面目すぎはるんです。
せやから、暗いほうへ行ってしまわはる」
「うん、そうだよねぇ…」
「どうせ向こうでも、自分は間違うてへんて、
言うてはったんやろ」
「それで“傲慢”や言われても、文句は言えしまへんえ」
「コノハちゃん…何も言い返せないよぉ…」
「ハナコが、"あの人"止められなかったからぁ」
「…そういうとこ、どすえ」
「どうして、なんでもご自分のせいにしはるんです?」
「さっきの坊やのことかて、そう」
「なんで、ご自分の気持ちを押さえてまで、
譲ろうとしはるんどす?」
「た、太郎くんは、そういうんじゃないから」
「お願いの契約で彼女してるだけだし…」
「…あのなぁ」
「どうして私に、
そないな言い訳が通用する思てはるんです?」
「“彼女”の契約やったら、
あの坊やに『ハナコさんと別れる』
言わせたら終いどす」
「別れたら“彼女やない”。
それで、女神に戻るだけの話やおへんか」
ハナコはコノハを見つめる。
「そのくらいのこと、最初から分かってはったんやろ?」
「うん……最初は、ちょっとだけ
からかってよーって思っててぇ」
「だんだんとねぇ、
本当に楽しくなって来ちゃったのぉ」
パンケーキをフォークで弄る。
「でも、ハナコが誰かを好きになるのは違うからぁ」
「…なんでですの?」
「だってぇ、ハナコ、まだ羽あるよぉ、
"あの人"の
優しいところ、楽しかったこと、嬉しかったこと
全部、覚えてるよぉ」
「せやさかい、言うてるんどす」
「あなた、このままやと…“あの人”と同じになりますえ」
「本家も、そこをいちばん心配してはります」
「そんな事…!」
「あの坊やとの行く末に、私は興味ありまへん」
「ただ、闇に堕ちた人のために、
ご自分を犠牲にし続けはるんやったら…」
「その結果が何か、あなたも承知のはずどす」
「わかってる、わかってるよぉ…」
「このままじゃいけないってぇ、
ハナコだって忘れなきゃって思ってるよぉ」
「あなたね…」
「そないに全部忘れよう思わんでも、ええんどすよ」
「思い出しても、抱えたままでも、かましまへん」
「また、ゆっくり新しゅう始めたら、ええんです」
「そんなの…太郎くんに悪いよぉ…」
「さっきの、あなたの態度のほうが、
よっぽどあきまへんえ」
「もう、ええ時間どすし、坊やも帰って来てはるやろ」
「戻って、ちゃんと話してきなはれ」
「……わかったぁ」
「今日は、ごめんねぇ…」
「コノハちゃん…ありがとぉ
ハナコ、もぉ少し考えてみるねぇ」
コノハは目を合わせず紅茶を啜る。
ハナコが店から出ていくと、フッと笑って
「やれやれ……ほんま、かわいい人やわ」




