第二十二話 大事な事は二回言う
診察室から、ひなたが出て来きた。
「…大丈夫だって」
「運動で筋肉がちょっと疲れてるだけだから、
ゆっくり休めば大丈夫だって」
「そっか…良かった」
俺は、ほっと肩をなで下ろし、ひなたに駆け寄る。
ひなたの肘にはサポーターが巻かれていて、
昨日の試合の、
いや、その前からの無茶な努力の跡が残っていた。
「俺が言える立場でもないんだけどさ」
「やっぱり一人で頑張りすぎは良くないよ」
「うん、わかってる、仲間を頼らなかったこと
自分ならできるって闇雲に信じてた事が
今回の敗因だし、この結果なんだよね」
そう言って、ひなたは肘を撫でた。
「じゃあ、これからは、ソフトだけじゃなく
たーくんも頼っちゃおうかな?」
ひなたが、無理に笑顔になる。
「俺?…ひなたに、なんかできるかなぁ?」
「頼られるとか、全然、想像つかないよ」
今まで、本当にそうだった、
いつも先回りして、お世話焼いてくれてて
何をすればいいかなんて、全然思いつかない。
「別に、何かして欲しいって訳じゃないんだけどさ」
「そうだ、安心してお腹空いたし、ご飯食べに行こうよ」
そう言って、近くの定食屋に移動する。
俺は野菜炒め定食、ひなたは焼肉定食を頼んだ。
ちなみに、ひなたは大盛りも追加で注文。
「よく食べるねー」
「そう?運動してるからね」
「でも、これからソフトは引退だし
抑えないと太っちゃうかなぁ」
箸を進めながら、困ったような顔をする。
「ひなたも、太るとか気にするんだ」
「あったりまえでしょ!」
「私をなんだと思ってるの?女の子だよ!」
ご飯を口に、かきこみながら怒っている。
「そんな事、言わなくてもわかってるよー」
「夢野に好かれたり、大盛り焼肉定食だけど
ひなたは女の子だよ」
「まぁ、そうなんだけどさ…夢野さんは関係ないけど…」
「たーくんは、こーゆー子、嫌い?」
急に箸を止めて、顔を覗き込む。
ひなたのほっぺに、
ご飯粒がついていたので
「ご飯付いてるよ」と言って取りながら
「そんな訳ないでしょ」
「ひなたを嫌うなんて有り得ないから」
「ふ〜ん」
「ならいいけど…」
ひなたは、赤くなりながら箸を進める。
「…ありがと」と小さい声で言った。
店を出ての自宅まで帰り道、
「ねぇ、最近はハナコさんとはどんな感じ?」
ひなたが突然、聞いてきた。
「どんなって…昨日の見てたみたいでさ…」
「私との?」
「ほら、あの抱き合ってたやつ」
ひなたの顔が真っ赤になる。
「あ〜、あれね!べ、別に深い意味はないのにねっ!」
「たまたま落ち込んでた時、たーくんいたから
つい、抱きついちゃっただけでっ!」
「別に深い意味はないのにねっ!」
早口でまくし立てる。
深い意味はないって二回言ったな。
「俺は、嬉しかったよ」
「辛い時、頼ってくれたんだなって」
「………」
お互い少し無言で歩くと、いつもの公園に差し掛かる。
以前いたサッカー少年がまた道路側で遊んでいたので、
ひなたが少年を注意して通り過ぎる。
「あの子、危ないなぁ」
「そうだよねー、車、好きなのかな?」
「そういえばさ、ひなた
今日は帽子被ってないんだね」
「あ〜、うん」
「あれ、辞めたんだ」
「どうして?」
「自分に自信ないから、
顔、見られたくないなーとか思ってたんだけどさ」
「別に余計に意識して変になってるだけたしね」
空を見ながら、ひなたは続ける
「…それにさ」
「…ハナコさんみたいな綺麗な人と
たーくんが並んでるの見てさ、私、
何、隠れてるんだろって思っちゃったんだよね」
「え……?」
思わぬ言葉に、心臓が跳ねる。
視線を泳がせると、ひなたが少しだけ寂しそうに、
でも真っ直ぐ俺を見ていた。
「ちょ、ひなた、それって…」
「…なーんてね! 冗談だよ、冗談!」
ひなたは慌てて俺の背中をバシッと叩いた。痛い…
「もー!そんなに動揺するんじゃないって!」
笑い飛ばすひなたを見て、俺は少しだけホッとする。
「だって急に、ドキッとさせるんだもん」
「ドキッとしたんだ」
ひなたはクスッと笑って
「帽子があってもなくても、
たーくんは私を見る目、変えたりしないでしょ?」
「そりゃー、うん」
「じゃぁ、それでいいよ」
「そっかー…」
ひなたの風に揺れるショートカットを見て少し考える。
「…なるほどな。ひなた、ありがとう。
なんか少し、わかった気がするよ」
「えー、何よ、それ?」
「訳わかんないよー」
「ううん、大丈夫だよ、」
ひなたの家の前まで着く
「今日はありがとう」
「私こそ、病院付き合ってくれて、ありがとう」
「また明日ね」
俺も挨拶して、ひなたと別れて一人で自宅に向かう。
そうだよな、見た目とかで気持は変わらないよな。
ひなたが帽子を脱いだみたいに、
俺もちゃんと向き合おう。
そんな少しの決心をして玄関を開けた。
次回、ハナコさんとコノハさんの女子トーク
乞うご期待!




