第二十話 カッコ悪いよ
「俺、ひなた達の控室に行ってくるよ」
ハナコさんと夢野に言う。
ひなた、落ち込んでるんじゃないか?
何ができるわけでもないけど
ここで黙っていられない。
「美子も行くっすよ!」
「美子ちゃんはハナコといようよぉ」
「ほらぁ、ひなたちゃん疲れてると思うしねぇ」
「みんなで行ったら気を使っちゃうよぉ」
「むぅ〜、そういうもんっすかね…」
「じゃあ、その次は美子っすからね!」
2人から離れて控室に向かう
スタンドから帰る人だかりの廊下に、
ひなたが下を向いて歩いていた。
「ひなた!」
呼び止めると、帽子で顔を隠し振り向く。
「たーくん…」
「負けちゃった…」
「インターハイ…終わっちゃた…」
弱々しい声で、ひなたが言う。
全然そんな事ない。
夢野が見せてきたスコアブックが、頭をよぎる。
ひなたは、誰よりも頑張っていた。
「凄くカッコよかったよ!」
「ひなたは誰よりも輝いてた!」
ひなたは帽子を抜き捨てて、俺の胸に飛び込んで来た。
ボロボロと涙を、こぼして泣いている。
始めてだった。
こんな、ひなたを見るのは。
「カッコ悪いよ…」
「…違ってた。引っ張ってたつもり、だったのに」
「…一人で、勝手に、いけるって思ってただけだった」
「みんなに…申し訳ないよ…」
「エースなのに…全然ダメだった…」
俺は黙って肩を抱いた。
何も言葉が出てこなかった。
あんなに活躍していた。
誰よりも一生懸命だった。
いつも世話を焼くお姉さんをしてくれていた。
そんな、ひなたが腕の中で
こんなにも弱々しく、小さく収まっていた。
さっきまで聞こえていた。廊下の雑踏が聞こえない。
ひなたの心音と泣き声、そして後悔の言葉を
しばらくそのまま聞いていた。
※ ※ ※
ハナコさんと夢野がいる観客席に戻る。
閉会式が始まってるようだ。
ひなたもスタジアムに戻っている。
あれ?
ハナコさんがいない。
「ただいま、ハナコさんは?」
夢野が俺に気づいて、顔をしかめる。
「あー、浮気者の太郎くんっすねー」
「女神様なら帰ったっすよ」
「へ? う、浮気者?」
「そーじゃないっすかー!」
「ひ、ひなたお姉様と…、距離、近かったし…」
夢野は両手で、頭をガシガシ掻いている。
「み、見てたの?」
「やっぱり美子も、と思って
女神様と行こうとしたんすよ」
「そしたらお姉様…太郎くんに抱きついて…」
更に激しく頭を掻く、
せっかくの姫カットがグチャグチャだ。
てか、ハナコさんに見られてたのか…
「ハナコさん、どんな感じだった?」
「もー、知らないっすよ!」
「美子の心はめちゃくちゃっすよ!」
「そ、それはゴメン…」
「あのねー、言っとくっすけどね、太郎くん」
「2人いっぺんとか絶対ダメっすからね!」
夢野が頬を膨らませながら言ってくる。
「そんな事、わかってるよ…」
さっき俺の胸で泣いていた時の、
あの細い肩の感触だけが、いつまでも手に残っていた。
スタジアムでは、ひなたが準優勝の表彰をされていた。
表に立つ、ひなたは凛としていて夢野が言うような
「カッコイイお姉さん」だった。
ひなたと太郎を見た、ハナコさんの心情は?
また次回もお楽しみに!




