第十九話 ひなた無双
「ソフトの勉強いっぱいしたんすよー!」
土曜の試合の日、観客席でウキウキしながら夢野は言う。
「ひなたお姉様、無双っすね!」
「準決勝までは、ほぼ完封じゃないっすか!」
確かに、全然相手を塁に出していない。
マウンドに立つひなたは、
いつもより少し遠くて、眩しかった。
「ほら、今の打者も全然、的を絞れてなかったっすよ!」
「もう相手、手も足も出てないっす」
周りの観客も、どよめいている。
ハナコさんも、よく分からないまま拍手していた。
「…ひなた、凄いよ」
そんな言葉を漏らすと
ハナコさんが、ニコッとして、こっちを見る。
「ハナコも、よくわかんないけどぉ」
「ホントだよねぇ、太郎くんには、勿体ないかもぉ」
また、以前の会話を思い出す。
――ひなたちゃんはいい子だよぉ――
そんな事は、分かってる…
でもハナコさんがダメだから、
ひなた…なんて、絶対ダメだろ…
「……今は、ひなたの頑張りを見てあげて
ずっと、頑張ってたんだしさ」
「あ、そうだよねぇ」
「ごめんねぇ、余計なこと言っちゃってぇ」
「いや、別に謝らなくても…」
「もーなんなんすか!あんた達は!」
夢野がピシャリと言う。
「ネチネチした夫婦喧嘩みたいな事、やってないで
ひなたお姉様の勇姿に注目するっすよ!」
「いやいや!夫婦じゃないし!」
俺の弁明など、既に夢野の耳には入っておらず
こちらの攻撃に入り、
ひなたもマウンドから下がったところで
夢野は、過去の試合のスコアブックを見ている。
どこで手に入れたんだろ?
「ひなたお姉様、疲れてるんじゃないっすかね」
「そりゃピッチャーだし、大変だよな」
「そうじゃなくて、準決勝までの進塁が
全部、エラーからなんすよね」
「得点もほとんど、ひなたお姉様、絡みだし…」
「ワンマンチームって感じなの?」
「まぁぶっちゃけ、そうっすね」
「全部、背負い込んでる感じっす」
ウチの攻撃も終わり、再び、ひなたがマウンドに立つ。
現在は4回表、2-0でリードしている。
「あれ?」
「どうかしたんすか?」
「帽子、気にしてる…」
「帽子を触ってる時って、
ひなた、自信ない時なんだよね」
「そうなんすか?」
「うん、昔からそうだよ」
「それに…なんか肘、押さえてるような」
「前回の守備から、ボール球が増えてるっすね」
「もし、肘、痛めてるなら休まないと…」
夢野が真剣な顔で、マウンドを見る。
たぶん、ひなたの代わりはいない。
過去のスコアブックが証明している。
ひなたは初ヒットの二塁打を、許すと
2度のファーボールを出し
この回を一失点で抑えて守備を終えて
マウンドを去る。
「ひなたちゃん、辛そうだったねぇ」
ハナコさんが、心配そうにして言う。
「うん、身体…限界なんじゃないかな…」
「ひなたお姉…いや、
先輩、もうマウンドに上がって来ないで…」
夢野が、スコアブックを強く握って、
今にも泣きそうになっている。
俺はどう思ってるんだろう。
ひなたが、いつも練習していたのを知っている。
きっとこの日の為なんだ…負けないで欲しい。
でも………
打者でひなたが立つが、
空振り三振で攻撃が終わる。
遠くからでも、苦しそうな顔をしているのがわかる。
5回の表2-1
ひなたはマウンドに立っていなかった。
試合は、
大差で負けてしまった。
スコアボードの数字だけが、やけに現実的に見えた。
次回、落ち込むひなたに駆け寄る太郎…
お楽しみにー!




