第十七話 未練
誓いの儀式の後、
家に帰り親父に華那古神社の資料をもらう。
慶長十七年創設…
ウチの神社、江戸時代から始まってるんだ…
やっぱり…そういう事なのか…?
お風呂上がりのハナコさんが、
そんな俺を見て、悲しそうにしている。
「あのねぇ、その資料、
間違ってはいないんだけどねぇ」
凄く言いにくそうにしている。
そんな顔、させたいんじゃないんだけどな…
「別にいいじゃん、そういう歴史があったってだけで…」
「ハナコさんは、外国の神様みたいの、なんでしょ?」
「違うんだよぉ…ハナコは日本の女神だよぉ」
「たぶん、パパさんも誤解してるのぉ」
「え?そうなの?」
「うん、でも本当の事を言うと太郎くん傷つくかもぉ…」
「でも変な嘘とかつくの嫌だしぃ」
「それが嫌で、見られたくなかったのぉ」
「…どういう事?」
「あのね、ハナコ…彼氏いたのぉ」
「すっごい昔、ね…
その彼氏と一緒に日本から出たんだぁ」
一瞬、思考が止まる…
「…彼氏いたんだ」
そりゃそうだよな…人間だって十年二十年もすれば
恋人とかてきるんだし、
一万年以上、生きてるハナコさんに、いない訳がない。
でも、改めて聞くと胸がズキッとする。
「うん、その彼氏と、外国で数千年、一緒にいたのぉ」
「御神体は、お別れの時に渡された物なのぉ…」
「こんな話、嫌だよねぇ…ごめんねぇ」
「…いや、いいよ、ホントの事なんだもん」
「でも、別れちゃったの?」
気にしていない様に、なるべく自然に話する。
でも数千年って………。
でも、大丈夫…過去の事だし、
もう終わった事だと、自分に言い聞かせる。
「うん、もう会えない場所に行っちゃったのぉ」
「悪い事したわけじゃないんだけどねぇ…」
「その後も向こうでしばらく、
ウジウジしてたけどぉ…
このままじゃダメだぁって、
一人でこっちに帰って来たんだぁ」
「…そうなんだ」
「ウズメちゃんが、前に神様は"なりたい姿"でいる
って言ってたの覚えてるぅ?」
「うん、覚えてるよ、
どうして羽と輪っかあるのかな?って思ってた」
「これはねぇ、きっと"未練"なんだよぉ」
「忘れたいのに、忘れられてないんだぁ」
「今はもぅ、いらないのにねぇ…
ちょっと、カッコ悪いよねぇ」
そう言って寂しそうに笑う。
過去だけじゃないんだ、ハナコさんは今も…
元カレの未練か、
俺は、数千年も一緒にいた人、いや、
神様に勝てるのか…そんな訳ないよな…
嫉妬なのか諦めなのか、よくわからない
よくわからない感情で頭がまわらない…
「太郎くん?」
「…ゴメン、返事遅れた…そっかー、
やっぱり神様はスケールが違うねー」
「…太郎くんにはさ、ハナコみたいな
元カレに、未練タラタラしてる彼女は似合わないよぉ」
「ひなたちゃんの方が、いいんじゃないかなぁ」
「なんで急に、ひなたの話するんだよ」
「知ってるくせにー」
「太郎くんだって、気づいてるくせにー」
「………」
「ハナコの姿は太郎くんを、ずっと傷つけるよぉ
嫌だなぁ、そんな太郎くん見るの…」
「ひなたちゃんは、いい子だよぉ」
「………」
言いたいことは、あるはずなのに…
でも、それが何なのか分からなくて、
全然、違う言葉になる。
「…そんな事、言われてもさ」
自分で言っておいて、
そんな事って何だよって、つっこんでしまう。
ハナコさんは何も言わず、
ただ、俺の言葉の続きを待っていた。
その視線が、やけに重たくて、俺は目を逸らした。
「…うん、だよねぇ」
「ごめんねぇ、変な事言ってぇ」
どういえば良かったんだろう…
ハナコさんが喜ぶ顔が見たくて
ハナコさんの為に、神主になる事を決めたのに
逆に悲しませて、辛い思いになるとは思わなかった。




