第十四話 美子、巫女になるっす!
「今日は、また転入生を紹介します」
担任の言葉に、教室が瞬時にざわついた。
ハナコさんが来たばかりなのに
なんで、またうちのクラスなんだ?
……いや、考えるだけ無駄な気がするな。
「夢野美子さん、入ってきてー」
現れたのは、
艶やかな黒髪を切りそろえた姫カットの女の子だった。
小柄で華奢なそのシルエットは、
ダイナミックなハナコさんとは対照的だ。
……きっと、消え入りそうな声で喋る
守ってあげたくなるようなタイプなんだろうな。
そんな俺の勝手な予想は
次の一言で粉々に打ち砕かれた。
「夢野美子っす!
将来は最強の巫女になるっす! 以上っす!」
……声、でかっ。
しかも、自己紹介で将来の夢を語る奴、初めて見た。
ガタッ!
やはり天道が動いた。
ハナコさんの時もそうだったが、
こいつは新キャラには、まずは動くらしい。
つかつかと教壇へ歩み寄ると
有無を言わさない「黒板ドン」を炸裂させた。
「ようこそ、僕たちのクラスへ。
僕は天道……天道カケル……よろしくな」
「キャー! 天道くーん!」
「ダメよ、夢野さんが刹那で惚れちゃうー!」
周囲の女子から、歓声と嫉妬が上がる。
「あ、はい。よろしくっす」
「……えっ。そ、それだけかい?」
流石の天道も、あまりに淡白な反応にたじろいだ。
「美子、巫女になるんで、純潔を守りたいんすよ
それに、あんまり男の人には興味ないっす」
……あの天道カケルが、まさかの秒殺だと?!
珍しいパターンの撃沈劇に教室が静まり返る中
ハナコさんが「は〜い」と呑気に手を挙げた。
「ここに女神と、神主さんがいますよぉ」
夢野がピクリと反応し、ハナコさんを凝視する。
「……どーゆーことっすか?」
「ハナコは華那古命なんですぅ
で、こっちの太郎くんは、
華那古神社の後継者ですよぉ」
その瞬間、夢野の目が見開かれた。
「あの、華那古神社の跡取りっすか!?」
「あ、うん。一応そうだけど……」
「見てきましたよ、あの神社! なんすか!?
あのボロボロのまま放置された無残な姿は!
あんなんじゃ、だーれも参拝しないっすよ!」
「あ、はい……なんか、その、スミマセン……」
「最高っす! 最高じゃないっすか!」
「……へ? 最高?」
「美子が、あの廃れきった神社を
劇的にビフォア・アフターさせるんすよ!
ボロ神社をゼロから復活させた伝説の巫女……
一躍、時の人になって、そこから絶対に恋愛しない
『最強の巫女ドル』としてデビューするっす!」
「巫女ドルだとぉ!?」
来人が立ち上がり、大げさに驚愕した。
「お前なぁ、
巫女ドルってのは純潔だけじゃ務まらないんだよ!
もっとこう、グラマラスなお姉様がやるもんなの!
お前みたいなチンチクリ――ドゥフッ!!」
夢野の鋭い正拳突きが
来人のみぞおちにクリーンヒットした。
来人は白目を剥き、そのまま床に沈んでいく。
「とにかく、まずは再建っす! 掃除っす!」
夢野は殴った方の手首をプラプラと振りながら
威圧感たっぷりに俺に微笑む。
「インスタに上げながら、
一気にバズらせるっすよ。週末、いいっすよね?」
「……はい、全然問題ないです。喜んで」
泡を吹いてピクピクしている来人の二の舞は御免だ。
俺は即座に直立不動で答えた。
「じゃあ決まりっす! 忘れないでくださいね!」
また、とんでもないのが来ちゃったな……
でも、この時の俺はまだ知らなかった。
この週末の神社掃除が
俺にとって人生の「決断」を迫られる日になることを。




