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女神な彼女  作者: なつみかん


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第十二話 ソフト部防衛戦

放課後。俺とハナコさんは、

ソフト部の部室がある「部室棟」へとやってきた。


ちょうど今、ひなたが練習の準備のために

部室の扉をくぐったところだ。


――相撲部 ソフト部 アメフト部――

古びたプレートが申し訳程度に引っかかっているだけの

コンクリート打ちっぱなしの質素な建物が並ぶ。


……というか、なんだこの並びは。

ソフト部が不憫すぎるだろ。


ハナコさんはいつものように人差し指を口元に当て

珍しそうに部室の建物を眺めている。


今回は俺たちが「防衛側」ということで

先に現地入りして防御を整える猶予が与えられた。

フェアプレイ精神を忘れない。……流石は天道だ。


……とは言うものの

手元にあるのは、さっき拾った竹箒たけぼうき一本だけだ。

ハナコさんが加勢してくれるとはいえ

最前線に立たせるわけにもいかない。


さて、どうしたものか……

作戦を練る俺の隣で

ぽやーっとしたままのハナコさんが不意に口を開いた。


「ねぇねぇ、太郎くん?」


「ん、なに?」


「朝、来人くん。

 ハナコのパンツを見ようとしてたよねぇ」


「あ〜、うん。そんなことしてたね、あいつ」


「……『そんなこと』、なんだぁ」

ハナコさんの声が、少しだけ低くなった気がした。


「ハナコは裸でも下着でも、

 あんまり気にしないんだけどさぁ……」


「えぇー、そこは気にしようよ」


「そうじゃなくてねぇ

 ハナコの時は、太郎くん

 こんなに本気で怒らなかったよねぇ?

  なんでぇ? ハナコなら、

 他の人に見られてもいいって思ったのぉ?」


「……えっ?」

鋭い指摘に、言葉が詰まる。


ひなたの時は、あんなに必死になって

「絶対許さない」と叫んだのに。

ハナコさんの時は……なぜだろう。

うまく言語化できない感情が胸の中で渦巻く。


その時――


――作戦を開始する。これは訓練ではない

  繰り返す、これは訓練ではない――


無駄に重厚な、来人の声がメガホン越しに響いた。


「……来たな」

答えを保留したまま、俺は竹箒を握り直した。


「ハナコさんごめん、その話は後ね!」

俺は竹箒を槍のように構え、迫りくる気配を迎え撃つ。

「危ないから、後ろに下がってて!」


直後、放り込まれた黒い物体が

地面で灰煙を出し部室前を包み込んだ。煙花火だ!


「くそっ、視界を奪うつもりか!」


「ホゥアッチャー!!」

煙を切り裂き、ヌンチャクを振り回す

天道が躍り出てきた。


「こいつ……武器が進化してやがる!」

慌てて竹箒の柄で受け止めるが

衝撃が重い。ビリビリと両手が痺れる。


ヌンチャクの連撃は速く、鋭い。


防戦一方の俺は、

足元がおぼつかなくなり、畳みかけられる。


……ダメだ、このままじゃ押し切られる。そうだ!


俺は一か八か、竹箒のふさふさした毛の部分を突き出し

天道のヌンチャクを強引に絡め取った。


「やるな、太郎くん!」

武器を封じられた天道は、不敵に笑うと

同時に背中から「予備」のヌンチャクを取り出した。

お前の背中の収納スペース、どうなってんだよ!


激しい攻防が繰り広げられる中

ふと視線を走らせると……なにィィ!!


ソフト部のプレートが掛かった扉の前に

来人が到達していた。

その背中には、あの段ボールを背負っている。


「来人! お前、いつの間に!」


「ハハハ! 天道は囮だ!

  俺はその隙に、段ボールほふく前進を完遂した!」

「ミリタリーを舐めるなよ!」

来人はそう叫ぶと

手慣れた手つきで部室の鍵をピッキングし始めた。

ミリタリー関係ないだろ、その技術!


天道の猛攻を凌ぐのが精一杯の俺に、止める術はない。

ハナコさんはといえば、扉のすぐ横に立って

来人の作業を「ほぇ~」と感心して見守っているだけだ。 


万事休す……


「ま、待てよ、来人!

 お前、覗くんじゃなかったのか!?

 そんな正面突破、一発アウトだぞ!」


「バカヤロウ!」

カチャリ、と鍵が開く。

「俺はこの一瞬に人生を掛けてるんだよ!」


完敗だった。覚悟の次元が違いすぎる。

俺はいかに自分が中途半端な覚悟で生きてきたかを

この変態の背中に教えられた気がした。


来人が、勝利を確信した満面の笑みで

扉を勢いよく開け放つ。

しかし、そこから現れたのは……


山のように巨大な、ふんどし姿の裸の男たちだった。

「……何してるでゴワスか?」

「男が、ワシらの着替えを覗きでゴワスか?」

「ちゃんこ。こいつをちゃんこにしてやるでゴワス!!」


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

阿鼻叫喚の悲鳴と共に、

来人は相撲部の屈強な腕に絡め取られ、

暗い部室の奥へと引きずり込まれていった。


……あれ?

プレートは確かに「ソフト部」だったはずなのに。


「プレート、お隣と取り替えたよぉ」

ハナコさんが、模様替えしたかのような軽さで言った。


そうか……その手があったか。

俺も、天道も、来人も……

結局はハナコさんの手のひらで

踊らされていただけだったのか。


「ふぅ……太郎くんも、結構やるじゃないか」

天道は肩で息をしながら、

清々しい笑顔で握手を求めてきた。


戦い終えた後のライバル同士のような絆。

だけど、正直、俺はただ竹箒を振り回しただけだ。


「うわ、なにこれ?  ケムリ?」

隣の「相撲部」のプレートが掛かった部室から

着替えを終えたひなたがひょっこりと顔を出した。


「たーくん? ハナコさんも、何してるの?」


勝利したのは、武器を手にした俺や天道、

覚悟を決めた来人でもなく。

ニコニコと微笑む女神の悪戯いたずらだった。

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