第十話 最初からこのつもり?
「あ、あのねっ……!」
ひな姉が言葉を詰まらせ、俺はゴクッと喉を鳴らす。
彼女の帽子の隙間から見える瞳は
真っ直ぐに俺を射抜いていた。
「あれぇ? こんなところで何してるのぉ?」
その瞬間、空気を読まないハナコさんの声が降ってきた。
見ると、ハナコさんはニヤニヤと
すっごく嬉しそうにこちらを覗き込んでいる。
「ハナコさん!? どうしてここに……」
「たまたまだよぉ。
歩いてたら、太郎くんとひなたちゃんがいたからぁ」
そんな「たまたま」があるか。
だいたい、ウズメさんと空へ飛んでいったはずだろ。
「それでぇ〜? 二人で何してたのぉ?」
ひな姉は真っ赤な顔で口をパクパクさせ
金魚のようにアップアップしている。
ハナコさんはその様子を眺めながら
くすくす楽しそうにしている。
「やっぱりぃ、ひなたちゃんはかぁいいねぇ〜
本、返しに来てくれたんでしょぉ? ありがとぉ」
ひな姉がハッとして、何かに気づいたように叫んだ。
「……さ、最初から、このつもりだったの!?」
「 こうなると思って、わざと留守にしたの!?」
「 もしかして、ずっと見てたわけ!?」
彼女はハナコさんの肩を掴み
前後にガクガクと揺さぶる。
ハナコさんは揺らされながら嬉しそうに目を細めていた。
「ずっとじゃないよぉ、
ちゃんとお買い物してたもん。……途中からだよぉ」
「途中!? 途中ってどこからよ!」
「太郎くんがブランコに乗って
楽しそうに揺られてるところ……かなぁ。
すっごい、『女の子』してたねぇ」
ひな姉の頭頂部から、しゅーーっと湯気が立ち上る。
「……ねぇ、ひな姉」
俺は恐る恐る声をかけた。
「な、なに……?」
「ひな姉って呼ぶのは、嫌なんだよね?
これから、なんて呼べば……」
「バカ! 知らないよ、そんなの!!」
完全にテンパっている。どう見ても余裕なんてない。
「えぇと。
じゃあ今更『先輩』って呼ぶのも変だし……
『ひなた』でいいの?」
ひなたはさらに顔を赤くして視線を泳がせながら
「う、うん。いいよ、別に……」
と蚊の鳴くような声で答えた。
「ひなたちゃん、良かったねぇ」
ハナコさんのニヤニヤが止まらない。
「……ったく、ハナコ、やっぱ性格悪いし」
木陰から、やれやれと首を振ってウズメさんが現れた。
……が、俺はその姿を見て絶句した。
フリル全開のミニスカート。
どこで見つけたのか派手なキャラクターTシャツ。
褐色の肌も相なり、ぱっと見、元気な小学生だ。
「ちょ……誰? この子供」
ひなたが怪訝な顔でウズメさんを見やる。
「はぁ!? ちょっと背が高いからってナメんなし! !」
「ぷっ……ダメだよぉ、ひなたちゃん
ウズメちゃんはこれでも、立派な女神だよぉ」
「だって、小学生みたいな……
っていうか、それキッズ服でしょ?」
ひなたの直球な指摘に、
ウズメさんは顔を真っ赤にして棒立ちでフリーズ。
今度はウズメさんが固まる番らしい。
「ハナコさん……
結構こっちのファッションのこと、調べてたよね?」
「うん。
かぁいいのが多いから、気に入っちゃってぇ」
「……ってことは、
ウズメさんの服。わざと選んだよね?」
「えへへ〜、でも似合ってるでしょぉ?」
似合っているというか、なんというか……
胸元だけが規格外すぎるせいで
Tシャツに描かれた『ペカチュウ』の顔が
横方向に無残なほどビョ〜〜ンと伸びきっている。
「……っ、ふふ、
あははは! 面白すぎるよ、それ!」
ひなたが耐えきれずに吹き出すと
俺とハナコさんもつられて大爆笑してしまった。
次の瞬間――
ポポポンッ!!
乾いた破裂音が連続して響き渡る。
視界が急激に低くなり
俺たち三人は「ナマコ」になって地面に転がっていた。
ヤバい……さっきの父さんの気持ちがよくわかる。
今……猛烈に、海水が欲しい……




