◆第71話:家族の魔力、一振りの剣に◆
館の広間に、エクリナ、ルゼリア、ライナ、ティセラが集まっていた。
午後の光が差し込む中、ティセラがテーブルの上に袋を置き、静かに口を開く。
「皆さん、集まってくれてありがとうございます。
今日は……セディオスのために、新たな魔剣を造ろうと思いまして」
「おおっ!もちろん手伝うよ!」
「私も、全力で協力します」
ライナとルゼリアが即座に応える。
「我らは、何をすればよいのだ?」
腕を組んでいたエクリナが問うと、ティセラは袋から色とりどりの魔晶を取り出し、テーブルの上に並べた。
「この魔晶に、それぞれの魔力を注いでほしいのです。まずは発動テストを兼ねて、各自10個ずつお願いします」
「うぉ~……地味だけど、なんかワクワクするね!」
ライナがさっそく一つを手に取り、目を輝かせる。
ルゼリアは黙って魔晶を見つめた後、手のひらに置き、集中して魔力を注ぎ始めた。
「結構……魔力が要るんだね?」
「これは“魔力の流れ”を一定に保たないと失敗します。……訓練にもなりますね」
ルゼリアが冷静に呟くと、ライナが小声で「くぅ、先に言ってよ……」と笑いながら苦戦していた。
ライナの魔晶は一度ぱちんと火花を散らし、彼女が慌てて息を整える。
「わ、わっ! 今のナシね! ちょっと緊張しすぎた!」
──その後、魔晶がそれぞれの色に淡く光り始める。
家族の手で、“力”の欠片が着実に刻まれていく。
◇
ティセラの工房――
室内には、各属性に分けられた魔晶と魔法陣の図面が所狭しと広がっていた。
「魔晶の強度的には……中級魔法までなら安定発動可能。
属性ごとの魔法式も刻めたし、あとは複合対応の構成に移行すれば……」
ひとりごとのように呟きながら、ティセラは魔力測定装置の数値を確認する。
――コンコン。
控えめなノック音に振り返ると、エクリナが扉の隙間から顔を覗かせていた。
「ふむ、少し休憩といかぬか?」
「ええ、ちょうど切りのいいところでした」
二人は工房内のソファーに腰掛ける。
「セディオスの状態は、安定しているのだな?」
エクリナの問いに、ティセラは頷く。
「ええ、魔核への負荷はありましたが、心臓自体の機能には問題なさそうです。
いまは慎重に様子を見ています」
「……うむ。それを聞いて、安心した」
エクリナは小さく息をつき、ティセラの方を見やる。
「剣の設計も含め、いつもすまぬな。うぬの手を借りることばかりだ」
「ふふっ、もはや趣味みたいなものですし、気にしないでください」
ティセラは照れたように笑いながら、胸元で手を組んだ。
静かな休息の時間――
だがその裏では、確かに“家族の力”が集まり、新たな剣の礎が築かれつつあった。
すべては、神との戦いで 魔核が減退してもなお戦い続けようとする男のために。




