◆第63話:玉座にて咆哮す◆
玉座の間――
深紅の絨毯が引かれた広間を、エクリナとセディオスが静かに歩む。
背後には、仲間たちが命を賭して守った扉。
「……行くぞ」
「ああ。共に果たそう」
空気は張り詰め、時間が凍るようだった。
重厚な玉座に、かの者は座していた。
「ようこそ、吾の愛しき“実験体”たち」
魔哭神ヴァルザ。
彼は相も変わらぬ微笑を浮かべ、片肘を玉座に預けていた。
「エクリナ……ついにここまで来たか。意思を持った玩具ほど面白いものはない」
そして、隣の男に目を向けた。
「ほう、人間か。玉座までたどり着いたのは初めてだ。賞賛に値する」
ヴァルザは立ち上がり、片手を掲げる。
闇と輝きが交差するような魔力が渦巻き、
杖――魔導戦具《律創杖剣〈レギオン・セファル〉》がその手に現れる。
「ならば……褒美をくれてやろう。全力の“破壊”を、な」
その瞬間、天井から奔流のような魔力が降り注いだ。
高位空間分断魔法〈ディメンショナル・カスケード〉。
大地が歪み、空間が引き裂かれる。
「……遅いッ!!」
エクリナが《魔盾盤ヴェヌシエラ》を展開し、空間防御壁で迎え撃つ。
セディオスはその影から一気に踏み込み、抜刀。
「通らせてもらう」
閃光の一閃――剣撃が直線的にヴァルザを狙う。
「ふん……浅いな」
ヴァルザの杖の先端に槍の刃を備え、セディオスの剣を弾いた。
瞬時に回転し、衝撃をそのまま返すように柄を突き出す。
「ぐっ……!」
セディオスが後方に飛ぶ。
「ならば、次は――これだ」
杖から槍、そして両刃の大剣へと姿を変える。
「セファル=クレイモア、展開」
ヴァルザの一撃。大剣と剣がぶつかり合い、魔力の火花が散る――
だが、圧倒的な質量と威力がエクリナの《魔盾盤ヴェヌシエラ》ごと押し切った。
「ぅ、あ……!?」
圧縮した空間が破られ、彼女の身体が宙に弾かれる。
「エクリナッ!!」
続けざま、杖がさらに変化する。
分割された刃が異空間から現れ、杖と合体する。
第三形態――両刃大斧《ヴァスト=ディバイダー》。
「斬って、砕いてやろう!」
轟音。床石が砕け、衝撃波が玉座の間を駆け抜ける。
《深淵纏装ドミヌス・クロア》が斬撃を防ぐが、結界が悲鳴を上げて砕ける。
眩い閃光が視界を塗り潰し、耳に残るのは轟く金属音と骨を軋ませる圧力だけ。
吹き飛ばされるエクリナの身体を――セディオスが背で受け止めた。
衝撃で膝が沈む。
それでも剣士は倒れず、彼女を立たせるために踏みとどまった。
「……くっ、エクリナ……っ」
「うぬこそ……無理を……」
セディオスはエクリナをそっと立たせる。
そして、正面のヴァルザを睨むように言い放つ。
「……この化け物が、すべての元凶か」
ヴァルザの口元がわずかに歪む。笑っているのか、それとも、何か別の感情なのか。
「そうだ――吾は、愚かなる魂どもが“何を叫ぶか”を見ているだけだ」
その声には、冷酷な響きと、底知れぬ狂気が混じっていた。
「……剣士よ。ふむ、近接戦というのも、悪くはなかったな。
血の軌跡と刃の軋み、その一瞬に宿る“決意”――実に、美しい」
魔導戦具《律創杖剣レギオン・セファル》が再び変形し、禍々しい大槍の形を取る。
「だが……そろそろ、“本気”を出すとしようか。
崩壊を、絶望を、悲鳴を――もっと高みへと至らせるために」
滅びを嗤う神は、静かに、そして確実に“遊戯”を次の段階へと進めようとしていた。




