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魔王メイドエクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第四章:魔王メイド戦記~その名はエクリナ~

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◆第59話:寄り道の記念◆

人属王都近郊、交易の要として栄える交易都市――アヴェリア。

広く整備された石畳の道に、商人たちの威勢のいい声が響き、露店からは甘い菓子と香辛料の匂いが漂ってくる。

人々が笑い、荷車がすれ違い、空を見上げれば気球さえ飛んでいた。


「うぉおおっ! 街だ! 街だよ王様っ!」

串焼きを掲げてライナが駆け出す。


「なんてにぎやか……人間たちの暮らしって、こんなにも……」

ルゼリアは珍しげに屋台のスパイス瓶を手に取り、目を丸くする。


「なるほど……物流の構造が可視化されてますね。なるほど、都市の“胃袋”がこの広場ですか」

ティセラは独自の視点で街の構造を解析しながら、鍛冶屋の店先で金属片を手に取っていた。


「はしゃぎすぎるな。王都からの巡察兵がいるかもしれん」

セディオスはフードを目深にかぶり、背中《に魔剣アルヴェルク》を背負いながらも視線を絶やさず警戒している。


「分かっておる、だが少しくらいは……楽しまねば損だ」

エクリナは腕を組みながらも、明らかに目線があちこちの屋台へ向いている。


人属たちの“日常”――

そこには、彼女たちが知らなかった世界があった。



 ◇


市場の一角では、ルゼリアが香辛料を吟味し、ライナは肉串を両手に笑顔。

ティセラは鍛冶屋で素材の配合を見抜くように指先で金属片を弾いていた。


一方で、セディオスは保存食や薬草、布地などを順に揃え、エクリナのそばを離れぬよう立ち回っていた。

「エクリナ、あまり離れるな。今の我々は目立ちすぎる」


「分かっておる。……ふふ、案ずるな。我を護ろうというその姿勢、頼もしいではないか」

「護衛ではない。“仲間”としての当然の務めだ」


互いに警戒心を抱きつつも、その言葉の端々には、微かな信頼の芽が見え隠れしていた。


そのときだった――


パシャッ!


「……ッ!?」

唐突に閃光が走った。

エクリナとセディオスが思わず振り返ると、カメラを構えた小柄な男が笑みを浮かべて立っていた。


「よーしよし、今のはベストショットだ! 街の光、背景のアーチ、二人の雰囲気……完璧ッ!」

「な……貴様、我らを撮影したのか!?」

「だっていい構図だったんだもん。はい、この“麗しの恋人たち旅情写真”、銅貨10枚!」


「……買わぬ」


「いやいや、見てくれよこの一枚! 寄り添うように歩く旅衣の美少女と、

渋い剣士の構図! 夕日も完璧、これはもう“運命の出会い”って顔だよ!」


「……たわけたことを」

だが、道行く人々が二人を興味深そうに見始めたことで、エクリナはため息をつく。


「人目が集まるのは好かぬ……セディオス、払え」

「なぜ俺が……いや、分かった」

セディオスは懐から銅貨を差し出すと、写真を受け取った。


そこには――

やや距離を取りながらも、同じ方向を歩く二人の姿が、夕日の中に美しく映されていた。

エクリナは写真をじっと見つめて歩いていた。


「……こんな風に、他人には見えておるのだな。我と、うぬが」

「気にするな。通行人の思い込みだ」

「ふむ……たまには、そういう誤解も悪くはないかもしれん」


「……どういう意味だ?」

「知らぬ。たわけめ」


不意に照れたように背を向けるエクリナの背中に、セディオスは目を細めた。


エクリナは写真をそっと懐にしまう。

その口元に、ほんのわずかに微笑が浮かんでいた。

 


 ◇ ◇


夕暮れ、集合場所に戻った五人は荷をまとめ、街を離れる準備を整えていた。

「日が落ちる前に抜ける。今夜は街道沿いの林を抜けて、東の峠まで進むぞ」

「分かりました。……けれども」

ティセラはふと、懐から街で入手した紙袋を取り出した。

中には、例の写真とよく似た撮影用の術式印刷紙が数枚。


「この街には、こうした“記録”の術が普及しているのですね……研究の価値はありそうです」

「旅の証、か……」

ライナがぼそりと呟き、ルゼリアも静かに頷いた。

その背中には、街の喧騒と夕陽の温もりが、微かに、確かに残されていた。


そして、写真の一枚は、エクリナの懐に大切に収められたまま――

エクリナは無意識に指先でその端をなぞり、わずかに目を細めた。


「……妙なものを残してしまったな」

小さく呟いた声は、誰に聞かせるでもなかった。


けれど、胸の奥にほんのりと温もりが広がる。

戦いの記録ではなく、誰かと過ごした時間の証。

それは“仲間”と呼ぶにはまだ脆く、未完成なもの。


――だが、きっと未来へと繋がる絆の欠片。


エクリナは写真をそっと押し当てるように懐へしまい込む。

その口元には、誰にも見せぬ微笑が、一瞬だけ浮かんでいた。

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