◆第53話:第二の撃破◆
ライナの帰還が遅れていた。
「……遅い……どうしてこんなに……」
焦燥を胸に、ルゼリアは外へ出た。
風の匂いが変わっていた。焼け焦げた鉄と、血の気配。
そして、拠点の外縁――そこで彼女は“異物”を見た。
――ひとりの男が立っていた。
荷物のように担がれているのは、ライナであった。
「ライナ……!? 貴方は……ライナに、何をしたのですか!!」
問いかけよりも早く、彼女の魔導戦具が反応した。
《焔晶フレア・クリスタリア》――浮遊する紅の双晶が震え、咆哮のごとく赤き光を放つ。
「敵と判断!。即時、殲滅します――!」
燃え上がる魔炎とともに、紅蓮の〈フレア・レイヴン〉が翔ける。
紅の鳥が爆裂する軌跡を描き、セディオスを貫かんと突進した。
だが――斬撃が一閃。
炎が、音もなく霧散した。
「ならば、これで……ッ!!」
〈カルミナ・スピラ〉――天に渦巻く紅蓮の魔力。
その中心に螺旋の爆炎が膨れ上がり、セディオスを焼き尽くす――
はずだった。
「……! な……」
渦の中から、剣光が突き出る。
〈ルミナス・クリムゾン〉。
光と影が融合した刀身が、紅蓮を貫き、突進してくる。
「この火力を――切り裂いた……!?」
直後、〈テンペスト・ブレード〉が放たれる。
一瞬にして七閃。空気すら割く斬撃が、ルゼリアの魔装を切り裂いた。
「ぐ……っ!!」
膝をつき、血を吐く。それでも、目は死んでいなかった。
「まだ、終われません……王の側に、帰らねば……!」
その瞬間、周囲の空気が変わった。
炎の温度が一気に跳ね上がり、視界が朱に染まる。
大地が焼け、岩が裂け、天すらも焦げ付く――
それはこれまでの攻撃とは桁の違う、破壊の気配。
彼女の炎が再び燃え上がる。
〈バーニング・デクリエイト〉――破壊と爆砕の極点。
全魔力を注ぎ込み、世界を焼き尽くす魔焔を展開――
「――終焉を、否定する」
セディオスの〈アストラル・リバース〉が起動する。
時空の反転。炸裂する光の斬撃が、炎を呑み、魔法を相殺した。
爆音が轟き、閃光の中にルゼリアの身体が跳ねるように吹き飛んだ。
「かはっ……!」
地に倒れ、焦げた装甲が砕け落ちる。
焔晶が弾け、彼女の意識が遠のいていく――
セディオスはゆっくりと歩み寄った。
そこにあったのは、人すら斬ることをためらわぬ冷え切った意志――ただそれだけだった。
彼は手を翳し、掌に淡い光を灯した。
「――君もまた、眠るがいい」
光が額に触れた瞬間、抵抗するルゼリアのまぶたがゆっくりと閉じた。
荒野に静寂が戻る。
セディオスは背を向け、剣を背負い直す。
片肩にライナを担ぎ、もう片腕には崩れ落ちたルゼリアの身体を抱え込む。
二人分の体重と装備が全身に食い込み、歩みは重くなる。
それでも、足は止まらなかった。
歩みの先にいるのは――かつて戦場で見た、あの“魔王”。
「……貴様が、何者か。必ず見極める」
月光がその剣士の背を照らす中、
“決戦”の気配が、静かに満ちていった。
次回は、『8月31日(日)13時ごろ』の投稿となります。
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