◆第55話:終焉の剣◆
数日間にわたり、拠点跡の大地は黒と紅に焼かれ続けた。
漆黒の魔力と激情の焔が幾度も衝突し、世界の縁を焼き尽くすように燃えさかる。
「アブソリュート・レンドッ!! ナハト=シンフォニアァァ!!」
咆哮と共に放たれた闇魔法が、幾重にも重なる闇刃となってセディオスへと殺到する。
その数は百を超え、空間ごと斬り裂く圧力と共に嵐のように降り注いだ。
だが、セディオスは剣を構え、静かに踏み出す。
「―――カレイド・ガーディアン」
展開された防壁が魔力の奔流を受け止め、剣閃が飛び交う闇を切り裂いた。
エクリナは続けざまに魔杖を振り上げ、詠唱に入る。
「空間よ、応えよ……時を沈め、闇を重ねよ……〈ディメンション・アーク=ヘルストーム〉!!」
全方位から空間断裂の槍が複数放たれ、セディオスを囲い込む。
その瞬間――
「孤絶・断境閃!」
閃光が走り、空間ごと切断する剣気が魔法の陣を断ち割った。
「ならばこれでどうだ……!」
エクリナが叫び、漆黒の空に魔力を集中させる。
「ディア=エクリプス・サンクション!!」
降り注ぐ黒き月の魔炎が大地を焼き、天と地の間に巨大な魔力の渦を生む。
セディオスはそれを見上げながら、静かに言う。
「……ここで終わらせる」
魔剣アルヴェルクに紅光を宿し、渾身の構えを取る。
「禁奥義――、エピローグ・ブレイドッ!」
旋回する紅黒の竜巻が解き放たれ、月の闇を突き破るように魔力を貫く。
紅黒と黒月がぶつかり、大地を揺るがす爆発が巻き起こる。
二人の身体は吹き飛び、荒野に叩きつけられた。
それでもなお、エクリナは立ち上がる。
「我は……負けぬ……この怒りが、悲しみが、我を支えているのだ!!」
最後の魔力を集中し、魔杖を突き立てる。
「アニヒレイト・ゼロ=ディメンション!!」
空間がねじれ、絶対消滅の術式が発動した。
だがその直前、セディオスの剣がその詠唱を断ち切るように、寸前で割り込む。
「すまない……止まってくれ」
その言葉と同時に、空間が一閃された。
やがて、魔力の奔流が途切れる。
エクリナの膝が崩れた。
「……ハァ……ハァ……まだ……我は……」
体は限界を超え、魔素は枯渇し、視界すらも滲んでいる。
それでもなお、彼女は立ち上がろうとした。
「あの時の誓いが、まだ胸に残っている……」
それは血と涙にまみれたあの夜、必ず皆を守ると誓った、たった一つの約束。
誰かに命じられたわけではない。
それでも――進むべきだと、かつてそう信じたから。
その姿に、セディオスが静かに歩み寄る。
「終わらせる。ここで、すべてを」
その言葉と共に、漆黒の剣《魔剣アルヴェルク》に紅の輝きが灯る。
力を帯びたそれは、まるでこの物語に幕を引く“最終章”のように。
「――エピローグ・ブレイド」
一閃。
空間が断たれ、爆風が巻き起こる。
エクリナは必死に魔杖を構えた――だが無情にも、その杖は折れ、力を失った 。
地に伏し、ついに――動けなくなった。
その瞬間、“魔王”の物語は、終わりを迎えたのかもしれない。




