表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第四章:魔王戦記~その名はエクリナ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/204

◆第49話:裂け目に立つ者◆

エクリナ率いる“魔王軍”は戦場を制圧しようとしていた。

既に人属軍は撤退しており、エクリナはそれを敢えて見逃していた。

敵はヴァルザのみ――その軍にあたる神の兵が目下の敵であり、殲滅対象であった。

ゆえに人属など、どうでも良かった。


神兵の下級や中級が逃げ惑う。

違う――集まっていたのだ。

造られた生物とはいえ本能はある。

単独よりも集団、それは神の兵でも同じ動きをしていた。


戦場に、黒い影が差した。

焦土と化した荒野。その先に、整然と列を成して進軍する魔哭神の部隊があった。

槍と剣を構えた兵士たちが、寸分違わぬ足並みで迫ってくる。


「増援?……全部、下級か……?」

エクリナが目を細める。


ルゼリアは視線を走らせ、低く答えた。

「いえ……動きが違います」

「あれは“前線制圧の先遣部隊”……中級兵のみの強化型の軍勢です」

冷たい風が戦場を抜け、陣形の隙間から不気味な影が覗いている。


槍と剣を手にし、洗練された動作で陣を敷く中級兵たち。

そして、その背後に一人だけ異質な存在がいた。

中級兵の列のさらに十歩後ろ、崩れた石塁の影に、黒い指揮官だけが静止していた。


漆黒の戦衣に身を包み、場を歪めるような闇の気配を纏った兵士。

左腕には盾を備えた指揮官――上級兵であった。

その眼は獣のように光り、感情も意思もなく言う。

「反逆者確認……制圧開始、余剰戦力にて排除」


その言葉と共に、戦端が開かれた。


「ライナ、右から回り込め! ルゼリア、左翼を叩け! ティセラは布陣を守れ!」

向かってくる先遣隊。

エクリナは声を張り、指示を出す。


「了解!」

「任せて、王さま!」

「結界展開開始……私が皆を護ります!」


魔王軍の動きは一切の迷いがなかった。

エクリナの簡単な指示で効率良く動いていく。


ルゼリアが紅蓮魔晶の戦具を起動し、〈フレア・スパイラル〉を放つ。

焔の渦が敵槍兵の突進を飲み込み、一斉に吹き飛ばした。

「この炎は、私の誓いです……エクリナを、この仲間たちを、誰にも傷つけさせない!」


その隙に、ライナが雷光と化して敵陣を貫通。

投擲された《魔斧グランヴォルテクス》が雷殛槍刃ランス形態に展開し、〈サンダー・スパイラル・ブレイク〉の雷爆が巻き起こる。

「王さまの未来を拓くのは、僕だぁぁぁッ!!」


戦端を開く炎雷の姉妹。

息の合った連携で中級兵を吹き飛ばしていく。

しかし、魔法耐性が強固な神の兵は倒れても起き上がっていく。

軍の利点を生かし、一対多数の構図を作り上げる。


「さすがに頑丈ですね、出力を上げます!」

「このおぉぉぉッ! これでも喰らえ!」

ルゼリアとライナは屈することなく向かい続ける。

炎を放ち、雷をほとばしらせる。


中距離から攻撃が放たれる。

近接で押さえている隙にルゼリアとライナを狙っていた。

矢が撃たれ、氷針や岩片が迫る――

しかしそれが二人を穿つことはなかった。


カキンッカキンッ――

ルゼリアとライナの頭上に結界が展開されていた。

二人の十歩後ろでティセラが守護する。


それを見やるルゼリアとライナ。

的確な対応に笑顔で返した。

その表情に一瞬だけ笑みを見せるティセラ。

だが、すぐさま険しい顔をし周囲の警戒を続ける。



ティセラの横にいるエクリナは《魔盾盤ヴェヌシエラ》を前面に掲げ魔力収束をしていた。

「試してみるか……アブソリュート・レンド!」

高位空間魔法の名を唱えるエクリナ。

空間を多重に裂き、縦横無尽の断裂を展開する斬撃を頭上から中級兵に見舞う。

魔法耐性を凌駕し、次々と倒していく。


「やはり効くか!」

迫ってくる部隊に致命傷を与えるエクリナ。

体勢を崩す先遣部隊、好機の到来であった。


「バーーニング・デクリエイトッ!」

それを見逃さないルゼリア。

《フレア・クリスタリア》を『紅蓮双輪』形態に変形させ、一点集中の高熱炎砲撃を撃ち放つ。

傷を負い魔法耐性が十全でなくなった中級兵、容易に蒸発していった。


「クロス・ライトニング・カットォッ!」

ライナはよろける兵を見た。

《グランヴォルテクス》を『雷大両刃斧』形態に可変させて振り抜き、雷の十字斬撃波を飛ばす。

眼前の中級兵に斬撃が当たると稲妻が伝播し、中級兵は連鎖して爆破していった。


「ふう、ようやく燃えましたね」

灰燼を見つめ言葉を漏らすルゼリアであった。

「ふん! 楽勝だね!」

ライナは鼻息を鳴らし、魔斧を構え直していた。



「スペース・ランス、穿てッ!!」

ルゼリアとライナの攻撃を逃れた中級兵に視線を向けるエクリナ。

空間を裂いて現れる槍が無音の爆撃のように、敵陣を切り裂いていく。

「ふん……この程度では、まだ足りぬな……!」



その時だった――


「……脱走躯体名“エクリナ”……造られし兵器……裏切り者、排除」

上級指揮官が、巨大な魔法陣を天に展開する。

「高位魔法……グリム・リベレーション」

闇魔弾が無数に空を覆い、降り注ぐ――!


「ソリッド・エデン! 頭上に結界展開ッ!!」

ティセラが《ソリッド・エデン》を操作し咄嗟に結界を組み直す。

複製魔法陣が連動して頭上を防ぐ。


しかし――


闇魔弾が結界に当たるたびに亀裂が入る。

ティセラは亀裂へ継ぎ目の光を流し込むが、上から上から押し潰される。

亀裂は大きくなり、遂に砕かれる。


「きゃあッ……!!」

屈折光の壁が割れ、爆風が直撃する。


「ティセラ……!」

高位魔法を防ぐティセラへエクリナが叫ぶ。

「平気です。……まだ……持ちこたえます」

展開していた結界が砕かれようとも、再展開を行い仲間を守護する。


エクリナは瞬間的に魔力を高め、早口で詠唱を開始した。

「我が王命に従いし夜よ……顕現せよ、終わりを告げる黒き月!――」

「ディア・エクリプス・サンクションッ!!」


黒き月が空に浮かび地上には魔法陣が展開される。

全てを貫く超密度の闇光線を照射する。


だが――


「防御展開、ヴァント・グラビタス」

上級兵は盾を掲げ、黒月の一撃を逆圧縮した。

けたたましい音が鳴り響き、「ゴウンッ」という音と共に消え去った。


「躯体名エクリナ……魔法……全て解析済み……」


エクリナの魔法は球型術具により記録され、研究のために繰り返し解析されていた。

魔導戦具へ転用した成果の一つが天に掲げられた盾であった。


「我の魔法を無効化するか!」

エクリナは極大魔法を無効化され、歯噛みした。


静寂が戦場を包みかけた瞬間、ライナが背後から突撃する。

雷光の連撃が盾の表面を砕き、追撃するようにルゼリアの炎刃が中心核を斬る。

上級兵が持っていた盾は、エクリナの極大魔法を押さえ込み、連続受けで既に限界であった。

それゆえにあっさりと亀裂が入る。


「終わりですッ! フレア・レイヴン!!」

「クロス・ライトニング・カット!!」

上級兵は左腕を構え、盾で受け止める。

だが――炎と雷の重撃に耐えられず、ついに盾が砕けた。


「今だ――喰らうがいい、シャドウ・グラトニー!!」

上級兵の地面に影の顎が開き、黒い手が這い上がる。

足元から縛り上げ一気に呑み込む。

腕を天に伸ばし足掻く上級兵。

徐々に飲み込まれ……やがて闇に溶けて消えた。先遣隊の指揮官は、塵と化して散った。



残った中級兵たちは、指揮を失い隊列は崩壊した。

神の兵に掛ける慈悲は無い。全て殲滅していった。

戦場に静寂が戻る――焦げた土と、血の匂いだけが残っていた。


「……勝ったか……」

「王さま……やったね……!」

「ふっ、当然の結果であろう。我らは“魔王軍”なのだからな」


ルゼリアが微笑み、ティセラがそっと息をつく。

そしてエクリナは、戦場に落ちていた魔哭神の紋章入りの指揮符を拾い、ぎゅっと握りしめた。


「これは始まりに過ぎぬ。この復讐の焔が尽きるその時まで、我らは止まらぬ」


魔王軍は、再び歩き出す。

胸の中の焔はまだ尽きぬ。怒りと絆、そして誓いを胸に――突き進む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ