表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王メイドエクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第四章:魔王メイド戦記~その名はエクリナ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/121

◆第52話:邂逅の一閃◆

拠点周辺の警戒任務に就いていたライナは、ふと足を止めた。

湿った風――その中に、違和感があった。


「……誰か、いる」


雷迅の魔力を身に纏い、《魔斧グランヴォルテクス》を構える。周囲を睨む、

その瞬間――

「ッ!?――ぐはっ!」


空から降り注ぐ影。

地面に叩きつけられると同時に、空気が爆ぜた。


目の前に立つのは、無言の剣士――セディオス。


ライナは即座に立ち上がり、雷光を纏って跳びかかる。

「こいつッ!! 誰だか知らないけど、タダで帰れると思うなよ!!」


〈サンダー・レインフォール〉。

空から無数の雷が降り注ぎ、セディオスを包み込む。


だが、その中心から飛び出すように、影が――

「速っ……!? でも、負けないっ……!」


〈クロス・ライトニング・カット〉。

交差する雷刃が閃くも、セディオスは無造作に剣で弾き、雷を断ち斬った。

「くっ……そこだッ!」


セディオスの〈テンペスト・ブレード〉が突き出され、ライナの肩を浅く裂く。

衝撃で神経が痺れ、膝が震えた。


それでも、ライナは立ち上がる。

「王様の名に懸けて……負けないッ!!」


グランヴォルテクスが雷殛槍刃スピア形態へと変形し、

雷の奔流をまとった〈グラン・ヴォルトクラッシュ〉の魔力が膨れ上がる――


「終わりだ」

セディオスが動いた。

一閃、〈フェイト・スラッシュ〉が《魔斧グランヴォルテクス》を弾き飛ばすと同時に、もう一撃で膝を砕く。


「うああああッ!!」


地面に崩れ落ちるライナ。

喉の奥から鉄の味が広がり、血を吐きながらも、震える腕で体を支えた。

視界は滲み、呼吸は途切れ途切れ――それでも、彼女は顔を上げた。

「僕は……王様の、剣……! だから……最後まで……!」


満身創痍の身体に、なお魔力を集めようとした――その刹那。


セディオスが手を伸ばし、顔を掴んだ。

そして、低く呟く。術式を静かに展開した。

「……もういい、眠れ――」


瞳の奥に、何かを確かめるような光が宿る。

「背後にいるのは……あの時の“魔王”か。命令のままに戦っていた、あの虚ろな目の少女――」


ライナの視界が霞んでいく。

それでも、彼女の唇は震え、最後の言葉を紡ぐ。

「王様を……守るって……決めたから……」

言葉はそこで途切れ、喉を震わせたまま声にならなかった。

その小さな身体が、ついに力を失い、地に伏した。


セディオスは剣を納めると、しばし無言でライナの顔を見下ろしていた。

その視線は言葉よりも重く、冷えた刃のように周囲の空気を張り詰めさせる。

わずかな風さえも遠慮するように止まり、夜の闇が一層深まったかのようだった。

その表情には、怒りに似た憐憫 、複雑な陰が差していた。

「……エクリナ。貴様は本当に、“意思を持って”堕ちたのか」


かつて見た“冷たい兵器”とは違う。

命令ではなく、意思と感情によって動く存在――それが、今の彼女なのか。

セディオスは、ライナの身体を躊躇いなく肩に担いだ。

静かに立ち上がる。


月の光が、彼の背を照らしていた。

「……あの“魔王”が変わったのなら……俺もまた、剣を取る理由を考えねばならんな」

その背に、ライナの痩せた体温がわずかに残っていた。

風が止んだ。夜が静かに、深く沈んでいった。


剣士と少女の影は、夜闇に溶け、やがて見えなくなった。

ただ、そこに残されたのは――魔王との再会を予感させる、冷たい気配だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ