◆第48話:復讐の始まり◆
戦火の匂いが漂う荒野。
焼け焦げた土壌に血の香りが混じり、天を焦がす煙が風に流れていく。
その中心に、突如として黒き魔力が閃いた。
「――我が名は、エクリナ。復讐を果たす“魔王”であるッ!!」
雷鳴のごとき声が戦場に轟き、
彼女の詠唱に応じて空が裂け、〈ノワール・ブレイクアーク〉の漆黒の爆撃柱が降り注ぐ。
爆発の閃光、断末魔、黒い魔力の暴風――
前線にいた人属軍と魔哭神の兵の双方が、混乱と共に吹き飛ばされた。
「っな……何だ!? 味方か……否、違う!? あれは――!」
「魔哭神兵の新型か!? いや……少女の姿をしている……!」
突如現れた“第三の勢力”――
誰もその正体を測れぬまま、ただ恐怖と混乱の中に投げ込まれていく。
「これより、魔哭神への報復を開始する……容赦はせぬ!!」
その宣言と共に、わずか四名ながら、魔王の軍は動き出した。
◇
前衛を切り裂くのは、紅蓮を纏う魔装の少女――ルゼリア。
「燃え尽きなさいッ、フレア・レイヴン!!」
展開された《焔晶フレア・クリスタリア》が咆哮し、詠唱と同時に“獄炎”の名を冠する魔焔が赤黒い鳥となって敵陣に突撃する。
「戦う理由がある……守りたい人がいる……だから、私は止まらないッ!!」
爆炎と共に陣形が崩れ、立ち尽くす敵兵を一人残らず焼き尽くした。
◇
その脇をすり抜けるように雷光が走る――ライナの突撃であった。
「逃がさないよッ!!」
可変魔導戦具《魔斧グランヴォルテクス》が雷を纏って形を変え、ライナ自身も《迅雷外套アーク=レゾナンス》の増幅により一閃。
「ボルト・ラッシュ!!」
雷光の残像が軌道を描き、敵部隊を横なぎに貫通していく。
その身のこなしはまさに“雷迅”――稲妻すら追いつけぬ疾走。
「王様、こっちは片付いたよッ!」
◇
戦線後方では、結界核が浮遊し、光の陣が絶え間なく構築されていた。
ティセラがその中心で、冷静に状況を掌握していた。
「――反射結界、展開。ルゼリア、背後からの狙撃を防ぎます!」
《浮遊式聖印装置ソリッド=エデン》四基が全方位を包み、瞬間的に光壁を交差展開。
その様は、まさしく“法界”と呼ばれる所以――戦場を理の結界で律する姿だった。
「皆を“護る”のは、私の役目です……!」
負傷者には即座に治癒魔法が届き、戦場全体に後方の安定力を与えていた。
◇
そして、中心を駆けるは“魔王”――エクリナその人である。
「スペース・ランス、展開。拠点ごと、穿てッ!!」
幾つもの漆黒の魔槍が空間を裂いて出現し、魔哭神の野戦指揮所を丸ごと貫通する。
「戦術も組織も無き兵どもよ――貴様らに、“意志”はあるかッ!」
魔哭神の兵士は応えない。
ただ命令に従うだけの人形として、無感情に迫る。
「……応えぬか。ならばその存在、我が“魔王”の名において否定する!! 」
《魔盾盤ヴェスペリア》により敵の術式を干渉破壊し、続く〈シャドウ・グラトニー〉が影から噴き上がる。
「喰らえ……この“我の怒り”を!!」
闇の顎が敵を呑み込み、影から消し去っていく。
◇
一糸乱れぬ連携。
エクリナが道を開き、ルゼリアとライナが殲滅、ティセラが守る。
まるで長年連携してきた軍隊のように、彼女たちは**“心で”動いていた**。
――それは、命令に従う兵器では不可能な連携。
「ふん……所詮は人形の兵ども。だが、これでは満たされぬ……!」
怒りと焦燥が渦巻く。
魔哭神に奪われた過去。実験と支配の記憶。
魔王としての誇りが、今なお胸を灼いている。
「この怒り……全て、貴様らに返すためにある!!」
エクリナの眼前には、魔哭神の紋章を刻んだ上級指揮官が立ちはだかる。
“復讐”の幕は、今、上がった。
だが、この戦いは序章に過ぎなかった――




