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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第四章:魔王戦記~その名はエクリナ~

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◆第47話:準備◆

魔哭神がかつて使用し、今は打ち捨てられた拠点兼研究所――

不動の設備と魔導管が入り混じるこの廃墟に、エクリナたちは身を寄せ、再起の拠点として整備を始めていた。

廃墟の動力を再稼働させると、建屋に魔力が巡り、静かに脈動を重ねていった。

外周の見張り杭には、“神の兵”の気配を測るための簡易結界が張られていた。


不要な機材を解体し、集会室や寝所を整えていく。

ベッドは大きいものを一つしか作れず、四人で肩を寄せ合って眠っていた。

眠りの温度だけが、逃走が夢でないと教えてくれる――そんな夜が続いた。

数日かけて、洞窟から移動してきたエクリナとティセラ、再起したルゼリアとライナ、そして出会った四人にとって反撃の城となった。


鉄粉と魔導結晶の混じる空気の中、四人はそれぞれの役割に取りかかっていた。

ルゼリアとライナは、助けられた恩に報いるため、そして何より――

エクリナの誇り高き姿に心を打たれ、心からの忠誠を誓っていた。


「エクリナ……この命、あなたのために使わせていただきます」

「王さまがいてくれるなら……僕、なんだってできる!」


二人は張り切り、資材をかき集めていた。

必要なものをルゼリアが選択し、ライナと共に建屋をくまなく捜索していた。

二人が生と死を得た場所、部屋の割り当てくらいは理解していた。


「ライナ、今度は油断しないでくださいよ。今回は偶然……王とティセラが助けてくれただけですから、次は無いと思いましょう」

ルゼリアはライナが凍結魔法の罠を受けた時の話をしていた。

「わかっているよ。リア姉もそのあと油断したでしょ、おあいこだよ」

ライナは負けじと反論した。


「もちろんです。私たちの油断は王――エクリナへの影響に繋がります、互いに気を付けましょう」

ルゼリアは真面目に返した。

王エクリナの側近となったルゼリアとライナ、二人の振る舞いはエクリナに影響を及ぼす。

それを理解したうえで話していた。


「王さま、いい人だね。優しいし、暖かい……出会えてよかった」

ライナはエクリナに対しても感想を語る。

ヴァルザの嗜虐を受け、冷たい石牢で監禁されていたライナ。

痛いのも、冷たいのも嫌いだった。

恐らくそれは、四人とも同じだったであろう。辛い過去があったからこそ、互いを支えるようにしていた。


「そうですね、私たちの帰る場所です。護りましょう」

ルゼリアはライナの気持ちがわかっていた。

だからこそ、共にエクリナを支えると、護ると誓っていた。


一方——

エクリナは工房と思わしき一角にいた。

戦場で入手した《魔盾盤ヴェヌシエラ》の解析に集中していた。

人属軍の拠点から奪ったそれは、盾と記録盤を融合させた魔導戦具。

黒地に銀装飾が走り、中央の魔晶が淡く脈動している。


近接戦では浮遊する盾となり、同時に空間魔法の触媒として機能する攻防一体の戦具だった。

内部には複数の空間魔法術式が刻まれており、極大魔法の放出すら可能。

さらに新たな術式を追記する余地も残されている。


ただし魔力消費は甚大で、“使い手”の魔核に大きな負担を与える欠点も抱えていた。

使いこなすには、力ではなく“扱い”が要る――エクリナはそう悟り、だからこそ鍛えると決めた。


「ふむ……刻まれた空間魔法は応用が利くものが多いな」

「低級・中級魔法は当然として、高位魔法に極大魔法も備えているとはな……人間で極大の域にたどり着いている者などおるのか? 戦場ではあったことないのだがな……」

エクリナは《魔盾盤ヴェヌシエラ》に登録された魔法を閲覧し、独り言をつぶやく。


「しかし、我に空間魔法の適性があったとはな……どの魔法域まで使えるのかを確かめねばな……」

《魔盾盤ヴェヌシエラ》へ念じると浮遊をし、傍らで制止した。その姿は主を守護するようであった。

「この程度ならば、負担は無いな。転移も可能なのだな、慣れれば我だけでも発動できるであろうか……」


「ん? 極大魔法は……これは封印されておるのか? 容易には使えないようだな……あとでティセラに相談するか」

極大魔法だけ封印されており、エクリナは眉をひそめた。


《ヴェヌシエラ》をじっと見つめる。

「魔法式を砕くことも可能な空間魔法か……強大な力だな。我が力にしなければ……」

エクリナは自身がどうあるべきかを考えていた。

親友ができ、側近も傍に加わった今、方針を決める必要があった。

王として、しかも魔王として君臨すること――それはティセラ・ルゼリア・ライナの命を預かる立場だからだ。


「決まっているな……我は魔王として、ヴァルザを討とう。願わくば、皆無事でな……」

誰もいない工房で一人決意を固めるエクリナであった。

かつて孤独だったエクリナ、今や三人の仲間に囲まれている。

魔王を選んだことを後悔しないために――誓うのであった。


一方――

ティセラは研究所区画の一室、『情報室』と書かれた部屋で端末らしき魔導術具を相手にしていた。

魔導術具・魔導戦具・魔装、構築方法は様々なれど基本は魔法式を紋章として刻み、魔力を動力源にして稼働する道具であり、この世界が発展している証明でもある。

その魔導の道具の構成をティセラはなんとなく理解していた。


生成術具から解き放たれ、意識を得た頃から術式や陣形を理解する異様な勘を持っていた。

それは皮肉にも、ヴァルザからの因子によって刻まれた才能――“魔法式を理解し、自在に応用する才”に由来するものだった。


「忌まわしい力かもしれませんね……。けれど、今はこの才を、皆のために使います」

そう呟くと、初めて触る機材を操作する。幾つもの魔晶が嵌められた大きくて四角い魔導術具。

左端の赤い魔晶に触れるとうねりを上げ起動する。

淡い光が走り、眠っていた構造が呼吸を取り戻すように脈動を始めた。

机の下で魔導管が「コトン」と熱を逃がし、部屋の埃がわずかに舞った。


「やはり動力が入りましたか……だとするとこれを触ると……」

左から二番目の緑色の魔晶を押し込む。

すると実体の無い映像が空中に浮かび上がる。


「! こんな感じに動くんですね。どこかに魔導戦具の図面があるといいのですが……」

「戦うには準備をしないと……皆の戦具を……我々の力となる具現を、わたしが整えます」

仲間たちのために再稼働した魔導術具を操作するティセラ。

自身の出来ることを、自身の存在証明を求めるようにも見えた。


 ◇


戦場となっていた区画の一角では、ルゼリアとライナが交代で物資を探しに出かけていた。

廃街に残された資材、魔晶、乾燥保存された食糧――

ときに戦闘を伴いながら、彼女たちはこの「研究廃墟」を“生きた拠点”へと変えていった。


夕方――

補修された格納区画に灯された焚火を囲んで、四人が揃う。

ティセラが紙片を見ながら報告する。

「全員分の装備の修繕と完成には一ヶ月程度は要します。不足資材が多く、順次製作していく形となります」


エクリナはうなずいた後、口を開く。

「ではその間に――“訓練”も行うとしよう」


彼女は、少し躊躇いながら口にした。

「実のところ、我は近接戦が不得手だ。先の人属軍との戦闘では、間合いを詰められ苦戦した。低級魔法での牽制もできるが……魔力を使わずに杖で打撃を行う技術も身につけたい」


そして、そっと視線を向ける。

「ライナ、うぬの武器は長柄。訓練をしてほしい。……できるか?」


ライナは即座に顔を上げ、笑った。

「もちろんだよ! 王さまが強くなるのを手伝えるなんて、嬉しいよ!」

その声に空気が和らぐ。


するとルゼリアが手を上げた。

「では、私からも――。私とライナ、まだ極大魔法を使うには至れていません。魔導戦具を完全に扱い軍勢と相対するには、あの出力が必要です」


「なるほど。魔力放出の感覚が掴めておらぬのだな。であれば、その訓練は我がつけてやろう。魔力集中の方法、術式の構築……我の全てを教えよう」


ルゼリアとライナは、同時に立ち上がった。

「「お願いします!」」


こうして、装備の製作と並行して、魔王軍の訓練が始まった。

かつて実験場として使われていた空間が、今は鍛錬場へと姿を変える。

砕けた床に杭を打ち、焦げ跡の残る壁を的に見立て、魔力測定機材を調整し――

瓦礫の研究所は、確かな「力」を養う場となった。


 ◇


午前はエクリナとライナによる近接戦の基礎訓練から始まった。

エクリナは魔法戦には長けていても、物理戦闘は不得手。

ライナはそんな彼女に、長柄武器の構えと打ち込みの基本を教えていく。


「構えが浮いてるよ、王さま。腰をもっと落として!」

「……ぬぅ、これは……想像以上にバランスが難しいな」


「足は一歩ずらして重心を流すの! そうそう、それっ!」


最初はぎこちなかったエクリナの動きが、数日後には形になり始めていた。

彼女の構えに迷いが消え、足運びも重みを持ちはじめる。


「……王さまのその構え、かっこいいよ!」

「ふっ、当然であろう」

ライナの笑顔に、エクリナもどこか誇らしげに微笑みを返す。


やがて訓練は、模擬戦闘へと移行した。

エクリナは《魔杖アビス・クレイヴ》を実際に手にし、魔力の流れを抑えつつ、打撃武器としての杖の扱いを体に覚え込ませていく。


「今の一撃、重みがあったよ! 本当に王さまが“殴って”きた感じ!」

「……ふむ。威圧と威風を込める、これが“王の打ち込み”というやつか」


 ◇


午後は、魔力操作の応用訓練が行われていた。

ルゼリアとライナは、それぞれ魔導戦具の出力解放と制御力の向上を目的としていた。

「魔法式の構築――言葉では分かっても、実際にやると難しいね……」


エクリナは二人にそれぞれ小さな球状の魔力圧縮球を創らせ、徐々に“詠唱前の魔力構築”を実地で教えていく。

「構築と制御は同時に行え。“技術”ではなく、“想い”で術式を押し流せ。魔導戦具は主の心に従う」


「……“心”ですか……」ルゼリアは目を伏せるが、ゆっくりとうなずいた。

繰り返すことで、ルゼリアの紅蓮魔力が芯を得て収束し、ライナの雷撃も鋭さと範囲を増していく。


「……王さまに見せたいんだ。僕の“本気”を」

「ふふ、期待しているぞ」

時に弟子、時に師となるエクリナとライナであった。


 ◇


夕刻――

ティセラは《浮遊式聖印装置ソリッド・エデン》を四基同時に展開し、結界術式の同調制御訓練を続けていた。

「……右前衛、位相乱れ。再収束――今、です!」


自身の術式を四方向に分離し、時間差干渉・交差防壁・反射展開と多層結界を次々に組み上げる。


「さすがは結界の申し子だな。戦場において後方支援の要となろう」

エクリナが評価すると、ティセラは照れたように微笑んだ。

「……背中を預けてもらえるように、もっと精度を高めてみせます」



数日が過ぎると仲間同士で技術を“交換”する場面も増えていった。

ライナがティセラに体捌きと回避のコツを教え、

ルゼリアは魔力流の制御についてエクリナに意見を求め、ティセラはエクリナと共に新術式の構成案を練った。


互いが互いの“手”となり、“目”となり――魔王軍は、確実に「軍」としての形を成していった。

次回は、『8月24日(日)20時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いしますm(__)m


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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