◆第41話:玩具たちの魔導戦具◆
魔力の嵐が吹き荒れる実験場――
だが、そこにあるのは戦闘ではなかった。
繰り返し行われる実験という名の暴虐。
それは毎日行われた。
エクリナが人属領から戻ってきて、一か月が経過していた。
叫び方だけが上手くなり、泣き方だけが下手になった。
ティセラと共に何度も死の間際を体験し、何度も再生されてきた。
変わらぬ拷問、変わらぬ悲鳴、エクリナ同様にティセラも魔哭神ヴァルザの趣味にあったらしい。
過去に比べて苛烈で、長時間の拷問が二人へ続けられていた。
そして、今日の拷問も辛かった――
「……ひひっ、いい音だな。骨の軋む音も、肉の裂ける音も、どれも実に芳しい……」
魔哭神ヴァルザは、高座に腰をかけ、指先で空をなぞるように魔法を展開していた。
眼下には、鎖で拘束されたまま、床に膝をつく二人の少女――エクリナとティセラ。
「反応は? ……ふむ、まだ笑わぬか」
無慈悲な光がティセラの背に降り注ぐ。
反撃は禁止。回避も封じられている。
許されているのは、我慢する・叫び続ける・苦悶の表情を見せる程度であった。
それが魔哭神城の主、ヴァルザが“そう命じた”のだから。
「っひぁあぁあああああああっっ!!」
「いやっ、やめて……っ、熱い……冷たいの、いやぁぁっ!!」
氷と炎の複合魔法が交互に少女の身体を焼く。
結界は許可されていない。防御は存在しない。
ただの“的”として、壊れるまで与えられる苦痛に耐えるだけ。
「吾に抵抗するな。表情と反応だけを見せろ。それで充分だ」
ヴァルザは次に、エクリナへと手を向けた。
「さぁ、吾のお気に入り。今日はどんな音を聴かせてくれる?」
雷撃と風斬撃の融合魔法が放たれる。
「……ッ、ぁ……ッ、くぅ……あ゛あああああああああぁぁッ!!」
天に向けて叫び、黒焦げた服の裂け目から露わになった肌が赤く爛れる。
肉は削がれ、骨が見えていた。
「まだ壊れるには早い。……ゆっくり、時間をかけて焦がすのが礼儀というものだ」
治癒魔法が、わざと緩やかに注がれる。
神経が再接続されるその間、再生と痛覚が同時に重なり、声にならぬ呻きが漏れる。
ティセラも、隣で血と涙に濡れながら身体を丸めていた。
息を吸うたび、肋骨が内臓を圧迫する。
それでも、命令には逆らえない。
浮遊する球型術具がヴァルザの横に移動してきた。
「ジュンビガ トトノイ マシタ」
ヴァルザはゆったりと立ち上がり、手を一度振る。
「……ふむ。そろそろ時間か。実に名残惜しい」
満足げに息をついた後、愛玩していた人形に別れを告げるように、浮遊する球型術具に命じた。
「こいつらの戦具を整えさせろ。今夜、戦地に投入する」
「玩具どもよ。せいぜい良き舞台を踏むがいい。戻ってきたら、たっぷり“続きを”やってやる」
その口元に浮かぶ笑みは、歓喜と狂気の境界にあった。
◇
玉座――漆黒と金で構成された巨大な神の間。
エクリナとティセラは、戦具を整えられ、床に膝をついていた。
エクリナは漆黒の魔導ローブに身を包み、手には魔導戦具《魔杖アビス・クレイヴ》を握っていた。
濃紫の杖身に金色の円輪が先端を飾り、中心には深紫の魔晶が脈動していた。
握るだけで魔力の流れが整い、詠唱の輪郭が“短く”なる感覚があった。
ティセラは白い魔導ローブを着ており、その背には輪状構造を持つ光の術具《浮遊式聖印装置ソリッド・エデン》が二基浮遊していた。
白金の輪がゆっくりと回転し、表面を走る光紋が淡い音を立てながら空気を震わせている。
「それをお前達に与える」
「エクリナに合う杖がようやくできた。威力増加に発動補助の効果がある、人間を更に滅ぼすがいい」
お気に入りの愛玩動物に新たな玩具を与えたように言うヴァルザ。
足を組み、さらにヴァルザは続ける。
「ティセラには実験の戦具だ。ようやく極大魔法にまで至れた躯体、その力を見せてみろ」
ティセラの背で聖印が淡く輝く。未だ不安定なまま、空気を震わせていた。
「エクリナは主戦力。ティセラは補助結界を展開すること。今回の任務は“実戦下における連携反応”の観測を主目的とする」
淡々と宣告するヴァルザの声に、拒否の余地はない。
「貴様らに異常が出てたら、いつも通りだ。その時は――廃棄するだけだ」
鎖はなくとも、二人は同じ方向を見た。
言いたいことだけ言うと、ヴァルザは玉座を後にする。
エクリナとティセラは忠誠の意を示して、何も言わずに見送った。
(また戦場か……だが……ここよりはマシだな)
(ティセラは怯えるだろうな……支えねば)
エクリナは玉座のヴァルザを一瞥し、思案していた。
ティセラは初めてできた――妹分?友達?仲間?それとも別の……
エクリナは初めての経験を未だに言語化できていなかった。
一か月もの間、共に嗜虐を受け、死の淵に何度も立ち、同じように叫び、何度も涙を共有してきた。
(戦場……どんなところでしょうか……怖い……)
(でも、エクリナさんの隣に居れるなら……彼女を……きっと守ることができる)
エクリナを横目に見つつ思いを馳せた。
神の城でのティセラはエクリナの背を見て、必死に生き延び、夜のわずかな会話を楽しんでいた。
どんなに辛い実験があったとしても、エクリナの隣ならば耐えることができた。
そして今度は共に戦場で支え合うことができる。
自身が持つ結界魔法の力で必ず守ると心に誓う――何があっても。
この二人の今の関係——
きっとそれは、人や亜人であればこう言うであろう――親友と。
その日の夜、二人は“戦地”へと送られた。
足元の魔法陣が淡く輝き、瞬きの間に空気が裂ける。
感覚が反転し、城の空気は一瞬で硝煙と血の匂いに変わった。
運命も、自由も、希望さえ持たぬままに――。
次回の更新は、『8月17日(日)20時ごろ』になります。




