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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第四章:魔王戦記~その名はエクリナ~

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46/201

◆第41話:玩具たちの魔導戦具◆

魔力の嵐が吹き荒れる実験場――

だが、そこにあるのは戦闘ではなかった。

繰り返し行われる実験という名の暴虐。


それは毎日行われた。

エクリナが人属領から戻ってきて、一か月が経過していた。

叫び方だけが上手くなり、泣き方だけが下手になった。


ティセラと共に何度も死の間際を体験し、何度も再生されてきた。

変わらぬ拷問、変わらぬ悲鳴、エクリナ同様にティセラも魔哭神ヴァルザの趣味にあったらしい。

過去に比べて苛烈で、長時間の拷問が二人へ続けられていた。


そして、今日の拷問も辛かった――

「……ひひっ、いい音だな。骨の軋む音も、肉の裂ける音も、どれも実に芳しい……」


魔哭神ヴァルザは、高座に腰をかけ、指先で空をなぞるように魔法を展開していた。

眼下には、鎖で拘束されたまま、床に膝をつく二人の少女――エクリナとティセラ。

「反応は? ……ふむ、まだ笑わぬか」


無慈悲な光がティセラの背に降り注ぐ。

反撃は禁止。回避も封じられている。

許されているのは、我慢する・叫び続ける・苦悶の表情を見せる程度であった。

それが魔哭神城の主、ヴァルザが“そう命じた”のだから。


「っひぁあぁあああああああっっ!!」

「いやっ、やめて……っ、熱い……冷たいの、いやぁぁっ!!」


氷と炎の複合魔法が交互に少女の身体を焼く。

結界は許可されていない。防御は存在しない。

ただの“的”として、壊れるまで与えられる苦痛に耐えるだけ。


「吾に抵抗するな。表情と反応だけを見せろ。それで充分だ」

ヴァルザは次に、エクリナへと手を向けた。

「さぁ、吾のお気に入り。今日はどんな音を聴かせてくれる?」

雷撃と風斬撃の融合魔法が放たれる。


「……ッ、ぁ……ッ、くぅ……あ゛あああああああああぁぁッ!!」


天に向けて叫び、黒焦げた服の裂け目から露わになった肌が赤く爛れる。

肉は削がれ、骨が見えていた。

「まだ壊れるには早い。……ゆっくり、時間をかけて焦がすのが礼儀というものだ」

治癒魔法が、わざと緩やかに注がれる。

神経が再接続されるその間、再生と痛覚が同時に重なり、声にならぬ呻きが漏れる。


ティセラも、隣で血と涙に濡れながら身体を丸めていた。

息を吸うたび、肋骨が内臓を圧迫する。

それでも、命令には逆らえない。


浮遊する球型術具がヴァルザの横に移動してきた。

「ジュンビガ トトノイ マシタ」

ヴァルザはゆったりと立ち上がり、手を一度振る。

「……ふむ。そろそろ時間か。実に名残惜しい」


満足げに息をついた後、愛玩していた人形に別れを告げるように、浮遊する球型術具に命じた。

「こいつらの戦具を整えさせろ。今夜、戦地に投入する」

「玩具どもよ。せいぜい良き舞台を踏むがいい。戻ってきたら、たっぷり“続きを”やってやる」

その口元に浮かぶ笑みは、歓喜と狂気の境界にあった。


 ◇


玉座――漆黒と金で構成された巨大な神の間。

エクリナとティセラは、戦具を整えられ、床に膝をついていた。


エクリナは漆黒の魔導ローブに身を包み、手には魔導戦具《魔杖アビス・クレイヴ》を握っていた。

濃紫の杖身に金色の円輪が先端を飾り、中心には深紫の魔晶が脈動していた。

握るだけで魔力の流れが整い、詠唱の輪郭が“短く”なる感覚があった。


ティセラは白い魔導ローブを着ており、その背には輪状構造を持つ光の術具《浮遊式聖印装置ソリッド・エデン》が二基浮遊していた。

白金の輪がゆっくりと回転し、表面を走る光紋が淡い音を立てながら空気を震わせている。


「それをお前達に与える」

「エクリナに合う杖がようやくできた。威力増加に発動補助の効果がある、人間を更に滅ぼすがいい」

お気に入りの愛玩動物に新たな玩具を与えたように言うヴァルザ。


足を組み、さらにヴァルザは続ける。

「ティセラには実験の戦具だ。ようやく極大魔法にまで至れた躯体、その力を見せてみろ」

ティセラの背で聖印が淡く輝く。未だ不安定なまま、空気を震わせていた。


「エクリナは主戦力。ティセラは補助結界を展開すること。今回の任務は“実戦下における連携反応”の観測を主目的とする」

淡々と宣告するヴァルザの声に、拒否の余地はない。

「貴様らに異常が出てたら、いつも通りだ。その時は――廃棄するだけだ」


鎖はなくとも、二人は同じ方向を見た。

言いたいことだけ言うと、ヴァルザは玉座を後にする。

エクリナとティセラは忠誠の意を示して、何も言わずに見送った。


(また戦場か……だが……ここよりはマシだな)

(ティセラは怯えるだろうな……支えねば)

エクリナは玉座のヴァルザを一瞥し、思案していた。


ティセラは初めてできた――妹分?友達?仲間?それとも別の……

エクリナは初めての経験を未だに言語化できていなかった。

一か月もの間、共に嗜虐を受け、死の淵に何度も立ち、同じように叫び、何度も涙を共有してきた。


(戦場……どんなところでしょうか……怖い……)

(でも、エクリナさんの隣に居れるなら……彼女を……きっと守ることができる)

エクリナを横目に見つつ思いを馳せた。


神の城でのティセラはエクリナの背を見て、必死に生き延び、夜のわずかな会話を楽しんでいた。

どんなに辛い実験があったとしても、エクリナの隣ならば耐えることができた。

そして今度は共に戦場で支え合うことができる。

自身が持つ結界魔法の力で必ず守ると心に誓う――何があっても。


この二人の今の関係——

きっとそれは、人や亜人であればこう言うであろう――親友と。


その日の夜、二人は“戦地”へと送られた。

足元の魔法陣が淡く輝き、瞬きの間に空気が裂ける。

感覚が反転し、城の空気は一瞬で硝煙と血の匂いに変わった。

運命も、自由も、希望さえ持たぬままに――。

次回の更新は、『8月17日(日)20時ごろ』になります。

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