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◆第40話:名前を呼ぶ夜◆
やがて、ようやく“本日”の実験が終わった。
二人は無言で、石の牢に戻された。
冷たい床。揺れる鎖。光のない空間。
ティセラは、静かに泣いていた。
死ねない。逃げられない。
初めて見た神は、優しさも慈悲もなかった。
それでも――隣に、同じ痛みを知る少女がいた。
「………………」
「エ、エクリナさん……いつも、あのような……?」
「…………」
返答はない。けれど、ティセラは続ける。
「わたし……怖かったです。死にたいと思うくらい、痛くて……怖くて……でも……」
「でも、エクリナさんが、あんなに頑張ってたから……私も、頑張らなきゃって、思ったんです」
その言葉は、確かに届いていた。
エクリナの中に――
命令でも、魔法でもない、初めての“温かさ”が灯った。
やがて、誰もいない夜の中で。
「……ティセラ…だったか?」
エクリナが、初めて自ら名前を呼んだ。
「……はい」
闇の中、ふたりは微かに微笑み合った。
この絆が、やがて魔王の運命を変えてゆくのだった。




