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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第四章:魔王戦記~その名はエクリナ~

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◆第39話:神の実験場◆

神より、新たな命令が下った――魔法”実験”であった。


神の城――その中でも特に巨大な空間、“実験場”。

床は円形、鎖の届く範囲だけが“舞台”として空いていた。

壁には魔導ランプが均一に並び部屋を明るく照らしている。


天井の果てまで刻まれた魔法陣。四方に配された魔導術具群。

魔法への耐久性、干渉反応、感情誘発の収集。

すべては“創造主”の観察と愉悦のために構築された異常な実験場だった。


そこへ、二人の少女――エクリナとティセラが、鎖に繋がれ、移送されていく。


その場に立つ神が、彼女たちを見下ろしていた。


漆黒の長髪が風に揺れ、左右で異なる瞳が光を返す。

右目には神聖印が金の光を宿し、左目には紫紋の呪印が闇を湛えていた。

均整の取れた長身には、銀糸で古代魔法の紋様が縫い込まれた黒衣が纏われている。

“魔哭神”――ヴァルザ。


『滅びを嗤う者』として知られる異端の神。

人属や亜人属の苦悶や絶望を“美”と称し、その極限の感情を集めることを目的に、幾多の戦争と破壊を演出してきた存在。


かつては自然を司る火・水・風・大地の神であったが――

人属の”恐怖する感情”に魅せられ、神としての座を捨て、堕落した。


今や彼は、神でありながら、破壊の観察者。

そしてエクリナとティセラは、神の“因子”を用いて造られた『神造生命体』だった。


「来たか、エクリナ。……戦線の拡大は順調だな。これまで造った中では、上出来だ」

ヴァルザは楽しげに嗤うと、隣の少女にも視線を向ける。


「ティセラ。お前はこの城の結界術具の中核として造った。今日から、エクリナと共に実験だ」


“実験”――それが、彼女たちに与えられた唯一の役割だった。


「次の戦争にはしばらく準備がある。間が空くゆえ……今日は幾つか新しい魔法を試してみようと思っていてな」


その言葉の直後。

ヴァルザは、風の魔法でティセラを壁際に吹き飛ばす。

同時に雷と炎の魔法を、エクリナへと解き放った。


エクリナは動かない、動けない。

命令に背くことは”洗脳された本能”として不可能だった。

心は恐怖で支配され――選択肢はなかった。


「……があッ! ぐうぅ!!」


雷が神経を焼き、炎が皮膚を焦がす。

それでも、声を出すのを我慢する。

唇が裂けるほど噛み締め、視線だけは逸らさなかった。

それがエクリナとして”最大の抵抗”だった。


――だがヴァルザは、そんな”いじらしい”我慢すら“芸術”として楽しむ。


「大分前に雷と炎の躯体が使えなくなってな。久々に構築してみたが……ほう、こうなるか」

「痺れ、焼け焦げる。そうか、そういう顔をするのだな」

彼の声は嬉々としていた。

苦痛、恐怖、絶望。そのすべてが、彼にとっては娯楽だった。


(雷……炎……二体も果てたか……)

激痛に耐えながらもエクリナはヴァルザの言葉を聞いていた。

「またか」という感情が心を閉める。


「では次は……反属性の光だ。光刃で切り裂いてみよう」

ヴァルザは言い終わる前に魔法を放つ。

無数の光刃が天から降り注ぎ、エクリナの四肢を切り裂く。

その肉を穿ち、骨を砕く。


ザシュ――ゴリュ――と体から異音が聞こえる。

「ぎゃああ――があぁぁぁっ!!」

もはや耐えきれず、エクリナは悲鳴をあげた。

左肩を砕かれ、腕がぶらりとなる。


「うむ、いい顔だなぁ!やっぱりお前は、なかなかに上質だ……」


ヴァルザは命じる。

「エクリナの魔封じの枷を外せ。……闇魔法を、何でもいい。空中に展開しろ」


浮遊する球型術具が動き、彼女の魔力封印が一時的に解除される。

震える声で、エクリナは従う。


「はあはあ……シャドウ・バレット……展開」

息切れを起こすも魔法名を唱える。

疲弊しきった身体から、複数の闇の弾丸が静かに浮かび上がる。


「次は……これだ」


ヴァルザが召喚した光の槍が降り注ぎ、闇魔弾と交差する。

その瞬間――反発現象が発生し、大爆発が起きた。

エクリナの身体は爆風に包まれ、光の槍が彼女の胸を貫いた。

倒れない。ただ、膝が震えて床を探した。


「ぐぅぅ゛ッ!か、はッ……っがああああああぁぁあああッ!!」


魔力が暴走し、全身が痙攣する。

胸を貫いた光の槍からは、まだ白煙が立ちのぼっていた。

肋骨が砕け、内臓が焦げ、喉から絞り出された悲鳴は、もはや“声”ではなかった。

「――う、ああ……ッ、い゛っ、だい……やだ……もう、やだ……ッ!」


「ははっ……いいねェ、実にいい! さすがは吾の因子の賜物……見事な苦悶だ」

ヴァルザは舌なめずりをしながら、その崩れゆく姿を陶酔した目で見つめていた。


――だが、終わらない。


エクリナの体に治癒魔法がゆっくりと流れ込む――それは慈悲ではなく、拷問の延長。

肉が再生し、神経が繋がるその一瞬一瞬が、さらなる痛みとなって全身を焼く。


「ぁあああああああっ!!っやぁ……っ! やめっ……うぐっ、あ゛ぁぁああああ!!」

爪が砕けるほどに床を掻き、口から血混じりの息が漏れる。

「……や、だ……いや……もう、壊して……お願い……」


”死”を懇願するエクリナ、それでも再生は止まらない。

涙を流しながら、彼女は治癒を“耐えた”。

喘ぎ声を出し、治癒されて尚も痛む肩を押さえていた。


ヴァルザは嗤っていた。

「ははっ!いいぞエクリナぁぁ!やはりお前の苦しみは逸品だな!」

満足げな嗤いの中、ヴァルザはゆっくりとティセラへと向き直る。

エクリナの視線が、初めて“隣”へ触れた。


「そういえば……今日からもう一つ、楽しみが増えたんだったな」

浮遊する球型術具がエクリナの魔力封印を再装着し、代わりにティセラの拘束が外される。


「まずは……結界魔法の発動確認といこうか」

次の瞬間、告知もなく氷の槍がティセラへと放たれた。


「ひっ……!!」

思わず手をかざし、彼女は結界を展開する。

氷の槍は反らされ、壁に突き刺さる。


咄嗟の防御――それすらも観察対象だった。

「本能で魔法を使うか……これは面白い。次は強度だな」


爆発魔法が唸りを上げて放たれた。

ティセラの薄氷のような結界は、一発目で砕け散り――


「きゃあああああぁぁあっっ!!!」


炎の衝撃波が彼女の細い身体を吹き飛ばし、無造作に壁へと叩きつけた。

石壁に激突した瞬間、乾いた悲鳴のような音が肉の奥から絞り出され、口から息と悲鳴が同時に漏れた。


「あぐっ……ッ、がっ、ひぃっ……い゛っ、い゛い゛い゛い゛い゛い゛っっ!!!」


肩が外れ、背中を焼くような激痛が奔る。

視界は白く反転し、世界は耳鳴りだけに支配された。

息が、できない。声にならない声で、涙と嗚咽だけが零れ落ちていく。

逃げたいのに、視線だけがエクリナを探した。


追撃の鋼の矢が、その身体を貫いた。

「ぎゃああああああああッッ!! あ゛ッ、がっ、いやあああああああああッ!!!」

傷口から血が噴き出し、地に倒れたティセラは、嗚咽混じりに呻いた。

造られて初めて味わう“痛み”。


それでもティセラは、止めてとは言えなかった。

逆らえば、もっと酷い“実験”があると理解していた。

死を懇願しても慈悲はないだろうこともエクリナを見て分かっていた。


――嗜虐に耐える。それが、『この世界の”理”』だった。


(痛い!痛いよぉ――でも……エクリナさんだって……)

先ほどまで”実験”に耐えていたエクリナを思い出す。

叫びはすれど、膝はついていなかった。


ティセラは涙が止まらない。

初めての痛みと恐怖が全てを支配する。

(これを耐えてきたなんて……)


ヴァルザはティセラの体が震えているのをみた。

生存を確認すると、ゆっくりと治癒魔法を掛けていた。

「があああぁぁぁ――い”だい”、い”だい”、い”だい”——」

悲鳴を上げ、大泣きするティセラ。


ヴァルザはその壊れかけた表情が大好きだった。

壊れる前に直す、そして繰り返す――

まさに至高の時間だった。


実験は、何時間も続いた、魔哭神が満足するまで。

エクリナとティセラ――交互に響く悲鳴が、神の城に木霊していた。

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