表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王メイドエクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第四章:魔王メイド戦記~その名はエクリナ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/121

◆第39話:神の実験場◆

神より、新たな魔法実験の命令が下った。


神の城――その中でも特に巨大な空間、“実験領域”。

天井の果てまで刻まれた魔法陣。四方に配された魔導術具群。

魔法の耐久性、干渉反応、感情誘発の収集。

すべては“創造主”の観察と愉悦のために構築された異常な実験場だった。


そこへ、二人の少女――エクリナとティセラが、鎖に繋がれ、移送されていく。

その場に立つ神が、彼女たちを見下ろしていた。


漆黒の長髪が風に揺れ、左右で異なる瞳が光を返す。

右目には神聖印が金の光を宿し、左目には紫紋の呪印が闇を湛えていた。

均整の取れた長身には、銀糸で古代魔法の紋様が縫い込まれた黒衣が纏われている。

“魔哭神”――ヴァルザ。


「滅びを嗤う者」として知られる異端の神。

人間の苦悶や絶望を“美”と称し、その極限の感情を集めることを目的に、幾多の戦争と破壊を演出してきた存在。


かつては自然を司る風・海・地の神であったが――

人間の「恐怖する感情」に魅せられ、神としての座を捨て、堕落した。


今や彼は、神でありながら、破壊の観察者。

そしてエクリナとティセラは、その“因子”を用いて造られた()()()()()だった。


「来たか、エクリナ。……戦線の拡大は順調だな。これまで造った中では、上出来だ」

ヴァルザは楽しげに嗤うと、隣の少女にも視線を向ける。


「ティセラ。お前はこの城の結界術具の中核として造った。今日から、エクリナと共に実験だ」

“実験”――それが、彼女たちに与えられた唯一の役割だった。

「次の戦争にはしばらく準備がある。間が空くゆえ……今日は幾つか新しい魔法を試してみようと思っていてね」


その言葉の直後。

ヴァルザは、風の魔法でティセラを壁際に吹き飛ばし、同時に雷と炎の魔法を、エクリナへと解き放った。


エクリナは動かない。

命令に背くことは“機能停止”を意味する。彼女の中に、選択肢はなかった。


「……がッ!」


雷が神経を焼き、炎が皮膚を焦がす。

それでも、我慢する。それが“兵器”の矜持だった。


だがヴァルザは、そんな我慢すら“芸術”として楽しむ。

「大分前に雷と炎の実験体が使えなくなってな。久々に構築してみたが……ほう、こうなるか」

「痺れ、焼け焦げる。そうか、そういう顔をするのだな」


彼の声は嬉々としていた。

苦痛、恐怖、絶望。そのすべてが、彼にとっては娯楽だった。


「では次は……反属性の光だ。光刃で切り裂いてみよう」


無数の光刃が天から降り注ぎ、エクリナの四肢を切り裂く。

その肉を穿ち、骨を砕く。もはや耐えきれず、彼女は悲鳴をあげた。


「うむ、いい顔だなぁ! やっぱりお前は、なかなかに上質だ……」


ヴァルザは命じる。

「エクリナの魔封じの枷を外せ。……闇魔法を、何でもいい。空中に展開しろ」


魔導術具が動き、彼女の封印が一時的に解除される。

震える声で、エクリナは従う。


「……シャドウ・バレット……展開」


疲弊しきった身体から、複数の闇の弾丸が静かに浮かび上がる。


「次は……これだ」


ヴァルザが召喚した光の槍が降り注ぎ、闇魔弾と交差する。

その瞬間――反発現象が発生し、大爆発が起きた。


エクリナの身体は爆風に包まれ、光の刃が彼女の胸を貫いた。


「ぐぅぅ゛ッ! か、はッ……っがああああああぁぁあああッ!!」

魔力が暴走し、全身が痙攣する。胸を貫いた光の槍からは、まだ白煙が立ちのぼっていた。

肋骨が砕け、内臓が焦げ、喉から絞り出された悲鳴は、もはや“声”ではなかった。

「――う、ああ……ッ、い゛っ、だい……やだ……もう、やだ……ッ!」


「ははっ……いいねェ、実にいい! さすがは吾の因子の賜物……見事な苦悶だ」

ヴァルザは舌なめずりをしながら、その崩れゆく姿を陶酔した目で見つめていた。


――だが、終わらない。


エクリナの体に治癒魔法がゆっくりと流れ込む――それは慈悲ではなく、拷問の延長。

肉が再生し、神経が繋がるその一瞬一瞬が、さらなる痛みとなって全身を焼く。


「ぁあああああああっ!! っやぁ……っ! やめっ……うぐっ、あ゛ぁぁああああ!!」

爪が砕けるほどに床を掻き、口から血混じりの息が漏れる。

「……や、だ……いや……もう、壊して……お願い……」


涙を流しながら、彼女は治癒を“耐えた”。

それは癒しではなく、拷問だった。


ヴァルザは笑った。

「ははっ! いいぞエクリナぁぁ! やはりお前の苦しみは逸品だな!」


満足げな嗤いの中、ヴァルザはゆっくりとティセラへと向き直る。

「そういえば……今日からもう一つ、楽しみが増えたんだったな」


浮遊する魔導術具がエクリナの封印を再装着し、代わりにティセラの拘束が外される。


「まずは……結界魔法の発動確認といこうか」

次の瞬間、告知もなく氷の槍がティセラへと放たれた。


「ひっ……!!」


思わず手をかざし、彼女は結界を展開する。

咄嗟の防御――それすらも観察対象だった。

「本能で魔法を使うか……これは面白い。次は強度だな」


爆発魔法が唸りを上げて放たれた。

ティセラの薄氷のような結界は、一発目で砕け散り――


「きゃあああああぁぁあっっ!!!」


炎の衝撃波が彼女の細い身体を吹き飛ばし、無造作に壁へと叩きつけた。

石壁に激突した瞬間、乾いた悲鳴のような音が肉の奥から絞り出され、口から息と悲鳴が同時に漏れた。


「あぐっ……ッ、がっ、ひぃっ……い゛っ、い゛い゛い゛い゛い゛い゛っっ!!!」


肩が外れ、背中を焼くような激痛が奔る。視界は白く反転し、世界は耳鳴りだけに支配された。

息が、できない。声にならない声で、涙と嗚咽だけが零れ落ちていく。


追撃の鋼の矢が、その身体を貫いた。

「ぎゃああああああああッッ!! あ゛ッ、がっ、いやあああああああああッ!!!」

傷口から血が噴き出し、地に倒れたティセラは、嗚咽混じりに呻いた。

造られて初めて味わう“痛み”。

それでもティセラは、止めてとは言えなかった。逆らえば、もっと酷い“実験”があると理解していた。


……死ぬまで耐える。それが、『この世界の”理”』だった。


実験は、何時間も続いた、魔哭神が満足するまで。

エクリナとティセラ――交互に響く悲鳴が、神の城に木霊していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ