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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第三章:静穏と影の狭間

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◆第31話:命なき刃、闇を裂く◆

閃光。

そして、闇の斬撃。


黒騎士の双剣が、猛禽のような軌跡を描いてエクリナを切り裂かんと迫る。

しかしその瞬間、空間が歪み、斬撃が通過した先に彼女の姿はなかった。


エクリナは上空へと空間転移し、虚空に足場を構えると、《魔杖アビス・クレイヴ》を掲げた。

その手から漆黒の魔力が溢れ出し、数十の闇槍が生成される。

「穿て、シャドウ・ランスッ!」

闇の槍が雨のように降り注ぐ。地面が爆ぜ、爆煙が辺りを包む。

だがその中から、まったく動じる様子もなく、黒騎士は歩みを止めずに進み出てきた。


無言。無表情。

生気も闘志も感じられない。


「……命令のみで動く、か。意思なき刃など、ただの道具に過ぎぬ」

エクリナが空中から視線を投げかける。

黒騎士は魔力を両腕に集中させると、双剣を水平に構えた。

双剣から魔力刃を放ち、空中のエクリナを強襲する。


空間転移で回避するエクリナ。

地に降り立つと同時に黒騎士が肉薄していた。


「速い……!」

再び空間転移で退こうとした――だが、間に合わなかった。

双剣の一閃が彼女の魔杖を弾き飛ばし、続く斬撃が魔装を掠める。

《魔盾盤ヴェヌシエラ》で受け、回避行動をとる。


「っ、チッ……!」

後ずさりしながら跳び、魔杖を回収しつつ距離を取る。


(――自動反応にしては精度が高い。通常の魔術師では間違いなく捉えられる)


エクリナはすぐに態勢を立て直し、左手を掲げる。

「シャドウ・グラトニー――深淵であがけ!」

地面に奈落が発生、黒騎士を飲み込めてはいないが、動きが鈍る。

そこへ、魔力を収束した魔弾を撃ち込んだ。


爆轟。

瞬間、黒い閃光が煙を貫いて飛び出した。

「まだ動けるか……!」

黒騎士の鎧にはひびが入り、兜にも亀裂が走っていた。だが動きは止まらない。

双剣を構え直す黒騎士。

奈落を霧散させて、再び接近、旋回、斬撃。


エクリナは空間の壁を展開し、斬撃を滑らせる。

再度黒騎士の足元へ〈シャドウ・グラトニー〉を展開し、わずかに動きを封じる。


「ダークネス・フラクトル!」

エクリナの足元の影が四つに分かれる。

それは天へと伸び、影人形となる。

エクリナと同じ洋装だが黒き姿であった。


「人形よ掛かれ!」

〈シャドウ・バレット〉〈ディメンション・スライス〉

〈ナハト・シンフォニア〉〈シャドウ・クロスアサルト〉

四体の影は半自動で動き、ランダムに中級魔法以下の術を放つ。


黒騎士は一体の影人形と撃ち合う。

影エクリナの杖術は単調で、容易に切り伏せられてしまう。

残り三体の影人形も単調に魔法を放ち、黒騎士を足止めする。

それは、エクリナに刹那の“詠唱の余裕”を捻り出すための時間稼ぎだった。


「……“静かなる破滅”をくれてやろう」


《魔盾盤ヴェヌシエラ》を構え、詠唱に入っていた。

「空間よ、応えよ……我が闇は、もはや形を持たぬ。時間は砕け、次元は沈黙する。

 記憶されることすら許されぬ、完全なる消去――ここに下すは、魔王の消滅令ッ!

 アニヒレイト・ゼロ=ディメンション!!」


空間が“潰れるようにして破壊”され、敵は吸い込まれたのち、世界そのものが大音響と共に反転・爆裂する。

ルゼリアやライナが相手にしていた下級兵だけではなく、自身の影人形すら巻き込む、一掃の一撃だった。


――だが、その中心から再び立ち上がる影があった。


黒騎士。

まだ、立っている。


「っ……耐えた、だと……!?」

(直撃を受けてなお、膝もつかぬか……この将級兵、誰かに手を加えられているな……)


顔面の装甲は半壊し、鎧は焦げ、片腕が崩れている。

それでもその体は前を向き、動く意思を見せる。


「己が……使命は……魔王の、討滅」


「……その言葉に、意味はあるのか?」

エクリナの瞳がわずかに揺れた。


「貴様に、意思はない。勝利も敗北も理解しない。“生きている”とは呼べぬ存在だ……」

魔杖を握る手に、再び魔力が集まる。


(あれほどの一撃でも、膝すら折らぬとは……。魔核の配置が分散型か? それとも、耐魔法構造が異質なのか……)


(ならば、物理的な斬撃や魔力の奔流では足りぬ。“空間そのもの”を断ち切り、存在の座標ごと削り落とす――その手を取るしかあるまい)

瞳が鋭く細まり、戦場を読む魔王の眼差しが宿る。


「……貴様の造られし存在、しかと見極めた。我が闇で覆い隠すには――今が好機だな」


次の瞬間、二人は同時に踏み込む。

魔力と剣気、空間と斬撃。

交錯する影と影――戦いは、なお激しさを増していた。

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