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魔王メイドエクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第三章:静穏と影の狭間

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◆第28話:魔王一家、迎撃す◆

山道の先、瘴気の中心より現れたのは、重厚な漆黒の鎧を纏った巨影――“黒騎士”。

その背後には、仮面をつけた異形の傀儡兵たちが、幾重もの列をなし、山道を埋め尽くすように展開していた。

無言でこちらを睨むその光景は、まるで意志なき死者の軍勢が儀式に臨むかのような、不気味な整列であった。


「……いたな、魔王エクリナ」


黒騎士の声は、甲冑越しにもなお聞き取れるほどに低く、冷え切っていた。

だがそこには、使命を刻まれたかのような、静かな殺意があった。


「…………役目を果たす。己が役目を、必ず……」


黒騎士が地を蹴ると同時に、背後の傀儡兵たちが一斉に躍り出る。

その動きはまさに、一糸乱れぬ“機械仕掛けの斬殺兵団”。個性も感情もなく、ただ“命令”のみに従い、殺戮へと突き進んでいた。


「全員、迎撃態勢を! 宿の被害は最小に留めよ!」


ティセラの《浮遊式聖印装置ソリッド=エデン》が光を放ち、〈ミメシス=アークレイ〉が展開される。

防護結界が周囲を包み込み、宿と民間人を護る防壁が形成されていく。


「ルゼリア、ライナ。前衛を任せる。斬り込みを許すな」

「了解です、エクリナ」

「よーーし! 久しぶりの敵だーっ!」


ルゼリアは《焔晶フレア・クリスタリア》を“飛晶”に展開、ライナは《魔斧グランヴォルテクス》を“雷大両刃斧”へと形態変更。

二人は風を切るように突撃し、宿から離れた開けた山道へ敵を誘導する。


「喰らいなさい、スカーレット・ニードルッ!」

ルゼリアが放つのは、中距離対応の魔弾魔法。紅蓮の双晶より炎の矢が幾重にも射出される。


「こっちも負けないよっ! ライティング・スナップッ!!」

ライナは跳躍と同時に、斧を振るい雷光を纏った斬撃を空から叩き込む。


迎え撃つ傀儡兵たちも、それぞれ異なる魔法を展開。

一体は大地を砕く衝撃波を、一体は毒霧のような煙状魔法を、もう一体は空中に無数の刃を生成し迎撃する。


「近接は僕に任せて! リア姉、援護お願いっ!」

「当然です」


ライナの《魔斧グランヴォルテクス》を両刃のハルバードに戻し、敵の懐へと斬り込む。

その背後から、ルゼリアの火炎弾と炎槍が絶妙なタイミングで援護射撃を重ね、敵の守りを削り取っていく。



一方、後衛のエクリナは《魔杖アビス・クレイヴ》を構え、戦況を冷静に見据えていた。


「ふむ……動きは単調。ならば、こちらから変化を与えるとしよう」

詠唱と共に空間が歪み、敵の足元が一瞬沈み込む。

その瞬間、爆雷のごとき闇の魔力弾が横合いから炸裂した。



高所に陣取ったティセラは、両手を広げて空間制御を維持していた。

「……外界との断絶を維持。これで、民間への被害は防げます」

その目は、すでに敵の背後に流れる魔力の痕跡を追っている。

(……首謀者、まだ姿を現さない。だが、必ず近くにいる)


セディオスもまた、《魔剣アルヴェルク》を構え、傀儡たちの中央へ斬り込む。

《魔剣アルヴェルク》は魔力を注がないと威力を発揮しない。

魔核の痛みを抱えながらも、その剣筋は正確に敵の命脈を断ち切っていく。

「ッ……! 数は多いが、動きは読める。ならば、一撃ずつ確実に墜としていく……!」


そして――


黒騎士が、混戦の只中を無視するかのように、真っ直ぐにエクリナへと歩を進めていた。

その歩調は、静かでありながらも決して止まることのない執念のようなものだった。


「見せてもらおうか……貴様の“魔王”としての格を」

「この身を以て、その価値を、確かめよう」


エクリナもまた、ゆっくりと前に出る。その瞳には、どこか憐れみのような色が浮かんでいた。

「将級の兵か、哀れな傀儡だな。主を失いながらも彷徨い続けるとは……」

「だが、ならばせめて。我が手で葬ってやろう。――“終わり”を与えるのも、我の役目であるからな」


そして――空が裂けた。

魔力が交錯し、雷鳴が轟き、地が震える。

温泉宿は、もはや戦場と化していた。


だが、その中で確かに輝くものがあった。

それは、“家族”という絆。

たとえ過去の怨嗟がどれほど襲い来ようと――


魔王一家は、決して屈しはしない。

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