◆第231話:迎賓館への移動◆
アーク駅構内で友好を結んだ両使節団。
拍手に包まれ、笑顔が絶えなかった。
しばしして――
拍手の残響が石に折り返し、足音の律動へ収束する。
「早速ではあるが、会議をしたいと考えているのである」
自治長のリンデが、ヴァレンシアに申し出ていた。
三本角の金輪が微かに鳴り、決意の震えを隠す。
「ええ、日程が限られてますからね、是非お願いしますわ」
ヴァレンシアは承諾し、促す。
リンデとヴァレンシアは両隣で歩き、会議室へ向かう。
各代表の後ろに付き従うアーク使節団とフォルネア使節団。
厳粛の場ゆえに会話は、リンデとヴァレンシアだけであった。
互いに柔和な顔で、何かしらの雑談をしていた。
ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! という足音だけが響く。
誰も咳ばらいすらしない。空気は磨かれた刃のように静まる。
その最中、エクリナは隣のコルネをちらりと見た。
泣き晴らして目は赤く、涙の跡がまだ見える。
少し前に、相棒『ヴォトカスト』を潰した手前、さすがに気に病んでいた。
(う~む、制圧しなければならんかったからな……)
(まさか、あのゴーレムが破壊されたことで泣くとは思っておらなんだ……余程大事なものだったのであろうな……)
コルネは小柄ながら、強い警備隊隊長であることを示すよう胸を張り、堂々と歩く。
先刻泣いた姿を忘れさせる、見事な出で立ちであった。
踵の打音が前列と揃い、隊の呼吸が戻る。
アーク自治区警備隊隊員たちも隊列をなし、同じく堂々と付き従う。
装いはボロボロでも、視線は鋭い。
破れた装甲の縁に乾いた血が筋を作る。
(機会があれば、少し話すか……)
コルネを一瞥し、エクリナは思う。
フォルネア使節団は技術者集団ということもあり、エクリナへの畏怖は簡単には拭えない。
なるべく気にしない者、なお恐れる者――様々であった。
理で測る者ほど、規格外には沈黙する。
ガンゴだけが、堂々と正面だけを見て歩いていた。
副代表として行進の先頭に立つ、その歩みは立派だった。
その横には『潮刃隊』が見守るように行進していた。
会議室に入るまでが仕事の彼らは、気を抜かず警戒を怠らない。
アーク使節団の行動を目の当たりにし、襟を正していた。
ナギロは先頭に立って隊を率いる。
隣には初めての人属の友人ガンゴ、少し前には護衛対象のヴァレンシア。
(この身に代えてでも、己が指令を果たしますぞ……)
指の節が鳴り、柄巻が掌に馴染む。
命を賭してでも守る覚悟はできていた。その程度には心を許していた。
それは覚悟を見せた二人への敬意にも見えた。
◇
隊列が歩みを進める。
既にアーク駅を出ており、豪奢な建物が見えた。アーク自治領の迎賓館らしい。
扉を開け、中へ入る。
樹脂香と石灰の匂いが混じり、客人のための冷気が肌を撫でた。
「アークは来賓が多いため、駅近くに迎賓館を作ったのである。少々人数が多いゆえ、まずは少数で会談させて頂きたいのである」
リンデがヴァレンシアにと申し出る。
「ええ、そうですわね」
ヴァレンシアの人選は最初から決まっていた。
「ガンゴ、エクリナさん、ティセラさん、同席をお願いしますわ」
三人は頷く。
「シトラス、いらっしゃい」
呼ばれたのはヴァレンシアの女性秘書だった。
「残った使節団のお世話をお願いね」
ヴァレンシアは秘書に指示する。
「かしこまりました、オーナー」
シトラスは会釈し、フォルネア使節団のもとへ向かう。
控えの茶と傷薬について、目配せ一つで指示を飛ばす。
「部屋への案内は、潮刃隊の中隊長がいたす」
リンデが言う前に、ナギロが告げた。
「……任せるのである」
信用されていないのを受け入れ、リンデは承諾した。
「ガゼ、フォルネア使節団への案内を頼むぞ。隊を半分連れていけ」
ナギロは冷徹に指示する。
ガゼは「はっ!」と言い、フォルネア使節団を護衛しながら別室へ案内し始めた。
「イーサリ、コルネ、ついて来るのである。それとコルネ、こちらは警備隊を待機させるのである。外の待機部屋に行かせるのである」
リンデはコルネに告げる。
「爺さん! それじゃあ……いや、何でも……ない」
エクリナを一瞥して、指示に従った。
「皆、外で待機してくれ。後で、うちも待機部屋に向かう」
警備隊は忠実に従い、部屋を出ていった。
「お待たせした。互いに準備が出来たようであるな」
先導し始めるリンデ。
「会議室内には、ブロム、シルヴァという参加者が待っているのである」
歩きながら、アーク側の会議参加者を伝える。
「承知しましたわ、リンデ殿」
ヴァレンシアはリンデの隣におり、ガンゴ・エクリナ・ティセラが続く。
ナギロを先頭に残りの潮刃隊が後を追った。
リンデの後ろにはイーサリとコルネがついていく。
迎賓館の部屋に向かう。
石柱と樹柱が調和した造りで、自然を感じさせる。
床は石造りで、歩くたびにカツン、カツンと鳴る。
ようやく、会議室の前に到着した。
「ここである」
リンデが扉を開けると、低身長だが筋骨隆々の髭の男ブロムと、蔓を纏った背の高い木人シルヴァが立っていた。
扉を開けたリンデに目をやり、その後ろを見る二人。いつもの空気ではないと感じていた。
ナギロが先に部屋に入る。
「失礼、拝見いたす」とだけ言い、安全を確認する。
窓・梁・床縁、順に三点を撫でるように目で掃く。
潮刃隊隊長の、いつになく物々しい素振りに二人は驚いた。
いつもは出で立ちに合わないほどの柔らかさを見せるのだが、その気配はなかった。
「……失礼いたした」
ブロムとシルヴァに礼をし、部屋を出る。
「リンデ殿、安全であること確認いたした。よき会議ができると良いな」
ナギロはリンデに告げた。
「ヴァレンシア殿、無事に会議室まで到着いたした。小官と潮刃隊は扉の外で待機しておる。何かあれば駆け付けいたす」
ナギロはヴァレンシアに告げる。
「護衛の任、お疲れ様です。何かあれば頼らせて頂きます」
ヴァレンシアはナギロに礼をした。
「さあ、こちらである」
リンデがヴァレンシアたちを促す。
ヴァレンシアに続き、ガンゴ・エクリナ・ティセラが入る。
ほぼ同時に、リンデ・イーサリ・コルネも部屋に入った。
迎賓館の大会議室。
ようやく人属と亜人属の技術師団代表が揃った。
椅子脚が石を擦る音が、最後の一つで止む。
会議が始まろうとしていた。
次回は、『4月12日(日)13時ごろ』の投稿となります。
引き続きよろしくお願いします。
本日もお付き合いいただきありがとうございました!
引き続き、評価・ブックマーク・感想で応援いただけると励みになります!




