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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第十章:遠き地での出会い

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◆第230話:選択の先には◆

アーク駅の攻防は、圧倒的な蹂躙で魔王が制していた。

固唾を飲んで見守るフォルネア使節団、亜人属民衆――

そして、”正しい”選択を突き付けられるアーク使節団。


魔杖すら向けず、魔王は佇む。

四体の影がアーク使節団を取り囲み、静かにその刻を待つ。。


竜人で自治長のリンデは、常識外の出来事の連続に混乱していた。

(正しい……選択……?)

周囲を見渡す。


自身を守る警備隊は倒れ、怯え、壊滅している。

(生きている?……誰も死んでいない……)

無力化されたのは戦具ばかりで、怪我はあれど皆、生存していた。


血を流すもの、痛みに呻くもの、恐怖に喘ぐもの――さまざまであった。

(間違いなく神造生命体……相対すれば死しかない存在……だが……生かしての制圧を見せた……)


ほんの僅か、瞼を閉じるリンデ。

そして開き、足元の少女を見る。


コルネは涙を流し、「爺さん――ごめんよ――」と、かき消えそうな声で呟いていた。

(まだ生きているな……皆生きておる……ならば……)

決意は定まった。


選ぶべきは一つである。


リンデは静かに左膝をつき首を垂れ、右手を胸に当てた。

「御身の慈悲に感謝を、許して頂けるならば外交のやり直しを乞う」

胸に当てた掌が微かに震え、吐息が白く散る。


リンデは理解した。

警戒と誤発砲を痛みをもって許し、外交を再開できるようにしている、と。


それを見たイーサリや警備隊は驚愕する。

リンデの所作は、忠誠を誓うに等しい行為であったからだ。

亜人属領を裏切り、『霊機自治区アーク』を差し出すに等しい。

そうまでしても”選択する”しかなかった。誤れば本当に殲滅されるからだ。


隣のイーサリも、リンデと同じ姿勢になる。

自治長の意をくみ取り、従う。

警備隊も続々と同じ姿勢に。


戦具を捨て、決して立ち上がらず、這うようにして隊列を組む。

転がる弾倉の音が、最後の一つで止み、隊列が整った。


最大限、エクリナを刺激しないようにしていた。

変わらず、冷ややかに見やるエクリナ。


ようやく口を開く。


「うむ、理に適う答えだ」


満足げにほほ笑み、四体の影を霧散させる。

そして、《魔杖アビス・クレイヴ》と《魔盾盤ヴェヌシエラ》を異空間へ収納した。

戦具は音もなく線に変わり、空間の継ぎ目へ吸い込まれた。


エクリナ自身も武装を解除し、言う。

「リンデとやら、顔を上げよ。仕切り直しだ」


そう言うと、ヴァレンシアの横へ転移した。


場を圧していた見えない重みが薄れ、肩の力が一斉に抜ける。

魔王の威圧が和らぎ、リンデたちの緊張が解けた。


「ヴァレンシア殿、先ほどのは勘違いで”外交”のやり直しをしたいと申している」


転移したエクリナは、何事もなかったように告げた。

ヴァレンシアは、一瞬で戻ってきたエクリナに驚いていた。


「さて、どう選択する?」

横目で見ながら言うエクリナ。


「……そうね、再開としましょう」

ヴァレンシアは何とか取り繕い、返答する。


後ろへ向き直るヴァレンシア。

「アーク使節団! 隊列を正してください!」


凛々しく言い放つ。

驚愕し通しの使節団だったが、号令に従い隊列を戻していく。


それを見たナギロ。

「潮刃隊、整列!」

勇ましい老婆に促され、号令をかける。


「はっ!」と短く鳴って、靴音が一斉に揃う。


数歩離れているアーク使節団も体勢を立て直していた。

体をはたき、埃を落とす。

なるべく身なりを整えようと必死だった。


コルネは既に枷を外され、涙を拭っていた。

リンデが頭を撫で、「無事で何よりである」と言っているようだった。


 ◇


砕けた石粉の匂いが薄れ、構内に低い換気音だけが残る。

赤い絨毯は破れ、もはや儀礼の装いではなかった。

石造りの床は割れ、めくれ、地を晒す箇所も多かった。

まるで戦の後のような状態であった。


互いの使節団は準備を完了する。

ヴァレンシアとリンデは僅かにうなずき合う。

フォルネア使節団は歩みを再開し、アーク使節団へ近づく。


そして――


三歩前で、ヴァレンシアが立ち止まる。

三歩――刃も届かぬ”交わりの間”。


目の前のリンデは、三本角の金輪の光沢が鈍り、細い擦過痕が煌めく。

体に巻きつけた礼装は微かに黒ずみ、煤が落ち切れておらず、ボロボロであった。

それでも自治長として民を守る、気高き選択ができる統括者であった。


ヴァレンシアとリンデの目が合う。

互いを認め合い、同時に歩みを進める。

手を差し出し合い、固い握手を交わした。

冷えた掌が触れ、次いでじんわりと熱が移る。


アーク駅構内は、友和的な状況にもかかわらず静かだった。

静寂が空間を支配する。


その時――

最初に静けさを打ち破り、喝采を送ったのはエクリナであった。


ティセラ、ガンゴ、ナギロと続く。

乾いた一拍が、二拍、三拍と広がり、やがて波になる。


それは開始の合図のように波及し、その場にいた全員が喝采を送った。


「今日は良き日ですわね」

ヴァレンシアは微笑みながら言う。


「ああ、後に祝日になるであろう」

リンデも微笑んで答えた。


ようやく、外交が始まる。

人属と亜人属、新たな時代の幕開けでもあった。


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