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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第十章:遠き地での出会い

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◆幕間:魔王の制圧を見守るもの◆

アーク駅内は騒然であった。

友好を結ぶはずの使節団から銃口を突きつけられ、フォルネア使節団は戦々恐々としている。


そんな中、動いた者がいた。

海人のナギロと人属のガンゴだ。


己の正義を信じて言の葉を紡ぐ武官、結果は求めず行動で好機を作る名匠。

立場は違えど想いは一つ――よき未来を得るため。


結果として”瞬間”が生まれ、盤石の一手へと繋がった。

傍らにいるのは『魔王』と『封界』の名を冠する少女たち。

彼女らは瞬きの間に状況を覆し、あたかも拮抗を”演じて”見せた――そうとしか思えなかった。


黒衣を纏った銀髪の少女が歩み出る。

その胸の内は量りかねる。

だが、ただならぬ威圧だけが彼女の想いを語っていた。

空気がわずかに冷え、耳の奥が詰まる。


魔王を見送る、金髪の少女がいた。

「……大丈夫と信じてはいますが」


全てを伝えきれぬまま結界を制御する少女――ティセラは、そう胸中で呟く。


ふと横を見ると、老人と海人が固い握手を交わしていた。

己の想いを吐露し、結果を称え合うように。


「アンタのおかげで助かった!」「貴殿の度胸は素晴らしい!」


互いに柔和な笑顔で肩を叩き合い、そのまま抱き合う。

骨ばった掌が強く返り、短い息が笑いに変わる。

軽く背を叩き合う仕草は、生涯の友を得たかのように見えた。


「……命を拾いましたわ、助かりました」

胸をなでおろし、呼吸を整える老婆――ヴァレンシア。


「……勝手をして申し訳ありません」

取り繕うように言葉を選ぶティセラに、ヴァレンシアは冷ややかに返す。


「……勇ましい男たちが勝ち得た刻です、好きに使ってくださいな」


魔導銃を突き付けられ、”脅し”と受け取った使節団代表。

外交破綻も辞さぬ口ぶりであった。

背筋は伸びたまま、襟元に冷たい汗が一筋流れていた。


「エクリナは……まだ、信じています。信じ”たい”のだと思います」

ゆっくりと歩む魔王を見ながらティセラは言う。


「だって、今日は双方にとって大事な日ですよ?

 わざわざ襲撃しますか? それに警報術具は、エクリナとわたしに向けられた時に鳴りました……」

ティセラは淡々と状況を整理した。


戦域の方向で、ドォン!という低い音が響く。

石床が脛に震えを返し、天井の粉塵が細く降る。


アーク使節団の背後に鎮座していたはずの赤い騎士像。

エクリナの前に立ちはだかり、小柄な少女が搭乗するところだった。


「まるでヴァルザのゴーレム……いえ、それ以上に精巧……」

ティセラの知識をもってしても、初見の機構に思えた。


「いよいよ、人属と亜人属の戦が……」

護衛の少女と、巨兵に乗り込む少女を見比べながら、ヴァレンシアは算段を巡らせる。


「信じてあげてください……」


傍らの少女――ティセラは静かに言う。

盟友の背を見つめながら思う。


『分かっておる』の真意を探りつつ、力ではなく”想い”において彼女は強くなったのだ、と。


 ◇


抱き合う老人と海人。

ドォン!という重音がアーク駅内に鳴り響き、やがてゴォォン!という反響がこだまする。

見たくはなかった現実を直視する武官と職人。

黒衣の少女は銀の盾で巨腕を受け止め、微動だにしない。


「……アークを守護する巨兵を相手に……」


ナギロは驚嘆した。

魔導列車を伝って、ペラギアまで名声が届く守護の巨兵――

幼子のようにも見える隊長が搭乗し、百年余の刻にわたり境界際の自治区を守ってきたと聞く。

できることなら一目見たい――そんな下心すらあった。


その存在が――


昨日、握手を交わした人属の護衛と戦い、自慢の巨腕を阻まれている。

銀髪の少女、エクリナは身じろぎもせずそれを受け止めていた。

踵は半歩。爪先で床を噛み、揺れを殺す。


護る側と攻める側――立場で実力が発揮できぬ場面もある。

だが、この場は違う。”歴然”という言葉がふさわしいほど、力量差は明白だった。


「儂もエクリナのまともな戦いは初めて見るが……さすがとしか言えないな……」


ガンゴもナギロに同感だった。

セディオスの紹介で共に茶を飲み、食事をし、戦具を直し、ひと時を過ごした。

エクリナを軽んじたことはない。


だが、優しい少女という印象が強かったのも事実だ。


――それでも、目の当たりにすれば別だ。

鼓動が一拍、数え違える。掌がじっとり濡れた。


畏怖。恐怖。世界の敵。最初に胸を満たしたのは、その色。

そこにいるのは”既知のメイド”ではない。全てを蹂躙しうる『魔王』だった。


赤い騎士を模したゴーレムが、魔杖の横薙ぎに吹き飛ぶ。

無様に横たわり、黒い手がそれを縛っていく。

時折のぞく銀髪の横顔は、冷徹だった。


すると――


「信じて欲しいです……」

弟子のティセラが声を上げる。

「なんて、おこがましいことは言えないですけど……」

人属・亜人属を問わず、周囲に届くように。


「わたしの友は、『王』として守りたいだけなんだと思います……」

魔王の背から目を離さず、言葉を継ぐ。


「関わった『民』を護るのが責務であるかのように……彼女は戦うはずです」

それは、見護り続けた友としての願いであり、信頼であり、確かめるような独白だった。


「ヴァレンシア殿が懸命に外交に努めています」

「師匠が命を賭して守りたいものを、庇う姿も理解しています」

これまでの旅路、幾度もの窮地。ティセラは理路整然と積み上げる。


ですから――


「エクリナに恐怖しないでください」

「少なくともわたしはそうします。王にも居場所は必要なのですから……」


赤き騎士を、魔盾が遠くへ弾き飛ばした。

操縦者はエクリナの手に落ち、術で拘束される。

彼女はそれをアーク自治長の足元へ投げ渡した。


続けて、魔王が紡ぐは四体の影。

瞬時にアーク使節団を取り囲む。


メイドにして護衛、そして『魔王』――エクリナが、戦場を制した瞬間であった。

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