◆第229話:砕かれる思い、選択の刻◆
駅構内の空中に、二十を超える黒の魔力弾が待機していた。
エクリナは魔杖を向け、冷ややかな目でリンデたちを見ている。
拘束され、横たわるゴーレムを操作する少女。
コルネは叫ぶ。
「動け! ヴォトカスト!!」
《巨岩兵装》がメキメキと軋み、右膝立ちへと身を起こす。
それを横目に、エクリナは――
「……射出」
リンデを見直し、十の魔力弾を放つ。
「プロモ・アース・ハージズ!」
ヴォトカストの左手が床を打つ。
コルネは上位化した魔法を唱え、使節団を庇うよう強化土壁を展開した。
魔力弾は容赦なく地の守護に被弾する。
ドンッ! ダンッ!――
粉塵の帯が横走り、鼻腔に土の匂いが刺さる。
壁にヒビが入り、亀裂が走る。
やがて耐えきれず、バラバラと崩れ落ちた。
エクリナの前には、二重の結界魔法で護られた使節団。
コルネの魔法に合わせ、警備隊は集合しリンデとイーサリを護る陣を築く。
エクリナの背後には、なお半数以上の闇魔力弾が待機していた。
「……射出」
空気が一拍遅れて潰れ、耳奥がチリと痺れる。
残らず放つ。凶弾はリンデらへ向けて撃ち込まれた。
黒い弾が結界に当たり、砕く。
獣人や竜人の警備隊が叫ぶ。
「耐えるんだ!」「割れても張り直せ!」
結界を幾度も張り直し、身を挺してリンデとイーサリを守る。
竜人の副隊長が膝をつき、指先から血を滲ませながら死力を尽くす。
無情にも、エクリナの魔法は”それ”を蹂躙した。
結界術具は破損し、警備隊は傷だらけ。
腰の小型銃を手に、唸りながら懸命に威嚇だけを続ける。
「つまらん……ナハト・シンフォニア」
亜人たちの頭上に、闇刃が複数展開する。
薄刃は縦揺れしながら枚数を倍加させた。
「やめろ……止めろ! ヤメロォォォ――!!」
コルネはツインテールを揺らし絶叫する。
《ヴォトカスト》は無理やりに〈シャドウ・グラトニー〉を打ち破って立ち上がる。
右腕を犠牲にし、脚部や胸部の装甲が剥がれ落ちる。
「ふん。刃よ、踊れ」
闇刃はリンデとイーサリを狙い飛来する。
警備隊は小型魔導銃を撃つが、撃ち落とせない。
「プロモ・セキーラぁぁ!!」
《ヴォトカスト》は駆けながら叫び唱え、左手をかざして岩の礫を射出した。
闇の魔力刃と岩礫がぶつかり合い、相殺。
だが、回避できる黒き刃はあざ笑うように舞い、なお”敵”へ疾駆する。
もう少しで切り裂く――寸前でのところで”巨兵”が間に合う。
「プロモ・ガイア・カリス!」
地の加護を得て、頑丈さ向上する。
一撃目が胸板を裂き、二撃目が脛を割る。視界の端で、リンデの肩が小刻みに震えた。
エクリナの正面を見据え、全ての斬撃から庇う盾となった。
「コルネ!」「コルネ嬢!」
叫ぶリンデとイーサリに構わず、刃は直撃。
胸を、足を、腕を闇に斬られながらも、それでも立ちはだかる。
《ヴォトカスト》は辛くも耐え抜いた。
ゴ、ゴ、ゴ……ドスン――
金属が軋む音が響き、膝をついた騎士型ゴーレムは倒れ込む。
魔王の眼前には、コルネの姿が見える。
エクリナは歩み寄り、コルネの首元を掴む。
そして、搭乗席から乱暴に引きずり出す。
「くぅっ……」
「フェイズ・チェイン」
圧縮した空間で形作った枷と鎖が、コルネの両腕を後ろ手に拘束する。
枷が手首を締め付け、肺の空気が逆流して嗚咽に変わる。
「ぐっ……ヴォト、カスト……うちごと潰せ!」
捕虜を嫌ったコルネは最後の指令とばかりに命じる。
バキン、ゴキン――歪な音を出し、立ち上がる騎士。
ただ忠実に、主のため――目の前の"障害"を取り除くために。
「……いい加減、邪魔だ!」
エクリナは《ヴェヌシエラ》を左手にかざし、魔力を込める。
そして忠義の騎士へ打ち付けた。
「レイヤー・スマッシュ」
景色の線が斜めに折れ、轟音が一拍遅れて胸腔を叩いた。
断層空間を圧縮し極限まで高めた後、方向性を持たせて加速膨張させる一撃。
胸を貫き、巨躯を空中へと吹き飛ばす。
――ドゴォォーンッ!
赤いゴーレムは放物線を描き、アーク使節団の背後に落下する。
胸部は大きく凹み、操縦席を潰す程度にはひしゃげていた。
異常を知らせる警告灯が、弱弱しく点滅していた。
「……ヴォト……カスト……相棒……」
最後の希望を打ち砕かれ、コルネの瞳に涙が煌めく。
それを見たエクリナは、コルネをリンデへ向けて乱暴に投げる。
リンデが反射で手を伸ばす。「コルネ!」と、返事は掠れた息だけ。
「がふっ!」
床に叩き付けられ、リンデの足元へ転がるツインテールの少女。
「ダークネス・フラクトル」
エクリナの足元の影が蠢き、円周上へ分裂。
影は天へ伸び実体化する。
影で出来たエクリナが四体、アーク使節団を囲んだ。
「さて、もういいだろう……」
「選べ……それが誤りならば”影人形”が、貴様らを滅する」
それを聞いた警備隊は震え、絶望する。
リンデもイーサリも汗が止まらない。
魔導銃を突き付けられる以上の恐怖が、アーク使節団一行を包む。
“正しい”選択を――迫られていた。
久々にキャラクター設定集を更新しました。
◤巨岩兵装ヴォトカスト◢
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次回は、『4月9日(木)13時ごろ』の投稿となります。
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