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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第十章:遠き地での出会い

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◆第228話:魔王vs巨兵◆

静寂が支配するアーク駅構内。

人属の使節団と亜人属の使節団がにらみ合う狭間を、黒衣の銀髪少女が歩む。

大きな杖と奇妙な盾を備え、碧眼は冷ややか――護りたいものを守るため、亜人属の前に立つ。


一歩、一歩と近づく。

人属使節団を守護する結界に触れる寸前、エクリナの進路上の壁だけが霧散した。


「エクリナ……」

心配するティセラが名を呼ぶ。


エクリナは足を止め、振り返らずに答える。


「うむ、分かっておる」


再び歩み出す――。

空気が重くなる。耳鳴りのような低い振動が、床板から脛へ昇った。


「爺さん……あれはダメだよ……」

初めて肌で感じる”魔王”の圧に、本能が危険を告げる。


「時間を稼ぐ……逃げて……」

コルネはリンデに告げた。


「ま、待て……ここで動けば……これ以上は戦になりかねない……」

制止を求めるリンデ。しかし、コルネは首を振る。恩に報いたい、その一心で。


「ごめんね……」


「来い! ヴォトカスト!!」

謝りつつ、《巨岩兵装》の名を呼ぶ。


ビコン――。


アーク使節団背後に鎮座する赤き像の胸から、緑の光が漏れ出す。

胸腔の環状機関が回転し、鱗のように装甲板がこすれる。古の技術と新しい技術の音がした。

ガコン、と機構が嚙み合い、突然走り出した。

ダン、ダン、ダン、と床を踏み鳴らしてコルネへ駆け寄る。


ひときわ大きく――ダァァンッ!

跳躍したヴォトカストがドォン!と着地。左膝を折り、左拳を床に突いていた。


左掌を静かに開く、主を待つ姿勢をとる。


コルネは左掌を踏み台に、腕、胸、肩を蹴り、頭部から搭乗する。

《巨岩兵装ヴォトカスト》――操縦可能なゴーレム型戦具が、エクリナの前に立ちはだかった。


「まるでヴァルザのゴーレムの様……いえ、もっと精巧な……」

過去を引き寄せ、見定めるティセラ。


「我の前に立つ……分かっておろうな?」

感情の見えぬ声で、エクリナが告げる。


「アンタを見て、覚悟を決めないやつはいないよ!」

コルネは右腕を拳に固め、振り下ろす。


左手をかざし、《魔盾盤ヴェヌシエラ》を向けるエクリナ。

巨腕と魔盾が激突――


ゴォォン!

構内に重い音が響き、衝撃波が走って風に変わる。

柱の飾り金具が震え、天井の木組みに埃が降った。

最前列の獣人が半歩よろめく。


それでも、《巨岩兵装ヴォトカスト》は盾を打ち破れない。

エクリナは、ただ静かに見上げているだけだった。


「はあ!? 硬すぎ……だよ!」

左拳も握り、改めて叩きつける。


ゴォォン――同じ音。結果も同じ。


「この! この!」


連打。ゴォォン、ゴォォン……鈍い反響だけが続く。

エクリナのまぶたは動かない。息だけが、刃のように静かだ。


「シャドウ・グラトニー……」

エクリナが低く呟く。


拳打が当たる刹那、《ヴェヌシエラ》の影が顎を開き、右拳を呑む。

黒い手が這い出して、巨腕ごと縛り上げた。


「……そろそろ、満足したか?」

飽いたような声音。


「!? 離せ! プロモ・ロック・パイル!!」


ヴォトカストが床を強く踏み、石殻と土髄の杭を次々と突き上げる。

《巨岩兵装ヴォトカスト》はコルネの魔法を増幅させる。

通常は中級魔法までしか扱えないコルネだったが、ヴォトカストにより増幅された今なら上級魔法に届かせることができる。


石土の杭が迫る。

「ディメンション・スライス」


空間が薄くひび割れ、可視できぬ細い光跡が走る。

突き上がる杭は紙片のように刻まれ、かすりもしなかった。


「邪魔だ」


エクリナは一歩踏み込み、《アビス・クレイヴ》を横薙ぎに振る。

魔杖が空気を裂き、《ヴォトカスト》の横腹を叩き据え、巨体を横転させる。

赤い絨毯が波打ち、竜人リンデが息を呑む。


視界が開け、コルネの背後――アーク使節団の面々がようやく見えた。


「シャドウ・グラトニー」


横転したゴーレムの真下に、奈落の顎がぱっくりと開く。

黒い手が這い出し右腕から縛っていく、ヴォトカストの巨体を床へ縫い付けて拘束する。

影は支えを奪う。――動きは、そこで止まった。


「シャドウ・バレット」


さらに背後に闇弾を展開。

十、二十――と数を増やし、正面の亜人属使節団を正確に捉える。


「撃たれたのだ、返さなくてはな?」

エクリナは魔杖をリンデへ向けた。


立場は、逆転した。

アーク駅構内――恐怖がすべてを支配する。

敵も味方も、いまは同じものを見ている――”圧倒”という名の現実を。


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