◆第225話:魔導列車の旅◆
魔導列車の発着場。
タラッサに導かれて到着した使節団一行。
構内の天井は高く、通風孔から潮の匂いが微かに落ちてくる。
まるで生き物のように「ゴウン、ゴウン」と唸り、見たこともない魔導術具に圧倒されていた。
車両が十を連ね、どの車両からも乗り込める配慮がされている。
車両同士も繋がっているようで、内部移動性も良さそうだった。
「亜人属領が誇る移動手段、魔導列車であります!」
自慢げに言うタラッサ。
「こいつは……すげえな! これほど巨大なものが動くのか!」
驚愕するガンゴ。彼が見た魔導術具の中でも最大級であった。
「綺麗な流線形……風を味方に付ける設計思想に見えます」
全体像を見てぶつぶつと思案するティセラ。
背後にいた使節団、特に魔導術具士たちは近くで各部を見て、驚嘆するばかりであった。
「すいませんね、皆見るのが初めてでして……」
ヴァレンシアが代表してタラッサに謝罪する。
「大丈夫であります、想定済みですから。時間に多少の猶予がありますので、じっくりと見て頂ければであります」
見学ルートには安全柵が張られ、要所に警備員が立つ。観光と警備を同時に転がすのが彼女の流儀。
タラッサは先を見ていたようで、”魔導列車見物”を予定に組み入れていた。
「すまん、教えてくれ! 動力は何だ? この大きさでは、どんな魔晶でも長く動かないだろうに……」
懇願するように聞くガンゴ。その思いは皆同じであった。
「動力源は『マナ』になります。マナとはこの星の魔力、言わば血液のようなものらしいです」
「亜人属領ではそれを活用できる術を確立しています。詳細はアークの技術者に聞いて頂ければ助かるであります」
タラッサは権限の範囲で知っていることを伝えた。
「『マナ』か……。どうやら、儂らの目的が出来たようだな」
ガンゴは背後の魔導術具士を見て言う。
「はい!」「もちろんです!」
彼らも同じ思いだったようで、小気味の良い返事をした。
人属の使節団を眺めつつ、構内の時計を見るタラッサ。
「そろそろ、出発の時間になるであります」
魔導列車に興味が尽きない一行に声を掛けた。
「皆さん、乗りますわよ。魔導列車の外観もいいけれど、内装も気になるでしょう?」
「お、そうだな!」「乗りましょ!」
ヴァレンシアは使節団をあおり、乗車を促した。
「子供の一行の様で申し訳ありません」
「興味を持って頂けているようで何よりであります」
ヴァレンシアとタラッサは言う。
「自分はここまでであります。後はナギロに引き継ぐであります」
「ナギロ、無事に皆様を送り届け、必ず全員で港に戻るようにであります」
タラッサはヴァレンシアに言いつつ、ナギロに指令を出す。
ナギロはそれを聞き敬礼する。
それに合わせてナギロの部下も敬礼をする。
「拝命いたす。共に必ず帰港いたす」
肩章の《潮刃隊》の印がきらりと光る。港湾と列車道を守る近衛、その責任の重さが一目で伝わった。
ナギロはタラッサの目を見て、決意のように答えた。
踵を返し、自身の隊に指示を出す。荷物の積み込みが始まる。
ヴァレンシアは会釈し、エクリナもそれに従い礼をした。
その後、《魔導列車カンテサンス》に乗り込んでいった。
内装は四名ごとの個室となっており、既に使節団は班ごとに分かれていた。
ヴァレンシアはガンゴが座っている部屋を確認すると中に入る。エクリナも続いた。
四名の個室とされているが、幾分広く六名程度までなら座れる感じだった。
壁は樹脂の木目調、床は薄い敷絨。油と金属の匂いに、乾いた薬草の香りが重なる。
寝室が隣に連なっており、簡易的だが間切りもあったため、ベッド周辺は一人部屋になっていた。
「豪華な造りだな。まるで宿そのものだ……」
驚き疲れているガンゴ。
「技術の粋を集めている感じですね。空間魔法で間取りの拡張まで行うとか、中々できるものではありません」
ティセラは部屋を探検し、ガンゴの正面に座りながら語る。
「これだけでも、大分もてなされているのが分かるわね」
ヴァレンシアはガンゴの横に言いながら座る。
「今回の訪問の重大性が出ているな。監視の目も多くあった。青い服の海人だけではなく、民衆に紛れている者もいたな」
エクリナは扉を閉めて言う。
「やはりそうでしたか。独特の魔力波長が出てたので警戒してましたが……」
ティセラもそれを分かっているようだった。
「まあ、外交の一歩であり、品定めもあるようだったな。要人と話すのは疲れるぜ……」
ガンゴはやれやれといった手ぶりで言った。
じっとガンゴを見るヴァレンシア。
「分かっているのであれば、相応の振る舞いをしてもらえるかしら? 貴方”も”使節団をまとめる役目があるのですからね?」
「はしゃぎすぎです!」
ヴァレンシアは扇を取り出し口にあて、厳しく言った。
「ぐっ……分かってらい……」
言い返せないガンゴだった。
窓の外を見ると発車準備が完了したようで、整備員が離れていく。
「マモナク ハッシャ イタシマス」
片言の声で車内に放送される。
それと共に魔導列車が動き出すのが分かる。
体が椅子に押さえつけられる感覚、魔力の微妙な波動であった。
遠くで短く笛が鳴り、景色が音より先に流れ始めた。
ただ、先ほど乗った馬車よりもさらに振動が少なく、窓の外を見なければ分からないほどだった。
「一日掛かるのであったな?」
確認するエクリナ。
「ええ、そのはずよ」
答えるヴァレンシア。
「ならば、ゆっくりしよう。茶を用意する」
エクリナはそう言うと、《次元重層収納式ミディア・アーカイヴ》から水差し・魔導ポット・茶葉の缶詰を取り出した。
ティセラは、菓子は何があるのかと空間内を見やっていた。
車輪が同じ拍で歌い、窓枠に青の帯が幾筋も走る。誰もが少しだけ口数を減らした。
技術都市フォルネアの技術使節団一行の旅は、まだ続く。




