表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第十章:遠き地での出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

239/247

◆第224話:亜人属領、海門港ペラギア◆

正午過ぎの海原を進む《魔導船フォルネア号》。

エクリナを含む技術都市の代表者たちは、ひと時の安寧を得ていた。

大きなトラブルもなく、やがて海門港ペラギア近海へ入る。

港には巨大な防壁がそびえ、通行門もまた威圧的な規模だ。


門上の見張り台では、鱗鎧の海人が《監視鏡》を覗き込み、旗で合図を送っていた。

弦の張り詰めた空気に、海風の塩が混ざる。


「……大きい」

「……凄まじい迫力だな」


通過する門を見上げ、ティセラとエクリナは息を呑む。


「港もでかいな! 見たことない造形の船ばかりだ!」


外輪で進む古式の貨客船、魔晶推進の平底船、そして帆と推進器を併用する混成艦――

海路の”時代”が並んでいた。

ガンゴは停泊中の船を見やり、目を細める。


「船の両脇にパドルがあるぞ!」「甲板が全部覆われている!」

背後の使節団からも興味津々の声。魔導術具士が多いせいか、意匠に視線が集まっていた。


魔導船はゆっくりと桟橋へ。

ほどなく、甲板の拡声術具が告げる。


「長旅お疲れさまでした。本船は海門港ペラギアに到着いたしました。順次、下船をお願いします。――繰り返します……」


案内に従い、使節団が動き出す。


「降りましょう、エクリナ」

「ああ。ようやく地を踏めるな」


二人は軽く頷き、甲板を後にした。


 ◇


中層甲板から地上へ伸びる階段橋が渡される。


《フォルネア号》を降りた使節団の足元には赤い絨毯。

両脇には青いジャケットの制服を着た海人たちが整列していた。


背後には演奏隊、さらにその外側を多様な亜人の見物客が取り囲む。

絨毯の終端には、貝やサンゴの装飾を纏った海人の責任者が立ち、来訪を待っていた。


ヴァレンシアを先頭に進み、三歩手前で停止。

「自分はタラッサであります。海門港ペラギアの責任者を任されております」

「フォルネア技術使節団様、遠路のご訪問、誠に痛み入ります」


タラッサは自己紹介と労いを述べ、凜とした礼をした。


「豪華なお出迎え、使節団代表として御礼申し上げますわ」


ヴァレンシアは丁寧に応じ、握手を求める。

タラッサも手を差し出し、やわらかく握り返した。


双方の掌は一拍だけ触れ、すぐ離す。

――水の土地では「長く握らない」のが礼法であると、エクリナは何かの本を思い出す。


それを合図に、管楽器と打楽器の儀礼音楽が高らかに響く。

法螺と銅管が主旋律を受け持ち、貝殻打楽が拍を刻む。

水面で反響した音がわずかに遅れて帰り、和音が厚くなる。


華やかな音色は、人属と亜人属の国交再開の第一歩を告げていた。

演奏に合わせて見物人から喝采が上がり、使節団、エクリナ、ティセラも拍手を送る。


歓迎式ののち、徒歩で近くの馬車へ。

そこで、胸に勲章を付けた海人が一礼する。

左腰にはサーベルを刺し、小型の魔導銃を右腰に装備していた。


「お初にお目に掛かる、ナギロと申す。貴使節団の護衛をいたす。以後お見知りおきを」

「アークまでの送迎は、彼が責任をもって取り行うであります」


タラッサが示して補足した。


「宜しくお願いしますわ。こちらは使節団護衛のエクリナさんとティセラさん」

「見かけは少女ですが、実力は折り紙つきですわ」


「よろしく頼む」「よろしくお願いします」

二人が簡潔に挨拶する。


「なるほど、承知した。よろしくいたす」


ナギロは二人と握手を交わす。

種族多様な亜人属では、少女の護衛という組み合わせにも違和感は薄いようだ。


「駅へは距離がありますので、こちらの馬車へご乗車ください」

タラッサが促す。


「でかくて長いな、この馬車は……」


ガンゴの驚きも無理はない。

通常の馬車は客室一つに四名ほど。用意された馬車は十名は軽く乗れる客室が二両連結。

牽くのは人属領の倍はある巨馬が六頭並び、甲冑をまとっている。


「長距離移動用の馬車であります。馬には筋力補助の術具も装備し、長時間の走行が可能であります」


タラッサは微笑み、使節団は感心しつつ乗り込んでいく。

最後にエクリナが乗り、出発準備は整った。


「それでは出発いたします」


御者が拡声術具で合図。馬車はゆっくりと動き出す。

車輪周りの工夫か、振動は驚くほど少ない。


三人掛けの長椅子が向かい合う車内。

タラッサ・ナギロと対面するようにヴァレンシア・ガンゴ。

エクリナとティセラは背面側に立ち、護衛位置を守る。


「これくらいの振動抑制が、あの自動馬車にもあればな……」

「ふん、しつこいわね。ちゃんと改良しますわよ」


ガンゴのぼやきに、ヴァレンシアが軽く返す。


「お二方は仲がよろしいのでありますな」

タラッサが目を細める。


「失礼いたしましたわ。彼とは長い付き合いでして……」

「ただの腐れ縁なので、お気になさらず」


ヴァレンシアは苦笑し、ガンゴは肩を揺らす。


その後も雑談は弾んだ。

船の外観、街並み――他愛のない話題だが、外交では大切な往来である。


互いの胸の内は秘めつつも、理解の地盤を少しずつ広げていく。

笑顔の温度は保ったまま、言葉の刃は鞘に収める――そんな練度の高い会話だ、とエクリナは測る。


(腹の探り合いとは大変だな……)

“大人”の会話を耳にし、エクリナは心中で呟いた。


やがて亜人の姿が目に見えて増え、馬車は《魔導列車》の駅へ到着。

切りそろえられた石壁、意匠を凝らしたステンドグラスの天井。

床一面の大理石は豪奢でありながら、どこか慎ましい。

行き交う種族も荷も多様で、雑踏は活気に満ちていた。


「ここがペラギア駅。ここは始発であり終点。この街を起点に、貿易品や海産物が全国へ流通するであります」

タラッサは誇らしげに紹介した。


「綺麗でありながら機能的ですね!」

思わず声を上げるティセラ。


「いいねえ、飾りすぎてないのが気に入った!」

ガンゴも嬉しそうだ。使節団の面々は、この先の乗り物に期待を膨らませる。


タラッサとナギロの先導で駅最奥へ。

そこに連なるのは、褐色の円筒車体が幾つも連結された、多連車輪の車両。

先頭は丸みに尖り、全体は巨大な節のある生物のようにも見える。


細い配管が下面を這い、一定間隔に窓。

各車体の側面には複数の魔晶が埋め込まれていた。


「皆様がご乗車なさるのは、こちら――《魔導列車カンテサンス》であります!」

タラッサが手を広げて示す。


海門港ペラギアで盛大な歓迎を受けた使節団。

いよいよ、霊機自治区アークへ向かう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ