◆第222話:マナ書物争奪戦◆
実験結果を書き記した紙片が積み重なり、棚には幾度も読まれた本が並ぶ部屋。
指令を受けたセルドリカとレーテシアは、しばし思案していた。
本を手に取り、中身をぱらぱらとめくるセルドリカ。
「リゼル様はよく本を読んでるが、あたいにはさっぱりだ……」
「指令こなさないと怒られる……」
無表情のまま、レーテシアが小さく悩む。
「メンドーだな。全部持っていくか?」
「それ、採用!」
悩むのをやめ、適当に結論。
それぞれが持つ魔導収納鞄を机の上に置き、口を開く。
「あたいは本を片っ端から入れていくぜ!」
「じゃあ、あたしは紙束を入れる!」
二人は手分けし、ガッサガサと音を立てて詰め込み始めた。
◇
紙の移動音が響く廊下側。
白衣を着た犬顔の獣人族が、”それ”を見ていた。
――団子頭の少女と、横に髪を垂らした少女が、これまで積み重ねてきた”歴史”を一気にさらおうとしている。
悟られぬようじりじりと離れ、獣人研究者は硝子製の保管術具が並ぶ区画へ、音を殺して駆け戻る。
◇
「これで最後だ」
棚の最後の一冊を鞄に放り込むセルドリカ。
「やっと終わった。合流しよ」
レーテシアが促す。
「ああ、そうだなぁ。……あ”?」
何かに気づき、セルドリカが目配せ。両腕に《冷気装甲ブリザード・クラッシャー》を転送する。
「ん……」
レーテシアも頷き、《双儀剣シグナ・クレイヴ》を異空間から抜く。
二人は警戒を保ったまま、魔導収納鞄を腰へ装着。
ゆっくりと扉へ歩む――
廊下には、魔導銃を構えた亜人属が十人ほど。
銃口は部屋の内へ向けて、厳戒態勢だった。
「戦具を捨てろ!」
狼顔の獣人が怒鳴る。
「おーおー、犬が吠えてるぜ!」
セルドリカが装甲同士をコツンと叩き、肩を回す。
「いいね……やっと戦える♪」
無表情のまま上機嫌に、レーテシアは双儀剣を構えた。
異様な雰囲気の少女たちに、警備隊が一瞬たじろぐ。
「う、撃て!」
狼獣人が号令。
「ふふ、風刃断」
レーテシアは《シグナ・クレイヴ》に乱流を纏わせ、鎌鼬を放つ。
魔導銃の弾丸は軌道を逸れ、風の魔力刃が彼らの装備と外套を切り刻む。
「ぐあぁ!」「ぎゃあ!」
悲鳴は上がるが、まだ致命ではない。
「楽しまないと♪」
ご機嫌なレーテシア。
「このやろう!」
エルフの青年が吠え、狙いをレーテシアへ。
「アイス・グリッド!」
セルドリカが床を強く踏む。
冷気が格子状に走り、足元から脚、腕へと凍結が伸びる。
「なんだこれ!」
亜人属たちを氷漬けにしたセルドリカは、冷たいまなざしを向ける。
「早く行こうぜ」
レーテシアに目をやり、言う。
「……仕方ない、砕く」
レーテシアは《双儀剣シグナ・クレイヴ》を振りかぶる。
警備隊の面々の瞳に、絶望が走る。
その瞬間――
ダ、ダ、ダ、ダンッ!
「セキーラ!」
琥珀色の短いツインテールの少女が、横合いから小石の弾丸を連射。
キン、キン――
レーテシアは《シグナ・クレイヴ》を回転させ、弾丸を弾く。
「邪魔……」
無表情に、楽しみを奪われたと告げる。
『マナ』研究資料をかけた攻防が、ここに始まる。




