◆第221話:初めてのお使い◆
樹が生い茂り、鉄の建物が立ち並ぶ区画。
地中へ続く金属管が、時おり低く異音を鳴らす。
霊機自治区アークの一画にそびえる異様な研究棟、『マナ』に関する研究が行われている。
警戒用の術具が張り巡らされ、魔導銃を持った亜人が巡回をしていた。
その建物へ忍び寄る影があった。
氷結銀色の団子髪を二つ結った少女と、淡い緑の短いサイドポニーテールの少女。
セルドリカとレーテシアだ。主リゼルの指令でアーク内部へ侵入していた。
「えれぇ厳重だな……」
「これなら期待できるかも……」
氷風コンビは警戒しながら進む。
「登るぞ」
セルドリカは囁くと、氷の階段を瞬時に形作り、建屋二階の窓へと接続。
指で”チョイチョイ”と招き、先に駆け上がる。
レーテシアは無表情のまま頷き、後へ続いた。
窓枠をこじり、音を立てぬよう慎重に開けるセルドリカ。
「こういう細かい仕事は苦手だ……」
殴る・蹴るが得意な少女は、低く愚痴る。
「あたしも嫌い……」
戦うのが好きなレーテシアも、淡々と同意。
中は仮眠室らしく、ベッドが整然と並ぶ。
「お目当てはどこだ? ……よっと」
セルドリカは腰の魔導収納鞄からコンパスを取り出す。
「ネヴァ言ってた。……そのコンパス、濃い『マナ』を検知してくれるって」
レーテシアが見つめながら言う。
「お、確かに向いてるな」
「行こう」
二人は出口へ。
「見つかったらどうする?」
セルドリカが小声で問う。
「もちろん口封じ♪」
無表情で明るく言う。
「はは、だよなぁ!」
息は合っていた。
◇
回廊を、音なく滑るように進む二人。
右へ、左へと角を抜ける。
「意外と誰にも会わねえな……」
「少し残念……」
二人の想いとは裏腹に、侵入は順調そのもの。
針が示す方角へ、スッ、スッと脚を運ぶ。
やがて、開いたままの扉。二人は迷わず内部へ入る。
硝子製の大きな保管術具が林立し、樽型の金属器へ配管が伸びている。
周囲には白衣の亜人が数名。壁際には魔導銃を抱えた警備の影。
「おお、ようやく目的地のようだな」
セルドリカが口角を上げる。
「ネヴァみたいな服の人がたくさんいる」
レーテシアは白衣を見てぽつりと言う。
「さて、どうするか……」
「あの植物人間、一人で奥に移動するみたい……」
「んじゃ、付いていくか!」
二人は白衣の植物人間——ドライアドを尾行。
気配を消し、角ごとに壁へ溶けるように身を寄せ、距離を保つ。
やがて、ひときわ大きな扉。
ドライアドは鍵を差し、開錠して中へ。
「入ったな……」
「どうする、入る? 待つ?」
首をかしげて聞くレーテシア。
「ここまで来て乱闘はメンドーだ。待つ」
「……分かった」
指令最優先で判断を揃える。
しばらくして、ドライアドが部屋から戻ってきた。
施錠をしこちらへ向かってくる、元の部屋に戻るようだった。
「む。セルドリカ、上に飛ばす」
「頼むぜ」
レーテシアが風で二人をふわりと上昇させ、
天井近くに張り付くと、セルドリカが氷で固定。
「……つめたい」
即座に愚痴るレーテシア。
「我慢だ」
短くたしなめるセルドリカ。
ドライアドが角を曲がり、保管術具の林立する部屋へ戻る。
通り過ぎるのを待ち、――パキン、と氷が外れて二人は静かに着地した。
先ほどの扉へ――
「さてと……おらぁ」
ドアノブを凍らせ、へし折るセルドリカ。
コン、と軽く叩けば、扉は内側へ開く。
中は紙束と、背表紙の硬い専門書がびっしり。
「当たり。良かった」
レーテシアは無表情のまま、小さくパチパチと拍手。
「さっさと回収しようぜ……なあ、レーテシア?」
「『マナ研究情報?』って、どうやって探すんだ?」
「……どうしようか? セルドリカ」
「「……」」
二人は顔を見合わせる。
初めてのお使いを言い渡された少女たちは、紙片の山の前で……立ちすくんだ。




