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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第十章:遠き地での出会い

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◆幕間:魔王と歌姫◆

歓楽街で歌が響き渡る店――『海の家』。

歌姫の公演が終わってもなお、店内は盛り上がっていた。

歌姫を話題にして歌を口ずさむ者、翌日の仕事を語る者、愚痴を言い合う者。

様々な面々が騒がしく、楽しく酒宴を行っていた。


その中で一人気づくものがいた。


「あれ~~。エクリナがいない~~」

酔いが深くなっているティセラがキョロキョロと周囲を見渡していた。


 ◇


既にエクリナは約束を果たすためにこっそりと店外に出ていたのであった。

『海の家』の裏手から続く道の先、夜海が見える高台に立っていた。

当然、隣にはドレスを着たクリシュニアがいた。


「うむ、良い場所だな。夜風が気持ちいいぞ……酔いが抜けていくようだ」


時折吹く潮風に頬を撫でられ、心地よいというエクリナ。

暗闇で包まれた海を眺めていた。



その隣では――



(……)

歌姫は迷っていた。



(ど、ど、ど、ど、どうしよう!! せ、せ、せ、せっかく来てもらったのに……な、な、何を話したらいいんだろう……)


エクリナの言葉に惹かれ、思わず誘ってしまったクリシュニアは何も考えられなかった。

モジモジとするばかりで、時間だけが流れていく。



「さて……クリシュニアよ。何故、我を誘ったのだ? 我らは初めて出会った仲なのだが……」

夜風をしばし味わったあと、エクリナは素朴な疑問を口にした。


「!!」

びくぅっ、と身を震わせるクリシュニア。


「あのあのあのあのあのあの!」

先ほど以上にどもる。

「……こ、こ、こ、こなたの……ことを、まっすぐに見てくれる人が久々だったので、つい、その……もっと話したくて……」


古めかしい一人称を使いながら、何とか自身の心の内を語る歌姫。

両手の指を何度も交差させ、もてあそびながら、緊張をほぐそうと努力していた。


「ふ、本当に面白いやつだな。そんなに珍しいことだったのか?」

エクリナは和らげに聞いた。


「こ、こ、こ、こなた、は、い、い、いつも、どもるので、ち、ち、ちゃんと話してくれる人が、い、い、いなくてですね……」

「だ、だ、だ、だから、き、き、き、今日はうれしくて……お、お、お誘い、しゅました……」

頑張って話していたものの最後で噛んでしまった。


「そうか……先ほども言ったがもっと自信を持ってもよいと思うぞ?」

「うぬの歌は最高だ。我はクリシュニアの歌が好きだぞ」


自信のない少女へ、エクリナは励ましの言葉を掛ける。

それを聞いたクリシュニアは顔を赤らめる。


(すすすすすす、好きって言ってくれた! こ、こ、こ、こなたの、う、う、うたうた、歌が好きって!!)


エクリナの言葉を反芻し、気持ちがさらに昂るクリシュニア。

息遣いが少し荒くなっていた。


同時に想うこともあった。


(…………)

(そ、そ、そ、そんなふうに……こなたを見て、い、い、言われたの、ひ、ひ、久々だ……)


その言葉に触れた瞬間、胸の奥に沈めていた古い感触が、ほんの少しだけ揺れていた。


「あ、あ、あ、あ、あ、ありがとう……ございましゅう……」

「う、う、う、歌っている時"だけ"は、み、み、み、皆のことをまっすぐに見れて……み、み、み、皆もまっすぐに見てくれて……う、う、う、歌うことだけが、と、と、と、取り柄なので……」


たどたどしくもお礼をいう歌姫。


「ああ、素晴らしい取り柄だ。いつか我の家族にも聞かせたいほどに誇らしい歌だ」

エクリナはさらに褒める。


「か、か、か、家族ですか……」

「うむ、我の愛する家族だ。先ほど隣にいたティセラのほかに、セディオス・ルゼリア・ライナがおる。今は別の依頼中でな……少しばかり離れておるがな……」


クリシュニアに問われ、エクリナは家族のことを語った。

その声音の端に、少しだけ寂しさが滲む。

その憂いを帯びた顔を見つめる歌姫は、何故だか胸を刺す痛みを感じていた。


(さ、さ、さ、寂しそうな顔……な、な、な、何とかしなきゃ……)



そう思うと――



「♩♩♩――♪♪――」



夜風にのせて歌い始める。

家族に会えないエクリナを励ますように、少し切なくも暖かな歌を紡いでいった。


喉を開く瞬間、昔のように“誰かを鼓舞するための拍”を探してしまう。

けれど今夜は違う――目の前にいる一人のためだけに歌いたかった。


「……すまないな」

エクリナは微笑み、目をつむるとクリシュニアの歌に耳を傾ける。


少しずつ寂しさがほどけていくような調べ。

心に優しく触れられ、抱きしめられる感覚が襲う。

初めて出会ったばかりだったが、二人の距離は少しだけ近づいていた。


二人の逢瀬を知るのは、静かな海だけであった。


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