◆第217話:人造魔核◆
格式高い宿の一室。
会合のために案内された部屋も、豪華さと厳かさが同居していた。
ヴァレンシアの正面に、ティセラ・エクリナ・ガンゴの順でソファが並ぶ。
エクリナは紅茶の支度をしていた。ハーブがふわりと香る。
ティセラは屋台で買った菓子を《次元重層収納ミディア・アーカイヴ》から取り出し、小皿に分ける。
人数分のカップが置かれ、話が再開した。
「ひた隠しにしていましたが、目的は三つあります」
ヴァレンシアは指を折る。
「一つ目。滅びの神の影響で断たれていた国交の回復」
「二つ目。互いの技術提供による発展」
「三つ目。前言の先駆けとして『人造魔核』の共同研究を”再開”すること」
すべてを端的に告げた。
「国交回復と技術提供は理解できるのだが、『人造魔核』? ”再開”とはどういうことだ?」
「特に『人造魔核』は気になります」
エクリナとティセラが疑問を投げる。
「『人造魔核』については、ガンゴのほうが詳しいわよね?」
「ふむ……そうだな」
ガンゴは一息つき、語り始めた。
「百年以上昔の話だ。儂の爺さんが、その研究に参加していた」
「当時、秀でた魔導術具士は概ね関わっていた。もちろん秘匿で、だ」
「研究は亜人属との共同。場所は”エル・クラウゼ”――この前、セディオスたちが行った遺跡都市だ」
知った名が出て、エクリナとティセラは目を見交わす。
「まさか、遺跡都市の名が出てくるとはな」
「大規模な研究だったんですね……」
ガンゴは紅茶を一口。続ける。
「その都市では、建屋ごとに様々な研究が並行していた。すべては滅びの神に対抗し、勝利するためだ」
「儂の爺さんは『人造魔核』を担当。魔核は知ってのとおり”魔力生成器官”。人間・亜人が自然に獲得する臓器だ」
「戦に勝つには、膨大な魔力を扱える高位の魔核をもつ者が要る――そう考えた当時の国王は、自然発生ではなく人工生産を極秘に命じた」
ヴァレンシアは静かに茶を啜り、耳を傾ける。
「号令から研究が本格化する中で、ひとつ分かったことがある」
「”魔核そのもの”は、どの生物にも存在する。違いは――魔力を生成『できる』か『できない』か、その発現確率だ」
「ただし野獣には例外もある。魔晶が発現し魔獣化した個体の中には、それが魔核の代替のように働くものもいる」
「人属や亜人属の魔核とは成り立ちが違うが、出力だけ見れば近いものもあったそうだ」
「研究には付近の魔獣や人間の死体も使われたらしい。……まあ、死体に事欠かない時勢だったからな」
エクリナとティセラは黙したまま、外套の裾をそっと握る。
ガンゴはその指先に目をやり、言葉を整えた。
「――長くなったが、結論だ。『人造魔核』の開発は成功した」
「獅子型のゴーレムに組み込み、可動実験まで進んでいたらしい。実はセディオスたちは、その研究資料を回収するために出立している」
「そうだったんですか! 確かに書状には”研究資料の回収”としか……」
ティセラが驚きに目を丸くする。
「だが、その研究は唐突に終焉を迎えた」
ガンゴの声音が落ちる。
「滅びの神に気づかれた。術具に興味があったと記録にあるが――理由は不明のまま、都市ごと襲撃・壊滅だ」
「その際に……儂の爺さんも死んだ。脅威と見なされたのかもしれんな」
ガンゴは再び茶を口に運び、心をなだめる。
「そして問題は、ここから先だ」
「『人造魔核』の研究は、亜人属領で細く引き継がれていたらしい」
「滅びの神はいなくなったが、新たな脅威に備え――再開したい、とのことだ」
「今回はフォルネアとアークの技術者交流に加え、『人造魔核』の研究そのものを発展させたい――そういう要求だ」
「大層な話だったな。我らも無関係ではないということか……」
エクリナがつぶやく。
「あ……」
ティセラははっとする。
――この場には、自分たちが『神造生命体』であると告げていない人物がいる。
ゆっくりとヴァレンシアを見るティセラ。その視線で、エクリナも気づいた。
二人が言い繕いを探していると――
「やっぱりね……そうだと思ったわ」
ヴァレンシアは微笑む。
「”天才”で片づけるには秀で過ぎているもの。安心しなさい、理解したうえで来てもらっているのだから」
扇を口元に当て、穏やかに告げた。
「はあ~。もうエクリナ!」
ティセラが小声で叱る。
「す、すまない……ついな……」
エクリナは素直に頭を下げる。
「と、ともあれだ。目的は分かった。説明に感謝する」
エクリナは姿勢を正し、会話を締めた。
――旅の目的は、はっきりと定まった。
長い会合が、ようやく終わる。
次回は、『3月26日(木)13時ごろ』の投稿となります。
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