◆第216話:霊機自治区アークへの道◆
水の都は、どうやら定期の催しがあるらしく賑やかだった。
今は舞台の歌姫を称える声が広場中に響き、手拍子や指笛で”もう一曲”をせがむ者も多い。
「にぎやかなこって、流石水の都か」
ガンゴは群衆が舞台を囲む様子を眺めて言った。
「あれ? エクリナが居ない!」
友の不在に気づくティセラ。きょろきょろと周囲を見回す。
すると――
「すまない、少し離れていた」
銀髪の少女が微笑みながら戻ってきた。
その後ろには、見覚えのある気品ある老婆の姿。
「数日ぶりね、来てくれて嬉しいわ」
満面の笑みでヴァレンシア。
「あ、ヴァレンシア! お前なっ!」
自動馬車の件を思い出したガンゴは、声を荒げる。
「待った」
ヴァレンシアが手扇を軽く上げて制す。
「ここでは話しにくいわ。移動しましょう」
察したように提案した。
「ぐぬぬ、仕方あるまい……」
ガンゴは矛を収め、しぶしぶ従う。
「では行きましょう」
淡々と先導するヴァレンシア。
◇
四人は豪奢な建物へ入った。
一歩でわかる格――磨き込まれた床、重厚な絨毯、壁の装飾。格式高い宿だ。
ヴァレンシアが係へ二言三言告げると、そのまま上層の一室へ案内される。エクリナ、ティセラ、ガンゴも続いた。
案内役が退き、ようやく一息。
「さて、ガンゴ。何か言いたいことがあったんじゃないかしら?」
ヴァレンシアは口元に扇をあてて微笑む。
「はあ……もういい。ただ、帰りは普通の馬車にするぞ」
興を削がれ、疲れたように肩を落とすガンゴ。
「ああ、なるほど。乗り心地はもっと考えませんと……試作品なので許して頂戴」
ヴァレンシアは静かに受け止めた。
「わざわざ個室に入ったのだ。他にもあるのだろう?」
エクリナが穏やかに促す。
「流石ね。誰が聞いているか分かりませんから」
ヴァレンシアが目を細める。
「今回の話は二つ。アークまでの旅程と、なぜ今そこへ向かうのか――ですわ」
彼女は自作の魔導収納鞄から地図を取り出す。
「まず旅程から。明日出立、港から船でペラギアへ移動。一日ほどで到着しますわ」
指先で海路をなぞる。
「一日で良いのだな? ずいぶん近いな」
地図を覗き込みながら言うエクリナ。
「今回の船は、もちろんあたくしの商会製。帆の時代とは違いますのよ」
ヴァレンシアが少し得意げに言う。
「また酔ったら承知しないからな」
乗る前から文句をつぶやくガンゴ。
「ふん、続けます。入港は”海門港ペラギア”、亜人属領を代表する港都市ですわ」
「そこから”魔導列車”に乗り、霊機自治区アークへ。こちらも一日の旅になります」
ガンゴのぼやきをいなして、話を先へ進める。
「魔導列車? 何ですかそれは!?」
ティセラが興味津々とばかりに身を乗り出す。
「亜人属領の主要な移動手段。マナを動力にしていると聞きます」
「あたくしも一度しか見ていませんけれど、馬車とは比べものにならない速さと快適さ、ですわ」
ヴァレンシアは見聞を短く語る。
「それは楽しみです!」
ティセラは嬉々として頷いた。
「さて、もう一つ。訪問の理由です」
先ほどより少し低い声色に変わるヴァレンシア。
「ようやく話せるな。ここまで秘密にしてすまんかった」
ガンゴが肩をすくめ、詫びを添える。
「本題ですが、あたくしたちがアークへ向かう理由。それは『人造魔核』と『マナ』に関わる話ですわ」
室内の空気が、そこで一段静まった。
室内の空気が、そこで一段静まった。
ティセラは息を呑み、エクリナは地図の上へ視線を落とす。
ガンゴだけが、知っていた重みを黙って受け止めていた。




