表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第十章:遠き地での出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

229/247

◆第215話:水の都で歌う少女◆

異国の街並み――水都ヴェルミオラ。

都の中央では流通のない食材や装飾、術具が屋台に所狭しと並ぶ。

見慣れた洋装の商人に混じって、見たこともない民族衣装の一団も行き交う。


ヴァレンシアとの合流までの刻にはまだ余裕があった。

空気に飲まれたエクリナたちは観光を選ぶ。


「あ! 見たことのない術具」

見かけ相応に、はしゃぐティセラ。


その隣では――

「こいつはどういった効果だ?」


同じく、はしゃぐガンゴが商人に詰め寄る。

まさに師弟の姿だった。


「ふ。楽しそうだな」

エクリナは微笑ましく眺める。


少し離れた広場から、音楽が聞こえてくる。

視線を向けると、簡易的な舞台が設置されており、何かしらの催し物が行われていた。

数人の奏者が調弦を終え、司会が次の出演者を呼び込もうとしていた。


興味をひかれたエクリナは何気なく近づく。


「次は酒場『海の家』から、クリシュニアが歌います!」

エクリナよりも背の高い少女が、ゆっくりと舞台中央へ上がる。


心なしかオドオドしている。

栗色の長髪が肩に沿って流れ、目元を半ば隠す。


「し、し、し、紹介されました……く、く、く、クリシュニアです……い、一生懸命、う、歌います」

拡声術具を抱くように握り、どもりがちに一礼をする。


(やたらに挙動不審だな。あれで舞台に立てるのか?)

舞台の少女を見つめ思うエクリナ。


そして――伴奏が流れ出す。

観客の視線は不安と期待の間であった。


だが――


最初の二拍で、隠れていた瞳が観客を射抜くように前を向いた。

背筋を伸ばし、一歩前へと踏み出し、手を鳩尾に添え、息を支える。

髪の色がかすかにきらめいた気がした。


「♪♪♪♪♪! ♬♬♬♬♬――!!」


歌い出し――。

澄んだ上澄みだけをすくったような聲が、まっすぐに飛んだ。

広場のざわめきが、一段、静まる。


(おっ? 雰囲気が変わったな)


思わぬ始まりに目を見張るエクリナ。

先ほどまでの頼りなさは消え、舞台中央には別人のような歌姫が立っていた。


最初は速いテンポの曲。

行進歌の強拍に合わせ、彼女の声は軽く跳ね、客の手拍子が自然にそろっていく。


「――――♬! ♬! ♬! sfz―――!!」

さらにテンポが速くなり、一段と盛り上がると、最後の一打だけをことさらに強く叩きつけた。


次の曲では、空気が変わった。弦は薄く和音を敷くだけ。

彼女はレガートで息を繋ぎ、尾を引く母音が噴水の水面に丸い輪を描くように広がっていく。

歌いながらも身振りを加え、調べを表現していく。


三曲目――伴奏が止む。


無伴奏のアリア。

鐘楼の鳥さえ鳴き止むほどの静けさの中、彼女の高音はきらりと立ち上がり、低音は湖底の石を撫でるように柔らかい。

ブレスは浅くも深くもなく、必要なだけ――ただ、音があった。


(おお、これは、中々に凄いな……)


エクリナは内心で高揚し、思わず聴き入る。

開演前のオドオドは消え、立ち姿は端正。


三曲を終えるころには、観客が広場を埋め尽くしていた。


「いいぞ!」

「流石は歌姫!」

歓声が一斉に弾け、拍手は長く続く。


屋台の客が足を止め、買い物袋を抱えた女たちが振り返る。

子どもは手を叩き、商人たちは笑みを浮かべながら拍を合わせていた。

クリシュニアの声に誘われた民衆は喝采と声援を送る。


気分を高ぶらせた観客たちは、さらなる歌を求めて声を上げる。

まるで広場そのものが、彼女の歌に掌握されたかのようだった。


「なるほどな、この都市の名物というやつか」

周囲の熱を受け、エクリナは思う。


「いつ聞いても素晴らしい歌声ね、そう思うでしょエクリナさん?」


いつの間にか、気品ある老婆が隣に立っていた。

頭上で結った白髪と濃紺のドレスが、人混みの中でもよく映える。

扇を口に当て、優雅に目を細めていた。


「……油断したようだ。だが素晴らしい歌であったのは事実だな」

気のゆるみを引き締めつつ、エクリナは素直に評する。


「無事到着したようで良かったわ」

「ああ、時間があったものでな、観光をしていた」


「それは良かったわ。とりあえず離れましょうか?」

「そうだな」

エクリナは微笑み、頷く。


予期せぬところで合流した二人だった。

渦巻く拍手の余韻の中、さっきまで光を放っていた歌姫は――ふと幕が下りたように、先ほどのオドオドした姿へ戻っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ