◆第214話:水面に浮かぶ都市◆
技術都市フォルネアを出立して丸一日。
エクリナ、ティセラ、ガンゴは自動馬車に揺られ続けていた。
車体はガタガタと鳴り、地を疾駆する。
――朝が過ぎるころ、水都ヴェルミオラの門前に到着。
ガチャン――。
自動馬車の扉が開く。
中から、呻きながらガンゴとティセラが降りた。
「……もう乗らん……」
「なんでこんな目に……」
師弟ともども青ざめている。
「いい朝だな……潮の香りがする」
流麗な所作で降りるエクリナ。まるで何事もなかったかのように爽やかな顔であった。
乗客を降ろした自動馬車は、円筒の頭部をこちらへ向ける。
「ピピピ……ガガガ――」
「ゴリヨウ、アリガトウゴザイマシタ。ソレデハ、ヨイタビ、ヲ」
そう告げると、爆音と砂煙を残して走り去った。
「ごほ、ごほ……なんとか着いたな。まずはヴァレンシアと合流だ、言いたいことが山ほどある!」
少し元気を取り戻すガンゴ。
「この街は初めてですね」
「ああ、楽しみだな」
ティセラとエクリナは、新たな土地に高揚していた。
◇
入国審査を無事に終え、門をくぐると大きな橋。
その先――湖上に連なる城壁が見える。
「これは、中々大きな橋だな」
「凄いですね、まるで湖に街が浮いているようです!」
エクリナとティセラが目を見張る。
「ここは諸外都市や国との貿易拠点だからな。ここから珍しい術具や新鮮な魚介が運ばれていく」
ガンゴは橋の先に広がる湖上都市を顎で示した。
「広く、守りも堅い。ヴェルミオラはそういう街だ」
「なるほどな。……しかし、少し遠いな」
「それなりに歩く必要がありますね」
歩きたくない二人である。
「はは、心配するな! 送迎の人力車がある」
ガンゴの指先――馬車よりは一回り小さい、二段の引き車が並んでいる。
「あんな大きな車を人が引けるのか?」
エクリナの疑問に、
「魔導術具だからな。引く力を補助してくれるんだ。負荷はほぼ無いに等しい」
とガンゴ。
「では、あれに乗りましょう!」
興味津々のティセラ。
「よし、話してくる」
ガンゴは人力車の引手へ歩み寄り、硬貨を渡して交渉。手を振って合図を送ってくる。
「では、乗るか」
「ええ!」
エクリナとティセラは顔を見合わせ、人力車へ向かった。
◇
コトコトと軽やかな音を立て、人力車が進む。
下段にガンゴ、上段にエクリナとティセラが腰掛ける。
「安心する速度だな……」
「本当ですね……」
自動馬車の乗り心地を思い出し、ガンゴとティセラがしみじみと感じていた。
「潮の香りが強くなってくるな」
鼻で大きく香りを吸い、肺を満たす。
海風を受け、エクリナが目を細めていた。
やがて城壁前の入口に到着。防衛用の鉄柵は上がっていた。
「警備が厳重だな」
「街ではなく”都市”だからな。天然の大水堀と合わせれば、無敵の城塞都市だ」
門構えを見上げるエクリナに、ガンゴが応じる。
内部は多様な街並みだった。
石造りの家や商店はもちろん、漆喰、木造、見たことのない意匠の塔まで混在する。
海を介した交流はこの街に異国の文化を柔軟に取り込み、進歩を促してきたのだ。
屋台が立ち並び、人声が交錯し、活気が熱を帯びる。
――以前訪れた交易都市アヴェリアを超える大きさ。
もはや”都市”ではなく”国”のように思えた。
「「……」」
言葉を失うエクリナとティセラ。
「まあ、そうなるよな。儂も慣れるまで時間がかかったわ」
ガンゴが苦笑する。
「ふ、まずは楽しまねばな」
エクリナも笑みを漏らした。
運河と湖に抱かれた都市、水都ヴェルミオラ。
喧騒の奥では、まだ見ぬ音色と人の縁が、すでに動き始めていた。




