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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第十章:遠き地での出会い

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◆第212話:自動馬車に揺らされて◆

技術都市フォルネアの外れ。工房街の奥で、白い煙突が一本。

扉の上には、鉄槌を象った看板。薄曇りの朝光が金属粉を照らす。


――工匠ガンゴ堂。

最強の魔導戦具を鍛える名店、その居間で三人は出立の支度を終えていた。

エクリナ、ティセラ、そしてガンゴが居る。


「メイド服ではないのか……」


外套の下、エクリナの装いはメイド服ではなく、黒を基調とした装い。

警備兵のような立派な仕立てであった。

今回は護衛として公式の場に出るため、特別に準備されていた。


「目立つのは避けたいでしょう?」


ティセラが隣でたしなめる。

彼女も外套に黒い上着、黒の動きやすいズボン姿であった。


「メイド服は目立つのか?」

普段着兼正装の感覚が抜けないエクリナは、首を傾げる。


「はは……《アペリオ》があれば、いつでも”本来の姿”に戻れますからね」


ティセラは乾いた笑みを作って補足した。

指輪型の魔導術具――念じた瞬間に着替えが完了する。

エクリナは自前の魔法で事足りていたが、家族たちが《瞬装環・アペリオ》を使いこなすのを見て、密かに欲しくなっていたのだ。


「そうだな。向こうに着いたら試してみよう」

エクリナは指を見て、わずかに微笑む。


(ふ……皆と揃いの指輪、か)

そう思うだけで、口元がわずかに緩んだ。


そこへ、軋む床板とともに低い声。

「自動馬車が来たぜ。お、その服似合っているな」


居間へ入ってきたのは店主ガンゴ。

髪は薄いが眼光鋭い、老練の工匠だ。亜人属領へ向かう今回の護衛対象の一人でもある。

余所行きの服装でいつもの職人然とした様子ではなく、要人となっていた。


「師匠も中々に決まってますよ。なんだか職人じゃないみたいですね♪」

いつもの作業服とは違う装いにティセラは珍しげに見ていた。


「ふん。儂はこういう服装が苦手なんだ、堅っ苦しいのは好かんな」

弟子の誉め言葉に憎まれ口で答えるガンゴであった。


「良いではないか。ガンゴ殿はそもそも要人なのだ、そういう服も受け入れよ」


微笑みながら銀髪の少女はたしなめていた。

エクリナはガンゴのことをしっかりと評価している。

《魔盾盤ヴェヌシエラ》を生み出した職人であり、ティセラの師。

エクリナにとっても、守るべき重要人物であった。


「さて、出立しよう」

三人は表へ出た。


店先には、馬のいない大ぶりの馬車が待っていた。

屋根の魔晶と、先頭の円筒頭部が淡く明滅している。


「ピピピ……ガガガ――」

「ジュンビ、ハ、デキテマス。オノリ、クダサイ」


先日セディオスらが乗った個体と同じ、癖のある機械音声だ。

三人は素直に乗り込む。


「よいしょっと。到着は――明日、だったな」

ガンゴが地図を開き、目盛りを指す。


「速度は申し分なさそうだな」

「馬車より乗り心地がいいといいですね……」

エクリナとティセラは、遺跡都市エル・クラウゼへ向かった時の自動馬車を思い出して感想を交わした。


「ピピピ……ジョウシャ、ヲ、カクニン……シュッパツ、シマス」


客車の扉がガチャンッ!と閉まる。

低い唸りが車体の底から立ち上がり、車輪がギュルギュルと回転音を上げる。


「おおお……」

「すでに振動が……」

ガンゴとティセラは出発もしていない自動馬車の揺れに不安を覚えた。


自動馬車は“最速”へ移るため、動力音を一段深くした。

車体の底で、低い唸りが一段深くなった。

手すりが微かに震え、ティセラの眉がぴくりと動く。


次の瞬間、ゴウッと加速した。

街道を駆け抜け始め、ガタガタと激しく揺れる。


「こいつはひでえな……!」

「師匠、知ってたんじゃ――」

「乗るのは初めてだ……ヴァレンシアの奴め……」


二人が手すりにしがみつく前で―――


「まあまあの揺れだな。のんびりさせてもらおう」

エクリナは何事もない顔で新聞を取り出し、広げた。


「「……」」

あっけにとられたティセラとガンゴは、反論の言葉を失う。


激しく揺れる車内で、エクリナだけが平然と紙面をめくる。

ティセラとガンゴは顔を見合わせ、ただ黙るしかなかった。


自動馬車はエクリナらを乗せ、地を鳴らして彼方の水都を目指す。



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