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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第九章:闇に芽吹く信頼

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◆第211話:探索の終わりには◆

遺跡都市エル・クラウゼに来て四日目。

朽ちた白塗りの研究所の地下――守護者は目覚め、そして再び眠った。


穿たれた天井から夕陽が一筋。

冷えた空気に温度が戻る――ようやく、出口が見えた。


「はあ、はあ……魔力を溜めていたとはいえ、流石に厳しかったな……」


〈レクイエム・ブレイド〉を放った反動で脱力感が身体を襲い、魔核が締め付けられる。


「がは、はあ、はあ……それでも大分マシになったが……」


眠った獅子を一瞥し、セディオスはリゼルのもとへ歩く。

体力は尽き、魔剣は沈黙していた。


まさに満身創痍であった。


「……生きてるか?」

頬を軽く叩くと、リゼルの睫毛が震えた。


「ん?……ああ、落ちてましたか……」


上体を起こしたリゼルは、伏した獅子を見やる。

(人属と亜人属が共に犯した禁忌――人造の生命体……)


「全く……度し難い。――禁忌に手を伸ばした果てが、これですか」


侮蔑するようなリゼルの声に、セディオスは何も言わなかった。


――上から、砂利を蹴る音と、甲高い声。

天井の穴から声が落ちてくる。


「なにこれ!」

聞き慣れた、元気のいい声だった。

その声に駆け寄る足音も耳に届いた。


穴の縁に影が差す。

「「セディオス!」」

覗き込むルゼリアとライナが同時に叫ぶ。


そして、すぐ苦い顔になる。


「あいつもいる……」

「魔力さえ残っていれば……」

二人の視線の先には、リゼルが居た。


「はは……わたくしは随分嫌われていますね」

天を仰いで、リゼルは軽く嗤う。


「……セディオス……」

「……ああ、分かっている」

隣り合った二人は、横目で互いを見た。


セディオスが納刀していた《アルヴェルク》を抜き放ち、リゼルへ振るう。


カキン――

大剣形態《セファル=クレイモア》へと変じた杖剣が、それを受け止めた。


「めでたく、元どおりの敵同士です」


冷たい声音。

短い協力関係という“遊戯”の終わりを告げる響き。


「……リゼル」


セディオスの胸裏に、四日間の記憶がよぎる。

正直、探索中は悪い関係では無かった。

だからこそ、歩み寄れないのかとも考えてしまった。


「今日は疲れました。また、どこかで――」


リゼルが指を鳴らす。背後に異空間が裂け、黒い口を開ける。

ひらりと手を振り、そのまま踏み込んだ。


消える直前の敵の顔は、穏やかな笑みだった。


地下に一人残されたセディオスのもとへ、ルゼリアとライナが縄を下ろす。

依頼は見事に完了した。

ただ、剣を握った指先に――寂しさだけが残った。


 * * *


空間転送移動を終えたリゼルは、遺跡都市エル・クラウゼから少し離れた街道の町に立っていた。


煤けた顔、ボロボロの洋装。

疲労が遅れて襲い、脚が鉛のように重い。

リゼルはゆっくりと足を引きずるように歩いた。


「……流石に長距離転移は無理ですね……」


ぐうぅぅぅ――。

腹が食べ物を要求する。


「はは、流石にお腹も空きますか……食料は……無いですか……」

魔導収納鞄を漁るも、携行食は尽きていた。


(あのスープ……懐かしいですね……)


仇敵と囲んだ焚き火の味。

それが不要だと思っていても記憶に刻まれていた。


「おい、ぼうず。大丈夫かい?」


通りの屋台の店主が声を掛けた。

ボロボロのリゼルの姿に同情したのだろう。


(……面倒な……)


思いながら顔を向けると、色とりどりの玉が受け皿に盛られている。

仄かに甘い香り――名前を思い出す。


「……飴……ですか……」

ふらりと近づく。


「何があったかは知らんが、飴はどうだ。滋養がつくぞ?」

店主は受け皿を軽く掲げた。


「ふ。知っていますよ……」


短く笑ってから、リゼルは指先で色を選ぶ。

「そうですね……この黒いのを一袋……」


店主が袋にからんと転がして渡す。

代わりに四角銀貨を一枚支払う。

「まいど!」といって店主は見送っていた。


リゼルは歩き出し、黒い飴を一つ、口へ放り込んだ。

甘みが舌に広がる――同じ味だ。

研究所でセディオスから貰った、あの黒い飴と同じだった。


たったの四日間。

それだけなのに、長く共に探索をしていた気分であった。

飴の味すら懐かしかった。


何かを噛みしめるように、コロコロと口の中で転がした。


小さな町を一人きりで歩く。

隣に居た逞しい剣士は、もういない。

わたくしには使命がある。神が託したと信じる崇高な使命が、存在の証明であり、それがすべてだ。


――違う道が“見えてしまった”からこそ、選ばない。


でも、それでも、わずかな揺らぎが出来てしまった。

今のリゼルには理解できない、小さな、ほんのわずかな揺らぎ。

数多の本では教えてくれない感情の芽。


リゼルは口で弄んでいた飴玉を――噛み砕く。

ガリンッ!! ボリッ! ボリッ――小気味のいい音を鳴らしながら噛み砕いていく。

欠片になった飴を、ゴクリと飲み下す。


自身の甘さを砕き、飲み干し、腹の底へ押し沈めた。


「甘い……ですね」


「けれど、わたくしの世界には、不要です」

不要なものは切り捨てる。それがリゼルの覚悟だった。


ひたすらに進む――選び取るべき道は最初から決めている。

神のために、己のためにと、そう信じて疑わない狂信者。

足りないものをかき集め、陰謀を胸に、少しずつゆっくりと歩んでいく。


世界は今日も、滅びへと近づいていた。

次回は、『3月19日(木)13時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いします。


本日もお付き合いいただきありがとうございました!

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