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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第九章:闇に芽吹く信頼

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◆第208話:倒れる大樹◆

大樹の猛攻でなだれ込んだ隣室

穴に逃げた獲物を捕らえるべく、ズズズ――と巨体が迫る。

同時に警備術具を招集していた。


「はあ、はあ……ここは……」

「ごほ、ごほ……へ、変な部屋……」

呻きながら周囲を見やる二人。


魔獣の死骸が保管術具に収められ、臓器は液中に浮かぶ。

そこは、以前セディオスとリゼルが通った部屋だった。


「初めての部屋ですね……」

「うえぇ……気持ち悪い……」

不気味な陳列にそれぞれの反応を示す。


二人は奥へ逃げ込む。

進むと部屋の奥に、ひときわ異質な一角が見えた。

そこには巨大な魔晶を収めた保管術具が鎮座していた。

――“魔晶が整列していた区画”であった。


「!! これは……魔獣の魔晶」

「こんなに大きいのがあるんだ……」

感心する二人。


――ズズズ、と振動を伴う引きずり音が近づく。


「リア姉、来るよ……」

警戒するライナ。


ルゼリアの視線が、奥の保管術具——巨大魔晶へ吸い寄せられる。

「ふふふ……どうやら私たちは幸運なようです」


突然、ルゼリアが笑った。

新たな策を思い付いた声であった。


「リア姉?」

不敵な笑みの姉を見上げるライナ。

反撃の時は、近い。


 ◇


白き魔晶を抱く、保管術具を守護する大樹。

侵入者討伐という使命を果たすため、巨体を引きずって進む。

穴蔵に落ちた獲物を、仕留めるために。


ポオォォォオン――と嘶き、蜘蛛型・蝙蝠型をけしかける。

大樹は後方をゆったりと進み、視認する。


紅と蒼が迎撃の構えを終えたことを――。


ライナは《魔斧グランヴォルテクス》を床に突き立て、《魔刀ライメイ》を腰に据えていた。

右足を踏み出し、腰を低く構える。


「……………」


集中、ひたすらに集中。

右手は柄を軽く握り、目を閉じてその時を待つ。

室内の音が、一段と遠のく。


ルゼリアはライナの背後に陣取り、《焔晶フレア・クリスタリア》を『紅蓮双輪』形態へ可変。

床に魔法陣を描き、足元には保管術具から取り出した特大の魔獣魔晶を置いていた。


そして――詠唱が始まる。

(私が道を作る。走らせる。――あとは、ライナが一太刀で心臓を断つ)


「紅蓮よ、巻け、道となれ――灰に火種を掲げ、虚ろを灼線で縫え」


紅蓮双輪が眩く、二重輪となって回転数を上げる。

ルゼリアは魔晶と自身の魔核を結び、魔力を絞り出す。


「走者の息脈を護れ。外へ牙を剥き、来たる矢術は外周で焼き捨てよ」


大樹は感づく、迎撃を仕掛けてくると。

意思なき防衛装置は、使命のままに全軍をけしかける。


「廻れ焔環、伸べ炎廊。終端に走路を架け、刹那に割目を開き、熱と圧を収束せよ」


熱が高まる、詠唱が満ちる。

眼前の雑兵を灰にするために。


全てはライナの一撃に賭ける姉、その信を背負って時を待つ妹。

妨害すべく、蜘蛛・蝙蝠・大蛇――うねりが二人に襲いかかる。


「プロミネンス・コリドォォーーーーーー!」

ルゼリアは告げた。燃え盛る熱風洞が展開する。


灼熱の螺旋壁が眼前の群れを呑み、中心には澄んだ走路だけが“護られた焔域”のように伸びる。

有象無象の警備術具は灰となって散り、道が出来上がる。


(――今だ!)


ライナは目を見開き、神速で踏み込む。

熱風に背を押され、影が引き伸ばされるほどの加速で走り抜けた。


一息の猶予もなく、死が大樹の眼前に迫る。

白き巨大魔晶を覆っていた巨大根は、すでに燃え尽きていた。

走路の熱が、迎撃の“腕”を先に焼き落とされていた。

抗うことができない。


間が詰まる。必殺の間合い――

紫電がほとばしり、走り抜ける。

保管術具には“横を駆け抜けた”ようにしか見えなかった。


「…………雷葬一閃」

パチン、と納刀の音。


そして――

「ズバン……!」と遅れて空気が裂ける音が響く。


ピシ……ピシ……ピシ……

シュパ――ズズズ……ドオォォォン――!


巨大な魔晶ごと断たれ、大樹は倒壊する。

白い輝きは、放出され消えゆく。


膝をつくライナ。

「はあぁ……つ、疲れた……」

そのまま、ドサリと座る。


「はあ、はあ……やりましたね、ライナ……」


バキィィン――

ルゼリアの足元にあった魔獣の魔晶が役目を終え、ひび割れるように砕け散った。


壁に浮かんでいた仄かな術式が、ふっと沈む。

そして、胸の奥を締めつけていた圧が抜けた。


――研究所全域の魔力供給が途絶え、魔力封印が沈黙した。

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