◆第207話:拮抗する戦場◆
大樹が支配し、蜘蛛型・石板型・蝙蝠型・大蛇型が蠢く。
その床に、紅い魔法陣が咲いた。中心に立つのは紅と蒼の姉妹。
ルゼリアが構築した『陣地』は、陣内に散る魔晶から魔力を抽出して自らの糧へと転じる。
これまで蓄えた知識と魔術師としての本領を発揮し、即興の魔法式を編んだ。
「凄いね、今なら高位魔法くらいなら撃てそうだよ!」
魔力封じが続く中、ライナの魔核に魔力が流れ込む。
放出する魔力を陣地から調達、ルゼリアの見事な策だった。
「なるべく陣地内で倒してください、それで魔晶の補充になりますから」
「ただし――この円から出れば効果は切れます。離脱は気を付けてください」
円の内側だけ、魔力の流れが“呼吸”のように整っていた。
ルゼリアが注意事項を告げ、二人は頷き合う。
「じゃあ――」
「反撃開始です!」
陣地に侵入してくる警備術具を、背中合わせのまま軽やかに切り崩す。
「スパーク・ダンス!」
「インフェルノ・チャージ!」
倒れた骸の魔晶が紅に脈打ち、陣地へ魔力が還流する。
討てば討つほど、力は満ちる。
白き巨大魔晶を抱えた大樹が、ポオォォォオン――と嘶く。
呼応して群れが寄り、波が厚みを増す。
「クロス・ライトニング・カット!」
「カルミナ・スピラ!」
十字の雷が装甲の継ぎ目を裂き、紅蓮の渦が残骸ごと巻き上げて叩き落とす。
次々と迫りくる警備術具たちを打倒していく二人。
ポッ!ポッ!ポオォォ――――!!!
何かを訴えるように鳴く大樹。
根である大管で二人を襲う。
「サンダーバースト・インパクト!」
「バーニング・デクリエイト!」
ライナは雷撃を纏って突撃する、ルゼリアはこぼれた大管へ一点集中の熱線を放つ。
大管は蹴散らされ、焼け落ちる根もあった。
押している。――だが、攻勢は永遠ではない。
陣を維持するにも魔力は要る。
魔封じが支配する空間で、それに抗う陣は拮抗を強いられていた。
陣地の維持と高位詠唱を両立するルゼリアの肩が上下し、額に汗が滲む。
紅い陣の縁が、呼吸のたびに薄く欠けていく。
「……はぁ、はぁ……早めに決めなければ……」
胸を押さえ、息を切らし始めるルゼリア。
額から汗が流れだす。
「頑張って、リア姉!」
負担を負っている姉分を気遣うライナ。
短期決戦を迫られる姉妹。
大軍に押され、戦況も拮抗する。
保管術具を守る大樹は本能で戦う。偽りの樹木らしい戦い方で。
根――大管がうねり、数を増やして前線を押し返す。
それを弾き防戦一方のルゼリアとライナ。
紫電をほとばしらせ、火炎を撒き、迎撃を続ける。
大樹はポオォォ!ポオォォ!と嘶き続け、警備術具の群れを指揮する。
それは本命を隠すために、意識をそらすために。
そして、ポオォォオオオ――!!! と大樹は一段と大きな声で嘶いた。
突然、地鳴りが発生する。――震源は二人の足元。
「「――っ!」」
バキバキバキ、ドゴォォン―――—―!
紅い陣の“要”を狙って、大管が石床を砕き幾条も突き上がった。
「そう来ましたか!」
「うわぁぁっ!」
二人は弾かれ、宙へ。
陣が崩れ、魔力の供給がぷつりと断たれる。
保管術具は強かだった。
奸計を敷き、邪魔な陣地を床ごと破砕した。
侵入者が衝撃で浮かび上がる――大樹は即座に追撃の横薙ぎを見舞う。
鞭のようにしなる大管。
ルゼリアは壁へ叩きつけられ、ライナが重なるようにぶつかる。
「ぐっ……!」
「かはっ!」
肺から空気が絞り出され、視界に白が散った。
さらなる追い打ち。大樹は真正面から突き――終わらせに来る。
シュバッ、シュバッ、シュバッ――
二人は鉤爪と大斧で必死に逸らし続けるが、刺突は壁をも抉り、反響衝撃で身体が痺れる。
猛烈な刺突の雨。
弾いた刺突は壁を穿ち、ひびが幾つも走る。
そして――壁が砕けた。
慣性のまま、二人は隣室へと雪崩れ込む。
「がぁっ!」
「くぅぅっ!」
転がり、床に横たわった。
偶然が味方し、隣の部屋に逃れることができていた。
大樹は開いた破口から、逃がすまいとじわじわ距離を詰めてくる。
――陣地は壊した、もう存在しない。
紅と蒼の息が、荒く重なる。
蠢く偽りの樹木の根が這い寄ってくる。




