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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第九章:闇に芽吹く信頼

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◆第206話:獅子と神の子◆

火炎が撒かれ、室内は赤熱を帯びていた。

獅子は首を巡らせ、侵入者を捜す。

眼前に立つのは剣士のみ――もう一人の姿がない。


腹面の副眼が開き、奥の影を捉える。

(ミツケタ……)


濃紺の短衣、杖剣を握る小柄な影。胸を押さえ、息が浅い。


(ゲキタイ)

腹部装甲が、ガシャリと割れ、四門の多列魔導銃がせり出す。


キュイィィィィ――――ン。ダッダッダッダッダッダッダッ!!

多列の砲身が回転し唸りを上げる。


「本当に多彩ですね!」


リゼルは異音に振り向くや蛇行して逃げる。

加速した弾雨が床を縫い、壁を叩く。


「クレセント・フォールド!」


背後に湾曲した透明刃を展開。

金属音が連打で弾け、弾丸はそらされて床に散った。

リゼルの魔核は、じわじわと痛みを蓄積していく。


仕方なく前足を抜け、セディオスの元へリゼルは駆ける。

連射に追い込まれ、獅子の頭を通りすぎる。


弾幕を張るも命中しない魔導の射撃。

短い苛立ちが、獅子の機構をさらに開く。

セディオスは正面に残り、リゼルは獅子の腹下から壁際へ抜ける。


背部の二連巨砲がシャキン、と伸長、照準が収束――。


「まずい!」

セディオスが濃紺の影へ寄るのと同時、砲尾が閃光を吐く。


ドン、ダアァン――!

頭部ほどの砲弾が二条。セディオスは《アルヴェルク》と《ディスフィルス》を背合わせに組み、大剣へ合体させる。


「戦技――ブルート・カウンター!」

一発目は刃で“噛ませ”、角度を奪って——砲弾は床へ叩き落ちた。


「はあはあ……ディメンション・レイズ!」

リゼルは胸を押さえる。断絶線が二発目を貫き、炸裂点をずらす。

重い衝撃が遅れて胸郭を揺らし、白煙が滞る。


グルウゥゥ……。


獅子はリゼルへ視線を固定した。

思い出す、あの大揺れの刻――住処に伝わった異様な魔力の波長。

目の前の杖剣のそれは、ひどく“似ている”。


「……侵入者から、“敵”に格上げ、ですか」

リゼルが息を整える。


「どうやら、気に入らんことがあるらしいな……」

セディオスは汗を落とし、二刀へ分けると握り直す。


獅子が床を裂いて突進。

側腹から大刃が飛び出し、火花を散らす。


「囮を再開します。――クロノ・アシュータ」


リゼルが視界の縁を引き延ばす。

身体動作と反応を押し上げ、低い姿勢で走る。


獅子は壁際を駆けるリゼルを追いかける。

白い研究所を襲った者と同じ魔力波長をもつ者を討つために。

終わりの刻にできなかった、使命を果たすために。


ガション、ガションと走る獅子の背後をセディオスが追う。

「あの巨体で……よく走れるな!」

悪態を付き、比較的無防備な後ろから攻撃を仕掛ける。


それに気づいた獅子は、側腹・大刃の少し上を開口し、二本の杭が収められた箱を両脇から出す。

カチ、カチ、カチ、カチと鳴り、ダダダダッと射出した。

上に放たれた巨大な杭が放物線を描き、セディオスに向かう。


「ちぃっ、まだ武装があるのかよ!」

《アルヴェルク》を盾に魔力を奪い、《ディスフィルス》で受け流す。

火花が線となり、硫黄の匂いが鼻腔を刺す。

衝撃で膝が抜けかけても、踏みとどまる。


前方――獅子の右前足が跳ね上がる。

チョロチョロと這いまわる小粒の敵を全力で潰すために。


攻撃の予備動作を見極め、中級時魔法を唱える。

「クロノ・シフト」


リゼルは必殺の瞬間に二秒間、世界が沈黙する。

ただ一人、前へ走る。


……二、いち、――零。


時間が返り、振り下ろされた前足は空を切る。

だが獅子は先を見据えていた。

振り抜き際、鎌鼬が収束し、鋭い風刃が地を這う。


「はあ!?」


リゼルは先回りの攻撃に声を出す。

咄嗟に空間壁を立ち上げ、直撃を避ける。

だが魔封じの効力で維持が利かない。


空間壁は脆く砕け、軽い身体が床を滑った。

リゼルは肩から叩きつけられ、肺がきしむ。致命傷ではない——だが、視界が白む。


「ぐうぅ……っ」


背を丸めて摩擦で減速。膝で止まり、顔を上げる。

「……意思があるようですね……思考している……」

骨は無事だ——だが肺が潰れ、息が詰まる。


追いかける獅子は間を与えない。

大刃の角度を下げ、床に擦らせ、火花の尾を引いて迫る。


「ごは、がは……厳しいですね……」

幾度の魔法発動で魔核が軋む。


(低級を、あと何度――)

それでも、逃げない。深く息を吸い、吐く。


地鳴りが肩口までせり上がる。巨大な金属刃が視界を満たす。

神の子、リゼルの前に死が迫っていた。

リゼルは、覚悟を決めた。


次回は、『3月12日(木)13時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いします。


本日もお付き合いいただきありがとうございました!

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