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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第九章:闇に芽吹く信頼

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◆幕間:眠っていた獅子◆

遺跡と化した白塗りの研究所。

地下の最奥に籠もる冷気と油の匂い。

壁に刻まれた魔を封ずる文様が仄かに脈打ち、床一面の魔法陣が、眠る獅子にだけ微かな鼓動を与えていた。


獅子型ゴーレムには意思がある。

——正確には、命令と観測のあいだに沈殿した“記録”が、感情に似た影を作る。


長い眠りで記録は朧げだが、白衣の人々がたくさん居たのを覚えている。

初めは首すら動かせなかった。

それでも目の前の人々は笑顔だった。互いに手を取り、抱きしめる者もいた。


**悪くない光景だった**と記録は言う。


やがて体が出来、周囲を見渡せるようになった。

決して広くはない部屋。壁には文様が走り、大きな扉と小さな扉。

毎日のように、足を上げては下げ、飛ぶ獲物を追いかける訓練が繰り返される。


幾たびかの調整ののち、尾がついた。

ビタン、ビタンと床を打つ振動が骨格を伝うのが好きだった――尾を弄ぶのが好きだった。

その光景を見ていた白衣の人々は笑っていた。


時折、住処から出て自身の姿を披露したのも覚えている。

頑丈な透明の壁の向こうには、煌びやかな衣をまとった者もいた。


前足の爪で獲物を裂き、尾ではじき、牙で噛み砕く。獅子にとっては造作もないこと。

観察者の筆記音と、観客の歓声。

透明の壁の両側で、違う熱が渦を巻いていた。


更に時が過ぎ、体中に武装が取り付けられた。

背部に二門の巨砲、腹に多列式の魔導銃が四門、側腹に大きな刃、尾の先には三叉の槍など。

歩くたび、わずかな骨格の軋みが遅れて返る。少し重くなり、稼働確認が必要になった。

負担は増えたが、白衣の人々は相変わらず喜ぶ――笑顔が見える。


**だから、この自分も誇らしかった**と記録していた。


獅子に感情はない——はずだった。

ただ、見て、応じ、記録する。

それでも、居場所と使命は確かにあった。


白衣の人々と同質の生物、人属と亜人属のために戦うこと。

それが獅子に与えられた使命であった。

使命を果たすため、改良が続けられていた――いつか神に反逆するために。


そんな中、地響きが起きた。


天井も床も揺れ、轟音が繰り返される。逃げ惑う白衣の人々。

最後に離れていく、黄緑の長髪に眼鏡の、小さな背中が――二度だけ振り返った。


それを年老いた男が無理やり手を引いていた。

やがて、誰も居なくなる――獅子は置いて行かれる。


獅子はついていきたかったが、住処の大門は頑丈で開かない。

どれほど前足を押しつけても、叩いても門は応えず、どんなに吼えても誰も戻らない。


活力は、砂時計の砂のように減っていった。

そして、伏した。いつの日か白衣の人々が返ってくると信じて。

眼窩を閉じ、長い時を待つ――いつしか、眠っていた。


 ◇ ◇ ◇


瞼が開いた時、眼前には見たことのない二人がいた。

獅子は嫌な何かを感じ、そして咆哮した。

武装を向ける彼ら。


魔法式が回り、牙を向ける。

ここは、誰も戻らなかった“住処”だ。

だから守る——**二度と奪われぬために。ここは、守らねばならない**


咆哮は、眠りを求める獣の子守歌に似ていた。

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