◆第205話:獅子型の人造生命◆
獅子型の人造魔獣は、侵入者を見据えた。
「ガオオオォォォォォン――—―――!!」
威嚇の咆哮。髪が逆巻き、空気そのものがびりびりと震える。
「……動かないんじゃなかったのか?”少年”」
「……聡明なわたくしにも間違いはありますよ、”おじさん”」
互いに一言、火花を散らし横目で睨む。
セディオスは魔剣を抜いて構え、リゼルは杖剣の切っ先を獣へ向ける。
「で、どうする? まずは足から行くか?」
「王道ですね。では、わたくしは左足へ行きます!」
言うが早いか、リゼルは駆けた。
「なっ、あいつめ!」
「利き手じゃないことを願うぞ……」
多くの生物は“右利き”。不利な側を、さりげなく押し付けていく狂信者。
セディオスは《魔剣アルヴェルク=グランドエッジ》のみを握り、右足へ回り込んでいく。
二つの影が迫るのを認め、獅子は右前足を大きく掲げる。
「やはりそうだよな! グローース!」
セディオスは走りながら身体強化を重ねる。
上がった足が振り下ろされる――距離はまだ遠い。
(まだ距離があるのに……まさか……)
爪先から、鎌鼬のような風刃が三つ射出された。
真っすぐにセディオス目掛けて飛んでいく。
「ちぃっ!」
セディオスは一歩沈み、《アルヴェルク》で受け、風刃を裂き、押し返す。
埋め込まれた魔晶が微かに煌めいた。
(あれは、魔力吸収か? 厄介な剣でしたか……)
横目で見抜き、冷静に捉えるリゼル。
「クロノ・アシュータ、ディヴィジョン・ブレイド」
敏捷・思考を加速。さらに《律創杖剣レギオン・セファル》の先端へ空間圧縮刃を這わせる。
相変わらず、魔核に痛みが走る、歯噛みし無視する。
「こっちの足は、いただきますよ!」
杖剣を振り抜き、左足関節へ打撃——
キィィン!
鋼鳴りのような反響に、刃が弾かれた。
「かっったい結界ですね!」
痺れる反動を押し殺し、二撃目——なお弾かれる。
魔核がうまく制御できず、最低限の魔力で構築した刃。
いつもならば結界を裂く、もしくは砕くくらいは、リゼルならば容易いはずだった。
実力が封じられ、防がれてしまっていた。
獅子は右足を着地させ、左前足を持ち上げる。
「早いですね……離脱!」
動作を見て、回避行動をとる。
左前脚でダンッ!と床を力強く踏む。
踏み抜いた床から衝撃波が走り、氷杭が林立し飛び出す。
迫る氷杭を杖剣で弾き飛ばしながら、リゼルは瞼を細めた。
「くッ! 多彩なようですね!」
セディオスとリゼルは一度、壁際で合流する。
「リゼル、先行してくれ」
「わたくしを囮に……ですか?」
ジッと見上げる金の眼。
「威力が足りん。魔剣に魔力を吸わせたいんだ、ちゃんと守るさ」
「ふ~~ん……まあ、乗ってあげましょう」
観念したように肩をすくめ、リゼルは正面から攻める。
後続にはセディオス。
「セディオス、ちゃんと付いてきてくださいよ!——クロノ・アシュータ」
更なる加速。
(魔核が軋む……面倒な!)
胸の奥に、嫌な軋みが走る。
二つの影が一直線に迫る。獅子は口を大きく開け、空気を呑む。
コオォォォォ——
喉奥の砲身が赤熱し始めた。
「!? まずい、セディオス!」
「そのまま突っ切れ!」
背後から疾駆する二刀の気配。
キュウウウゥ——————
吸い込んだ空気を圧縮。
そして――
ゴゴォォォ——!!!
灼熱の奔流が吐き出される。視界を焼く火炎放射。
「クロノ・シフト!」
リゼルは“自分以外”の世界を、二秒だけ止めた。
止まった業火の尾を抜け、足元を滑らせるように射貫く導線を通す。
——ニィ……イチ……ゼロ。
世界が解け、音が戻る。
火炎はなお吠え続けているが、眼前に残った影は剣士ただ一人。
「あっつぅぅ!」
獅子の腹まで逃げたリゼル。
業火の放熱に焦がされ、声を出していた。
「おおおっ! アルヴェルク、切り裂け――!」
《アルヴェルク》で迫りくる火炎の流れを“割る”——魔力を裂き、そのまま吸い上げる。
炎は剣先を中心に左右へ割れ、灼熱の風がセディオスの頬をなぶる。
「ぐおおっ、あっちいいいい!」
熱波までは防げない。
「ラティス・シェルド!」
《魔導充式剣ディスフィルス》を薙ぎ、結界の刃で自身を包む。
断ち割られた炎の壁が、ようやく沈黙した。
シュウウゥ——
赤熱が退き、ガゴォン、と獣の口が閉じる。
「はぁ……はぁ……流石にきつかったな」
《アルヴェルク》の魔晶は魔力を取込み、わずかに輝きを取り戻し始めている。
その頃、前足の間を抜け、腹の下に隠れるリゼルは胸を押さえていた。
「時を止めるだけで……この痛み」
汗が額からぽたり。
「中級が、せいぜいか……厳しい……」
火炎を切り裂かれ、獅子は低く唸る。
グオオオ——ン。
背の砲塔が微かに回頭し、側腹の刃がわずかに覗く。
「はは、機嫌が悪いな……まだまだ、やるぞ!」
セディオスは二刀を構え、踏み込む。
巨大な獣は、巣を荒らす小動物を見る目で睨み下ろした。
その眼窩の魔法陣が、じわりと回転速度を上げる——。




