◆第203話:人属と亜人属の合同研究の果てに◆
四日目の遺跡探索。
巨大な門の前に立つ、軽鎧の男と杖を持つ中性的な子。
「今まで以上に、絵合わせ石板が多いですね。三種類ですか……」
「まあ……この程度……容易いですが♪」
カシャ、カシャ――と、リゼルが次々と看破していく。
間もなく解錠が完了。
ビキ、ビキキ……ズズズズッーーーーー。ガコンッ!――巨大な門は左右に分かれ、滑り開く。
「いい手際だな……」
「動かす方が時間かかりますよ」
二人は中へ踏み入った。
中はとても広く、見せ物小屋と思われる大広間以上であった。
「……明らかに危ない感じだな」
セディオスはこれまでにない異様な空間に警戒を強める。
「この遺跡の”本命”と、ご対面ですかね?」
リゼルは嬉しそうに声を出す。
「……何知っているのか、おまえは?」
明らかに情報を握っている声色。
セディオスは回答を求めた。
「ええ、知ってますよ。それは、もう正面にいるようですね……」
リゼルは嗤い、紹介するように掌で中央の影を差す。
視線の先――広間の中央に、大きな影があった。
何かの構造物であった。
セディオスは警戒しながら歩み、リゼルはそれについていく。
その目の前には――
“獅子を模した”巨獣――人造生物『ゴーレム』がいた。
床に伏せ、動かない。伏してなお、セディオスより大きい。
「……何だこりゃ……」
「……なんとも興味深い……」
セディオスは唖然とし、リゼルは目を輝かせる。
「動かないだろうな……」
眠っているかのような獅子を見て警戒を強める。
「この都市は朽ちて百年は裕に越えてますからね、流石に……」
そう言って、リゼルは獅子の面をぺちぺちと叩く豪胆さ。
「………」
「………ね?」
剣士はいつでも抜ける構えのまま、無邪気な“子供”は動かぬ巨像を見て微笑む。
「はあ~~これが、この研究所の意義か?」
「でしょうね、実に見事な造形です」
朽ちた研究所の奥底、研究者の活動の粋が目の前で眠っていた。
セディオスとリゼルはようやく、回答を目の前にした。
「……人造生物の研究をしていた……で合ってるな?」
セディオスが読んできた資料を思い返し、リゼルに答えを求める。
「……まあ、いいでしょう。合ってると思います。目的は我が神、ヴァルザ様との戦争を終わらせるためでしょう」
「資料には、『人属の魔導技術』と『亜人属の魔核工学』を併せる、大規模研究とも書いてありましたね」
「忠実な命令を励行、単独行動可能、ある程度の意思を持つ――といったところです」
リゼルは自分なりの結論を開示した。
「もっとも、ヴァルザ様は気づかれて、この都市を滅ぼしたようですけどね。その遺産がこれなんでしょう」
歴史と探索の帰結。
これまでの資料を読み漁り、どこかに残っているとリゼルは理解していた。
だからこそ、セディオスと協力してここまでたどり着いていた。
「なるほどな、研究者たちも口惜しかっただろうな……」
セディオスが横目で“少年”を見る。
そして、堂々と伏している獅子に視線を向けた。
(この研究で注目すべきは、”ある程度の意思”を具現化する魔力供給機構を兼ね備えた……『人造魔核』)
(それは、偽りの知能ともいえるし、魂の器ともいえる……その現物を手に入れたかったのですがね……)
リゼルは周囲を見渡す。
部屋の壁に発光する術式が描かれている。紋様が大きく、光が濃い、恐らくは空間転送移動を封じる盗難防止。
一段と警戒が強い階層だと感じた。
「ここが終着点か……こんなもの持ち帰れないな」
依頼の内容を思い出すが、既に研究資料は幾つか入手していた。
ルゼリアとライナにも期待できるため、見切りをつけるセディオスであった。
「魔封じが邪魔で、転移は……無理でしょうね……」
リゼルも同じく周囲の封印を見て、あきらめる。
「もう、この遺跡に用はないな……ルゼリアとライナを探して出るか……」
依頼は果たしたという口調でセディオスは方針を固める。
「そろそろ、わたくしたちの関係を戻さないとね?」
リゼルが怪しく微笑み、軽口を叩いてくる。
二人は新たな方針を掲げ、未踏の扉を探すことにした。
「まずは……ここを出るか」
セディオスが巨大な門の方に戻ろうと反転する。
リゼルはついていくために踵を返した。
その時——手に持っていた《律創杖剣レギオン・セファル》が眠っている獅子の鼻先を掠めた。
ただ掠めただけであった、リゼルは気にも留めていなかった。
だが――これがいけなかった。
触れた瞬間、獅子の鼻先の紋様が淡く走った。
まるで、魔力を嗅ぎ取ったかのように反応した。
突然、床に刻まれた魔法陣が静かに点灯し始める。
コオォォォン――――――、と聞き慣れない低音が唸り出す。
獅子の伏す床が、わずかに震えた。
パラ……パラリ、天井から砂粒が落ちてくる。
二人は異変に気づく。
「「……!?」」
パラ、パラ、パラ。カッ、カラン、コロン――。
グッ、ゴッ、グガガガガァン!——ゴキン!。ガギン!
石くずが落ちる、”何か”が軋む音が響く。
ゴゴゴゴゴゴゴォォ―――――
”何か”が明らかに動く音に変わっていく。
セディオスとリゼルは恐る恐る後ろを振り返る。
すると――
眠っていた獅子型ゴーレムが起動し、屹立していた。
瞼が開き、眼窩に魔法陣が渦を巻く。
「これはまずい!」
「逃げましょう!」
二人は入ってきた門へ向かって走る。
しかし、獅子の起動に呼応して、巨大門がゆっくりと閉じ始めていた。
間に合わない――そう悟っても、走るしかなかった。
ダンッ――前脚が一歩。床が揺れ、巨体が身震いする。
まるで本物の獅子のように挙動する。
四肢が軋み、爪を出す――脚部稼働、異常無し。
背部の二門の大砲が開口——主砲、異常無し。
側腹から大刃が伸長——側部刃、異常無し。
口腔奥で砲身が覗く——副砲、異常無し。
尾が節を鳴らし三叉槍へ展張——近接槍、異常無し。
カシャン!——ガガコンッ!——ジャキーン!——ガゴッ!——チャキッ!
各部が動くたびに聞き慣れない稼働音が、けたたましく室内に木霊する。
搭載武装の自己診断が続く。
そして、ひとしきり完了。
最後に――「ガオオオォォォーーーーン!!!」と咆哮する。
セディオスとリゼルは壁際でそのすべてを見届けた。
完全覚醒の瞬間であった。
『人属の魔導制御 × 亜人属の魔核工学』の技術より生まれし人造生物。
合同研究の結晶が、壁際のセディオスとリゼルを“獲物”として視認した。
――実力を縛られた戦いが、いま始まる。




