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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第九章:闇に芽吹く信頼

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◆第203話:人属と亜人属の合同研究の果てに◆

四日目の遺跡探索。

巨大な門の前に立つ、軽鎧の男と杖を持つ中性的な子。


「今まで以上に、絵合わせ石板が多いですね。三種類ですか……」

「まあ……この程度……容易いですが♪」


カシャ、カシャ――と、リゼルが次々と看破していく。


間もなく解錠が完了。

ビキ、ビキキ……ズズズズッーーーーー。ガコンッ!――巨大な門は左右に分かれ、滑り開く。


「いい手際だな……」

「動かす方が時間かかりますよ」


二人は中へ踏み入った。

中はとても広く、見せ物小屋と思われる大広間以上であった。


「……明らかに危ない感じだな」

セディオスはこれまでにない異様な空間に警戒を強める。


「この遺跡の”本命”と、ご対面ですかね?」

リゼルは嬉しそうに声を出す。


「……何知っているのか、おまえは?」


明らかに情報を握っている声色。

セディオスは回答を求めた。


「ええ、知ってますよ。それは、もう正面にいるようですね……」

リゼルは嗤い、紹介するように掌で中央の影を差す。


視線の先――広間の中央に、大きな影があった。

何かの構造物であった。

セディオスは警戒しながら歩み、リゼルはそれについていく。


その目の前には――


“獅子を模した”巨獣――人造生物『ゴーレム』がいた。

床に伏せ、動かない。伏してなお、セディオスより大きい。


「……何だこりゃ……」

「……なんとも興味深い……」

セディオスは唖然とし、リゼルは目を輝かせる。


「動かないだろうな……」

眠っているかのような獅子を見て警戒を強める。


「この都市は朽ちて百年は裕に越えてますからね、流石に……」

そう言って、リゼルは獅子の面をぺちぺちと叩く豪胆さ。


「………」

「………ね?」


剣士はいつでも抜ける構えのまま、無邪気な“子供”は動かぬ巨像を見て微笑む。


「はあ~~これが、この研究所の意義か?」

「でしょうね、実に見事な造形です」


朽ちた研究所の奥底、研究者の活動の粋が目の前で眠っていた。

セディオスとリゼルはようやく、回答を目の前にした。


「……人造生物の研究をしていた……で合ってるな?」

セディオスが読んできた資料を思い返し、リゼルに答えを求める。


「……まあ、いいでしょう。合ってると思います。目的は我が神、ヴァルザ様との戦争を終わらせるためでしょう」

「資料には、『人属の魔導技術』と『亜人属の魔核工学』を併せる、大規模研究とも書いてありましたね」


「忠実な命令を励行、単独行動可能、ある程度の意思を持つ――といったところです」

リゼルは自分なりの結論を開示した。


「もっとも、ヴァルザ様は気づかれて、この都市を滅ぼしたようですけどね。その遺産がこれなんでしょう」


歴史と探索の帰結。

これまでの資料を読み漁り、どこかに残っているとリゼルは理解していた。

だからこそ、セディオスと協力してここまでたどり着いていた。


「なるほどな、研究者たちも口惜しかっただろうな……」


セディオスが横目で“少年”を見る。

そして、堂々と伏している獅子に視線を向けた。


(この研究で注目すべきは、”ある程度の意思”を具現化する魔力供給機構を兼ね備えた……『人造魔核』)

(それは、偽りの知能ともいえるし、魂の器ともいえる……その現物を手に入れたかったのですがね……)


リゼルは周囲を見渡す。

部屋の壁に発光する術式が描かれている。紋様が大きく、光が濃い、恐らくは空間転送移動を封じる盗難防止。

一段と警戒が強い階層だと感じた。


「ここが終着点か……こんなもの持ち帰れないな」


依頼の内容を思い出すが、既に研究資料は幾つか入手していた。

ルゼリアとライナにも期待できるため、見切りをつけるセディオスであった。


「魔封じが邪魔で、転移は……無理でしょうね……」

リゼルも同じく周囲の封印を見て、あきらめる。


「もう、この遺跡に用はないな……ルゼリアとライナを探して出るか……」

依頼は果たしたという口調でセディオスは方針を固める。


「そろそろ、わたくしたちの関係を戻さないとね?」

リゼルが怪しく微笑み、軽口を叩いてくる。


二人は新たな方針を掲げ、未踏の扉を探すことにした。


「まずは……ここを出るか」

セディオスが巨大な門の方に戻ろうと反転する。


リゼルはついていくために踵を返した。

その時——手に持っていた《律創杖剣レギオン・セファル》が眠っている獅子の鼻先を掠めた。

ただ掠めただけであった、リゼルは気にも留めていなかった。


だが――これがいけなかった。

触れた瞬間、獅子の鼻先の紋様が淡く走った。

まるで、魔力を嗅ぎ取ったかのように反応した。


突然、床に刻まれた魔法陣が静かに点灯し始める。

コオォォォン――――――、と聞き慣れない低音が唸り出す。

獅子の伏す床が、わずかに震えた。


パラ……パラリ、天井から砂粒が落ちてくる。

二人は異変に気づく。


「「……!?」」


パラ、パラ、パラ。カッ、カラン、コロン――。

グッ、ゴッ、グガガガガァン!——ゴキン!。ガギン!

石くずが落ちる、”何か”が軋む音が響く。


ゴゴゴゴゴゴゴォォ―――――

”何か”が明らかに動く音に変わっていく。


セディオスとリゼルは恐る恐る後ろを振り返る。

すると――


眠っていた獅子型ゴーレムが起動し、屹立していた。

瞼が開き、眼窩に魔法陣が渦を巻く。


「これはまずい!」

「逃げましょう!」


二人は入ってきた門へ向かって走る。

しかし、獅子の起動に呼応して、巨大門がゆっくりと閉じ始めていた。

間に合わない――そう悟っても、走るしかなかった。


ダンッ――前脚が一歩。床が揺れ、巨体が身震いする。

まるで本物の獅子のように挙動する。


四肢が軋み、爪を出す――脚部稼働、異常無し。

背部の二門の大砲が開口——主砲、異常無し。

側腹から大刃が伸長——側部刃、異常無し。

口腔奥で砲身が覗く——副砲、異常無し。

尾が節を鳴らし三叉槍へ展張——近接槍、異常無し。


カシャン!——ガガコンッ!——ジャキーン!——ガゴッ!——チャキッ!


各部が動くたびに聞き慣れない稼働音が、けたたましく室内に木霊する。

搭載武装の自己診断が続く。


そして、ひとしきり完了。

最後に――「ガオオオォォォーーーーン!!!」と咆哮する。


セディオスとリゼルは壁際でそのすべてを見届けた。

完全覚醒の瞬間であった。


『人属の魔導制御 × 亜人属の魔核工学』の技術より生まれし人造生物。

合同研究の結晶が、壁際のセディオスとリゼルを“獲物”として視認した。

――実力を縛られた戦いが、いま始まる。


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