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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第二章:雷と炎が交わる刻

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◆幕間:剣の届かぬ場所で◆

炎と雷が庭で激突し、轟音が館を揺らしている頃、セディオスは二階の私室の窓を開け、じっとその光景を眺めていた。

窓枠を強く握りしめ、指が痛くなる。それでも力を緩めることはできなかった。

全盛期ではなくなった剣士は歯がゆさを噛み殺しながら、焦げていく庭を見つめていた。


「俺の魔核さえ無事なら、止められたのだろうか……」


魔哭神との戦いで、魔力生成器官たる魔核は深く傷を負った。

今はもう痛まない胸を、癖のように押さえる。セディオスは奥歯を噛みしめた。

痛みはない。ただ、空洞みたいな“鈍さ”だけが残っている。


在りし日を想い描くセディオス。全盛期ならば止められたと考えていた。

「まあ、根本解決にはならないだろうな……」

しかし、力づくで止める考えは間違いであると即座に思い直す。


「ライナもルゼリアも、想いは強い。いずれぶつかるのは必然だからな……」

言葉だけなら、遠くから姉妹喧嘩を見守る父のようだった。

最近、ルゼリアとライナの関係が悪くなっているのは気づいていた。


しかし、“神の子”同士の諍いともなれば、尋常では済まない。

窓の下では、庭が見る間に荒れ果てていく。

木々は焼け倒れ、雷と炎が撃ち合うたびに、二人の小さな身体が痛みをこらえて、それでも立ち上がる。

もはや“庭先”ではなく、立派な戦場だった。

そこは、どれほど鍛えた剣を振るおうとも、今の彼には届かない場所でもあった。


「……まずいな、あいつら本気だ」


窓枠を掴んだ指先に、さらに力がこもる。

今からでも飛び出して、無理やり引きはがさなければ――焦燥が胸をただただ焦がす。


だが、足は床から離れなかった。

目の前で繰り広げられている“喧嘩”の前に、彼は足一本、踏み出せずにいた。


「……情けない話だな。世界の危機には突っ込んでいけても、家族の喧嘩には近づけないとは」

苦い笑いが漏れる。雷鳴に掻き消されたその呟きは、誰にも聞こえない。


再び轟く爆音。

窓の向こうで、雷槍と炎柱が激突し、夜空が白く塗り潰される。


(止めたい。止めてやりたい。――けど、それは俺の役目じゃない)


胸の内側が、きゅうと縮むように痛んだ。

あの二人が何を抱えているか、すべてを知っているわけではない。

だが、エクリナのために、己の存在理由を賭けていることだけは、痛いほど分かる。


(“王の一番でいたい”って気持ちは、分からなくもないさ)


かつて、自分もそうだった。

戦功を上げれば、誰かが褒めてくれる。

功績を重ねれば、居場所ができる――そう信じて、剣を振るい続けていた。

けれど帰る場所はなくなり、名誉も、家族も失った。


「……あいつらは、俺なんかよりよっぽどましだ」


あの二人には、叱ってくれる王がいる。

守ってくれる末妹がいる。


「エクリナ……ティセラ……頼んだぞ。俺には見守ることしかできない」


静かに呟き、セディオスは窓の外をじっと見つめる。

かつて世界を救ったその刃は、今はただ、鞘の中で静かに眠るだけだった。

それでも、雷と炎の向こうにいる家族を、信じることだけはやめないと、彼は心の中で固く誓っていた。


そのとき、戦場のさらに奥で、空を震わせる深い闇の気配が、わずかに膨らみ始めていた。

それにだけは、さすがの彼もまだ気づいていなかった。

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