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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第九章:闇に芽吹く信頼

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◆第196話:信用の在りか◆

静寂が支配する研究所。

その一角、魔導術具開発の工房。

セディオスとリゼルは、それぞれの距離で眠りに落ちていた。

仄かな明かりしかない空間では、時の流れは不明だ。


リゼルは焚き火がくすぶる前で、膝を抱えて眠っていた。

セディオスは少し離れた工房の角、外套を巻き付けて暖を取っていた。


眠る少し前にさかのぼる――


セディオスをジッと見つめるリゼル。

「わたくしに興味があるのは分かりますが………」

自分自身が可愛いと理解しているリゼル。


怪しく嗤うと――


「近づきすぎたら……分かりますよね♪」

リゼルは見逃していなかった。セディオスの視線が、刹那――自分の顔に吸い寄せられたことを。


(信用……するわけがない)


今日再会したばかりの敵。

供物は問題なかっただけとも考えられる。まだまだ警戒しているリゼルだった。


笑顔で威嚇する。

眠れば隙が生まれるため、距離を取りたいリゼルは言い放った。


それは――セディオスも同様だった。

(……都合がいいな、俺も同感だ)


当然、奇襲を恐れていた。

実は――先ほどのリゼルの肉薄はかなり驚いていた。

一瞬、目を離した隙を付かれ、首を狙われたのだから。


敵同士の二人、思惑は一致、離れたいのは当然だった。


「当たり前だ」

リゼルの提案に乗るセディオス。

寝首を掻かれたくはない――利害は一致していた。


燃え盛る焚き火の前を陣取るリゼル。

「わたくしの場所ですよ?」

実に図々しく言う。


「……好きにしろ……」

呆れたセディオスは、監視が利き、防御しやすい隅に身を寄せる。


なかなか寝付けない二人。

というより、早く相手が寝てほしいと願っていた。

戦い、走り、警戒し、それなりに疲労している。


早く眠りたいのは一致していた。

それでも、眼前に、同じ空間に――敵がいる。

信用してはならないという考えも一致していた。


(………仕方がありません)

リゼルは膝を抱えたまま、目を落として呼吸だけを整えた。


(面倒だな……)

セディオスは剣を抱き、背を壁に預ける。

まぶたを伏せても、指先は柄から離さない。


牽制し合うこと数刻――。

焚き火がパチ、と小さく爆ぜた。

それを合図にするように、微かな寝息が重なり――意識は遠のいた。


気づかぬうちに一日目が終わる。


 ◇


――そして今。

目を覚ませば、二日目の始まりだった。


ゆっくりと目を開き、視界の少し先で眠っているリゼルの姿を認めて、セディオスはわずかに安堵する。


「恐らく朝だろう………」


セディオスは、消えそうな焚き火に近づき、薪をくべる。

パチパチと音を出しながら、火力が戻る。

小鍋を出して湯を沸かし始めた。


リゼルの眠りは深かった。

セディオスが焚き火に近づくのも全く気付いていなかった。

湯が沸騰し、茶を入れる頃――リゼルがようやく目を覚ました。


「んあぁ……もう朝ですか………」


目をこすり、状況を把握しようと瞬きを重ねる。

セディオスはその姿を見て、ライナのようだなと内心微笑みながら見ていた。


「体調は……問題なさそうだな」

セディオスは木製のカップをリゼルに差し出した。


(何も……されてないようですね。しかし……わたくし、眠り過ぎです)


寝首を掻かれる恐れがあったのに、何も起きていない。――その“安堵”を、リゼルは内心で叩いた。

喉元と装備の位置を静かに確かめ、平静を装う。


「……こほん、今日もご苦労様です」

謎にねぎらう狂信者、まだ少し寝ぼけているらしい。

渡されたカップの縁には、こげ茶色の焼き菓子が乗っていた。


「いい香りです、これは?」

ようやく完全覚醒したリゼル。

茶と菓子の香りを確かめ、安全を見極めてから言う。


「ハーブティーとブラウンケーキだ、屋台で買っておいたんだ」

ケーキをかじり、茶を啜るセディオス。


それを見たリゼルは、同じ所作をなぞる。


「おいしい!」


芳醇な香りが口に広がり、温かな安らぎが胸を満たす。

初めてのケーキに感嘆の言葉を思わず出してしまう。


「本当においしい、恨めしいと思うほどに………」

リゼルは少しずつ味わい、噛みしめながら、小さく愚痴を零す。


セディオスは聞き逃した言葉もあったが、その笑顔は見て取った。

――少なくとも、安堵は与えられたと。


そのまま静かに朝食を進めた。

セディオスは食器を洗い、必要な物を《次元重層収納》に戻し、火の始末を行った。

準備が整うと朽ちた工房の開けていない方の扉に向かう。


セディオスは把手に手を掛け、リゼルを見る。

リゼルは静かにうなずき、杖剣を構え警戒する。


扉を開けると――ただただ石造りの回廊が続いているだけだった。

広大な研究所、まだまだ先は長いようだった。

回廊を行く二人。セディオスが先行し、その後ろにリゼルがつく。

二刀を携えた剣士と、神の杖剣を持つ狂信者が慎重に歩く。


壁の下部に淡く光る文様に、リゼルが横目を寄越す。

「……昨日は気づきませんでしたが、魔法を封じる術式ですね……」

顎に指を当て、唸る。


「これほど短く、繰り返して刻んでいるとは………全域で起きているかもしれませんね」

見事だと感心するような声だった。


「……守るべき何かがあるということか……」

依頼の核心を察するように言うセディオス。


「最奥に何か大事なものがあるかもですね? 楽しみではないですか♪」

無邪気に言うリゼル。


「ふん、気楽なものだな……」

それを横目に鼻を鳴らすセディオス。


昨日よりも、距離がほんの少しだけ近い。

少しだけ増えた言葉を交わしながら、二日目が始まった。

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